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小説Cross Ballade 第10話『岐路』
けいおん!×SchoolDaysクロスオーバー小説、第10弾。

今回は誠の父親が登場し、唯に情欲を見せたもんで対立と。
誠の成長の上で、父親と父親から受け継いだ呪われた血筋は大事と思ったんで、登場させることにしたんです。(幾分か伏線は巻いたつもりなんですけど・・・さらに混乱した方がいたらごめんなさい。)

さて、今回は秋山澪・西園寺世界・田井中律・桂言葉と周りの関係を紹介。


秋山澪と周りの関係
律や世界・言葉よりも目立つように描き、準主人公としてのポジションにしたつもりです。
もちろん繊細なイメージを残しながら、冷静さと暖かさの両面を持った人物として描いています。
(ちなみに言葉との関係は、初期の段階では百合っぽくしてみようとも考えていたんですけど・・・
読み返すと普通の同性の友達っぽいなあ。)


唯との関係
軽音部仲間で友人。
誠との関係は目を細めてみているものの、そのことで言葉と対立していることには心を痛めており、しばしば彼女と言葉の喧嘩を仲裁する。

律との関係
軽音部仲間で幼馴染。
しばしば言葉との仲をからかわれるが、基本的にはお互いのことを心配しあう親友的存在。

紬との関係
軽音部仲間。
彼女の百合志向に、多少呆れている。

梓との関係
軽音部後輩。
基本的には慕われているが、言葉を必要以上に気にかける澪にたいして、不満をぶつけたことがある。

誠との関係
言葉の彼氏として、多少気にしている。
ただ、態度をはっきりさせない彼に苛立っており、誰が好きなのか問い詰めたこともあったが、基本的には誠自身の意思を尊重して、答えを出すのを待っている。

言葉との関係
一目会ったときから、特別な感情を抱いていた。
言葉が襲われそうになったのを助けてからは仲良くなり、同性の友達のような関係になる。
ただ、言葉の誠に対する執着には違和感を抱いている。

世界との関係
1度誠との関係に関して質問しようとしたことがある。
それ以外は接点なし。

七海との関係
直接的には接点がないが、言葉のフォローに回っていることがばれており、彼女につけ狙われるようになる。

刹那との関係
接点なし。


西園寺世界と周りの関係
何気に放課後ティータイムファンクラブ会員1号。
クラスのムードメーカーでありながら打たれ弱く・・・というと描写が難しいとも感じられましたね。
最終的には自分と止の関係を見抜き、不本意ながら自分の思いを唯に託す形で撤退していますが。
(律との関係がポイント・・なんだけど、やっぱり同性の友達みたいなやり取りか。)


唯との関係
最初は誠の浮気相手として、あまり好意を持っていなかったが、
彼女の無邪気な笑顔にはとてもかなわないと確信。
加えて沢越止と自分の関係を察知し、自分の思いを彼女に託すことになる。

澪との関係
一度誠との関係に関して、聞かれたことがあった。
それ以外は接点なし。

律との関係
『面白い人』
前から軽音部には興味を持っていたが、特に彼女とは同じジブリ好き、K-POP好きですぐに打ち解ける。
だが誠への思いは理解されておらず、多少反発している。(最終的に受け入れたが)

ムギとの関係
ムギが七海に何かされたことを察しており、心配は抱いているものの、誠への思いも振り切れず、積極的な干渉はしていない。

梓との関係
自分と誠の関係を気にしているということで、特殊な思いを抱く。
自分と沢越止に『ある関係』があることを、彼女に打ち明けている。

誠との関係
当初は誠の恋人だったが、彼の煮え切らない態度からしばしば衝突し、ついに絶交状態になる。
その後彼が気になって家に出向くも、唯の無邪気な笑顔に対する劣等感、さらに止との関係を見破ったことから、彼のことをあきらめてしまう。

言葉との関係
最初は誠に彼女を紹介するという友人関係だったが、世界が誠と男女の関係になって以降は険悪な間柄に。
最初は必死に言葉に誠を取られないようにしたものの、曲折の末、今度は自分があきらめるという形になった。

七海との関係
同じクラスメイトで友人。
ただ、彼女の嫌いな人間に対する徹底した冷淡さを止めることも。

刹那との関係
同じクラスメイトで幼馴染。
黙っていてもお互いの心を読み取れる。


田井中律と周りの関係
4人の中では1番目立たなかったかも。もうちょっと3枚目に描いていたらまた違っていたかもね。
それにしても今回は、相手に手を出すシーンが多いなあ。
大雑把だけど仲間思いな姉御として描いてみたのですが・・・どうでしょう?


唯との関係
軽音部仲間で友人。
彼氏づくりに熱心な律は、しばしば唯と誠の間をからかっていた。
ただし沢越止に会ってからは、誠に近づかないほうがいいと考えるようになる。

澪との関係
軽音部仲間で幼馴染。
彼女と言葉の関係を多少からかうことも。

ムギとの関係
軽音部仲間で友人。
原作でも接点は少ない。

梓との関係
軽音部仲間で後輩。
唯と誠の関係に嫌な予感を察知した梓をなだめたことも。

誠との関係
唯が気にする相手として、ちょっと興味を持っている。
だが唯や澪ほどには好意を持っておらず、加えて世界への仕打ちに怒りを覚え、一度彼を殴ったことがある。
(ただし趣味は同じようだ)

言葉との関係
胸が大きいことや、澪とすぐに親しくなったことから、彼女に多少嫉妬している。
一応『友達』と言ってはいるが、澪ほどには好意を抱いていない。

世界との関係
ムードメーカー同士ですぐに意気投合した。
ともあれ彼女の誠への思いはまだ理解しておらず、いらぬアドバイスをして反発を食らうことも。

七海との関係
ムギの憧れと言うことで、最初は一緒に古今東西ゲームに興じるなどいい関係だった。
だが、ムギを裏切っていじめの片棒を担がせようとしていることを知り、怒りを感じる。

刹那との関係
後輩の梓と、仲の良い存在であると見抜いている。


桂言葉と周りの関係
序盤は出たり出なかったりだったけど、結局最後は唯のライバルとしてのポジが確定。
唯からすればライバルだから、ただ単に引っ込み思案ないじめられっ子だけじゃなくて、厭味な策士としての一面も見せたけど・・・。
(不発に終わった策が2つ。卵を投げないで。)
精神崩壊はもう少し先の話。楽しみにしていようがしていまいが、どうかよろしく。


唯との関係
恋のライバル。
最初は敵意むき出しだったが、学祭1日目にはそれを少し和らげている。
ただ、いち早く唯が誠と意気投合したことから嫉妬心もあり、あの手この手で唯を誠から離そうとする。

澪との関係
同性の友達のような関係。
しばしば恋の相談に乗ってくれたり、唯との喧嘩を仲裁したりしており、慕っている。

律との関係
一緒に誠の家で食事を取ったことがある。
誠を責めていたことから、律には言葉はあまり好感を抱いていない。

ムギとの関係
唯と言葉の修羅場に立ち会わせている
それ以外は接点がないが、言葉にはあまり好感を持っていない。

梓との関係。
唯と言葉の修羅場に立ち会わせている。
それ以外は接点がないが、言葉にはあまり好感を持っていない。

誠との関係
登下校の電車で居合わせた中で、世界の紹介で付き合い始めた。
擦れ違いがあったものの、曲折の末、誠とは家族ぐるみの付き合いになっている。
誠の思いに関しては、彼女は頑固なことが多く、いまだに振りきれていない唯や世界をなんとかして遠ざけようと思っている。
ある意味では執念とでも言うべき好意だろうが。

世界との関係
一度は友達となり、彼女を通じて誠を紹介されたが、世界が誠と男女の関係になったことを知ってからは、険悪な間柄に。
世界が誠をあきらめたことを知っても、非常に冷めた態度をとっていた。

七海との関係
中学時代の同級生。
だが、七海の嫌いな相手に対する冷淡な態度から、お互いに嫌悪している。

刹那との関係
同じ学級委員。
一度窮した言葉に、アドバイスをしたことがある。


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テーマ:二次創作小説 - ジャンル:アニメ・コミック

【 2012/06/10 22:44 】

| 小説 『Cross Ballade』(けいおん!×SchoolDays小説) | コメント(0) | トラックバック(0) |
小説 Cross Ballade 第9話『嫉妬』
けいおん!×SchoolDaysクロスオーバー小説第9弾。

うちの家族が
「キャラ関係が複雑すぎて、メモしながら読んでいるから、相関図見せて」と言ってきたことがある。

まあ、関係が多いということは、ドラマをより面白くできると思っていたんだけど、混乱している方がいたら申し訳ない。
適度なキャラ量と、きちんとしたキャラわけを行いながら、頑張ってきたつもりなんだけどね。
てな訳で、もう一度キャラを整理するね。

まず、けいおんキャラ。(桜ヶ丘高校生徒とその関係者)
主要人物
平沢唯(主人公)・秋山澪・田井中律・琴吹紬・中野梓
平沢憂・・・も入れたいな。初期の段階で二大敵役の一人だったし。というわけで6人。

その他の人物
山中さわ子・鈴木純 
計8人。


次に、School Daysキャラ。(榊野学園生徒とその関係者)
主要人物
伊藤誠(主人公)・桂言葉・西園寺世界・甘露寺七海・清浦刹那の5人。

その他の人物
澤永泰介・黒田光・沢越いたる・桂心 
計9人。

合計すれば16人。
これだけいると混乱する人も出てくるわな・・・。
とりあえず、主要人物の10人(憂を除く)だけに絞って動きを見るのもよいかと思います。


今回は2人の主人公・平沢唯伊藤誠の周りとの関係について記しておきます。
他の人物は日を改めて。
pixivでもきりがいいところで、キャラの相関関係載せようかな・・・。
混乱する人もいるのかと思うし・・・。

平沢 唯
けいおんサイドの主人公。

この物語では、子供っぽさやいちずさ、純粋さを強調したつもり。
誠との恋関係がキーポイント。(というか中心。)

澪との関係
同じ軽音部員であり、友人。以前から唯と誠の仲に興味を持っており、恋が成立してほしいと純粋に思っていた。
しかし誠が言葉と付き合っていたとわかって以降は板挟みとなり、しばしば唯と言葉の喧嘩を仲裁する。


律との関係
同じ軽音部員であり、友人。最初は誠との仲をからかわれていたが、榊野学祭に参加してからは本気で心配されるようになる。

紬(ムギ)との関係
同じ軽音部員であり、友人。おっとりぽわぽわした態度に和みを抱くこともしばしば。

梓との関係
軽音部の後輩。『あずにゃん』と呼んでかわいがっているが、梓の誠に対するつっけんどんな態度には違和感を感じている。

憂との関係
妹。しっかり者の妹にいつも助けられることが多いが、今回は姉への愛情が屈折していることに関して不吉な予感を覚える。


誠との関係
初恋の相手で、ひそかだが熱烈な思いを寄せている。
横恋慕だとわかりながらも接近し、ついにキスまで交わした。
最初は『伊藤君』と呼んでいたがその後は『マコちゃん』にかわり、誠の彼女になろうとアタックを続けるが・・・。


言葉との関係
恋のライバル。
誠をめぐって衝突することもしばしばだが、言葉に危機があった時には彼女のために泣いたり、誠に言葉のもとへ行くように勧めたりと、言葉ほどには敵意は抱いていない。

(ちなみに公式設定上は、身長が同じ166cm。)


世界との関係
もう1人の恋のライバル。
1度は唯を警戒して近づけないようにさせていたが、この話で世界は、言葉よりは唯のことを認めるようになる。

七海との関係
世界と誠が付き合っていた時に、近づこうとして七海に止められたことがある。
それ以外は接点がない。

刹那との関係
接点なし。


伊藤 誠
School Daysサイドの主人公。

この物語では、原作やTV版よりクレバーだが、家族に反発したり、将来を案じたりと、様々な感情を持ったキャラクターとして描いたつもり。


唯との関係
唯のアタックに最初は戸惑っていたものの、だんだんと彼女とその笑顔に惹かれていく。一方で世界や言葉も気にしてはいるものの、自分の中でどんどん唯が大きな存在になっていること、純粋な心を取り戻させてくれる存在だと気づいている。
そのなかで、さらに迷うことになるが・・・。


澪との関係
言葉と親しくなった数少ない女の子として、一目おいている。
言葉に似た容姿、理知的だが控えめな態度をちょっと気にしている。

律との関係
世界の友人と見て、しかも澪と律が同じ軽音部員という奇妙な関係に驚いている。
世界がいながら二股かけたことに怒りを覚えられ、一度頬を殴られたことがある。

紬との関係
接点なし。

梓との関係
自分をめぐる悪い噂で完全に嫌悪されている。
しばしば誠に喧嘩を売る態度を見せるが、何とか流している。



言葉との関係
もともと憧れの存在。世界の仲裁で紹介されてから付き合い始めた。
しかし触れ合うことを極度に嫌う性格からすれ違いが起こるものの、修復を求められ、その応対に答えることになった。
そして世界と唯が離れたことから、一度は言葉とやり直す決意を新たにしたものの・・・。


世界との関係
同じクラスメイトで、席が隣同士。
世界の紹介で言葉と付き合ったが、言葉とのトラブルから『触れ合う練習』を持ちかけられ、それがもとで男女の関係になる。
以来、世界と付き合うことになるが、誠の煮え切らない態度に怒りをあらわにされ、絶交状態になるが・・・。


七海との関係
クラスメイト。
しかし誠の煮え切らない態度に苛立っており、しばしば彼を『優柔不断のカイショウナシ』と酷評して文句を言っている。
世界にも「別の男にすればいい」と勧めたこともあるが、基本的には彼女の意思を優先させている。

刹那との関係
クラスメイト。
学級委員として、しばしば彼を仕切るが、基本的には彼のことが好き。
ただし世界のために身を引いているが、「誠の意思が大事」と、彼の態度にも静観を続けている。



次回は律・澪・世界・言葉から見た相関の予定。


ところで、この話で出てくる『こう見えてアンマン』は
ハマダルコラと大森いく子の『笑うスイーツ』に出てくる菓子。
自前で作りました。
こう見えてアンマン『笑うスイーツより』

家族に大ウケです。


てなわけで、二人の妹に導かれ、再び平沢唯伊藤誠は出会うことに。
仲の良い2人を、秋山澪桂言葉はどう見る・・・?
*******************************************************************************************************

第9話『嫉妬』


「お姉ちゃんから、手を引いてくれますね。」
誠の目の前で、いたるに包丁を突き付ける憂。
生唾を飲み込みながら、誠は静かに、しかしはっきりと、言った。
「・・・手を引かなくても、唯ちゃんはすでに『ごめん』と言っています。」
「・・・。」
「確かに、二股をかけた状態で唯ちゃんをその気にさせたのは申し訳ないと思ってる。
でも、唯ちゃんへの思いは、本当だったんです。
世界や言葉だって同じだった・・・。
誰を一番に取ることもできないまま、ずるずるずるずると流された揚句、この状態になったんですけどね。
それに・・・悪いのは俺一人で、いたるには何の罪もない。
いたるは命を奪われる理由なんて、何もないのに!」
すると、憂はくすくすと笑いながら、
「貴方が命を亡くしたところで何も変わりません。死なんて一瞬の痛み。
それよりも、貴方の大切な人を失わせて、生き地獄に突き落とすのも悪くないと思って。」
「・・・正気・・・ですか・・・。」
「正気です。」
「そんな・・・。」
呆然とする誠。
くすくすと笑う憂。
と、その時、
ドンッ!!
後ろから体当たりを受け、憂は思わず包丁といたるを手放す。
「いたる!!」
あわてて誠は、前方に飛んで来たいたるを腕にキャッチする。
包丁のほうは、床を大きく弾んで、やがて動きを止める。
誠はいたるが生きているのを見て、大きく安心のため息をついた。
「いたるちゃん、大丈夫!?」
声をかけてきたのは、言葉の妹、心。
「心ちゃん!?」
向こうを見ると、憂が両腕を抑えられ、騎乗位で言葉に組み敷かれていた。
「離して! 離してよ!!」
「いったいどういうことですか!? 誠君の妹、それも子供を盾にとって!?」
つかみ合う腕を振り回しながら、があがあと2人はわめいている。
「サンキュー、言葉!」
「あ、いえ・・・急いできて、何やら騒がしいと思ったから・・・。」
言葉は相手の手首を抑え、ぐっと力を入れていく。
バタバタする憂の手足が、だんだんと静まっていく。
やがて動きが、止まった。


「平沢さんの妹だそうですね。・・・とりあえず、秋山さんに連絡を。」
そうしたほうが、いいだろうな。
「ほ、包丁どうしよう・・・?」
包丁を取った心はおびえながら話す。
「とりあえず、俺が預かる。この子とはじっくりと話したい。」
誠は、とりあえず気分を落ち着けた。
なるほど、憂は、信じられないぐらいにうなだれてしまっていた。
「あ・・・う・・・。」
その時、腕の中のいたるが寝がえりをうった。
「いたる?」
「あ・・・おにーちゃん・・・?」
薄目でいたるは、呟くように答えた。
「良かった・・・無事だったんだ・・・。」
急にいたるは元気になって、誠の首に飛びつきながら、
「おにーちゃ! ハンバーグたべれる?」舌っ足らずな口調で話しかける。「あれ、このおねーちゃ、だれ?」
いたるが指さしたのは、憂。
「あ・・・それは・・・。」
憂が襲ったことを、覚えてないのだろうか。
「いたる・・・何も覚えてないのかい・・・?」
「うーうん、おにーちゃんのおうちにきたら、きゅうにあたまがいたくなって、それっきり。」
どうやら、あまりに唐突だったので、その場の記憶がないらしい。
「この人はですね・・・。」
言いかける言葉を誠は制し、
「この人は俺の親友の妹さん。あ、それとこっちは、俺の友達の・・・」
「彼女です。」言葉は遮る。
「頼むよ、恥ずかしいから・・・。」
顔を赤らめる誠に、言葉は
「いいじゃないですか。」
と制して、「いたるちゃん、よろしくね。」と腰をかがめ、いたるの頭をなでる。
「はーい、よろしく!」
いたるの笑顔に、誠も思わず表情をほころばせた。
それを見て、言葉の表情が急に曇る。
「言葉?」
「誠君・・・正直・・・今の誠君の笑顔を見てると・・・。」
「言葉・・・?」
「・・・平沢さんの影が、ちらついてならないんです。
誠君の笑顔が、そのまま、平沢さんの笑顔に見える。」
「そう? 唯ちゃんの笑顔、やっぱりいいよな。」
にっこりして、誠は家へと入っていった。はしゃぐいたるの手を引いて。
憂はうなだれたまま、その後に従う。
「何してるの? お姉ちゃん、入ろうよ。」
心が言葉に声をかけるが、
「・・・誠君の彼女、私だよね・・・・。」
ぼそぼそと言葉は呟く。
「お姉ちゃん?」
「あ、ごめん、心。入ろうか。」
にっこりと笑顔を見せて、彼女も心と一緒に家へ入る。
そして携帯を取り出し、澪に電話し始めた。


風がゴトゴトとなる中。
整理された部屋。つややかな木の床。
丸いテーブルに向かい合うように、ソファーが置かれ、そこに放課後ティータイムが並んで座っている。
ここは唯の家のリビングだ。
ムギを除いた皆で、明日のことについて話し合っていた。
純はすでに帰ってしまっている。
「とりあえずよ、みんな自由行動でいいんじゃね?」
あっけらかんと、律は結論を出した。
「そうはいきませんっ!」
梓はいかにもヒステリックだ。
「何でだよ。」
「あんな荒んだところ、私も先輩達も行ったらどうなるか! 私、本当に先輩達が心配なんですよ!!」
「いーじゃんか、彼氏づくりには持ってこいなところだしよ。」
律はへっへと笑う。意に介さないようだ。
「それに私も、」澪が穏やかな口調で、「伊藤と桂のことが気になるし。ちょっと2人を見てみようと思うんだ。」
「・・・マコちゃん・・・。」
ポケットの中のものを気にしながら、唯は聞こえないように呟く。
梓はさらに顔を青ざめ、
「ますます嫌ですよ!! もう伊藤や桂に近づくのはやめてくださいよ!!」
「梓・・・。」
「澪先輩! あんなに榊野に行くの嫌だったじゃないですか!! どこに行っちゃったんですか、あの時の澪先輩は!?」
「ま、住めば都って奴だろ。」律は腕組みしながら、「成長したと思うぜ、澪も。その荒んだところに行っても動じなくなったんだからよ。」
「おねがいですからー! 私は本当に・・・!」
さわぎたてる梓の隣で、唯はうつむいたまま、無言になっている。
今更自分が行っても、もう誠は・・・。
「唯。」
「澪ちゃん。」
澪は、唯の心を読みとおしたかのように、
「伊藤のこと、あきらめてないんだな。」
「・・・そうだよ・・・。」
「なっ!?」ますます梓は血相を変えて、「何であんな奴が好きなんですか!? 二股も三股もかけるような、」
「梓!」澪は梓をたしなめ、「唯、あの時、『ごめん』って言ってたから、てっきりあきらめたのかと思ってたぞ。」
「あの時は、頭の中を整理できなかったから。」指をつんつんしながら、唯は言った。「あの時はあの人が傷ついているのを見て、あの人の汚点に気づいたけど・・・。
やっぱ、忘れられないよ。」
「・・・なんだったらさ、唯も榊野に行ってみたほうがいいと思うんだ。」
「いいの!?」
「いいのって、それは個人の自由だと思うぞ。」
澪は憐れむような目つき。それでも気遣っているのだと、唯は判断している。
「私はあくまで反対です。」梓は唯の肩をつかみ、「あんなところに行って、あんな野郎に会ったら、唯先輩はどうなるか!」
「あずにゃーん、あずにゃんはマコちゃんに直接会ったわけじゃなくて、又聞きで評判を聞いているだけでしょ。マコちゃんのことわかってないよ。」
「・・・一応、あの時の修羅場は横で聞いていました、甘露寺と。」
「つーか澪、」律は耳をほじくりながら「んなことしたら、桂が黙っちゃいないだろう。」
「それは、そうだけど・・・。」澪は困惑顔になり、「桂には以前話したけど、私は唯の友達でもあるし、唯の好きなようにさせてやりたいんだ。」
「って、こういうのはやめさせるのが真の友情でしょ?」
「そーだそーだ、それにそんなあいまいな態度じゃ、伊藤になっちまうぞー!!」
「それは伊藤に失礼。」
ふとその時、澪の携帯から着信が届いた。
「はい、秋山です・・・桂・・・? え、はい・・・・なんだって・・・・!?」
受話器を取った澪の表情が、どんどん強張っていく。
「あ、うん。ちょうどそこに唯もいる。わかった。すぐ向かうから。 場所は・・・原巳浜か・・・ああ。桜ケ丘駅から乗れば30分ぐらいだと思う。ありがとう。」
電話を切って、切羽詰まった表情で
「憂ちゃんが、伊藤の妹さんを人質にとったそうだ。唯から手を引かなければ、妹さんの命を奪うって・・・。」
普段温厚な唯の顔から、血の気が引いて行った。
「憂・・・!? どうして・・・!?」
「幸い、通りかかった桂が憂ちゃんを取り押さえて、妹さんも無事らしい。」
「待って!! どこ行けばいいの?」
「原巳浜駅から、歩いて5分ぐらいのところらしい。」
「そうか・・・いそごう!!」
マコちゃん、怒ってるだろうな。
唯は心が痛くてしょうがない。
ガン! ガン! ガン!
急に壁から大きな音がしたので、そちらを向く。
リビングで、梓がガンガンと壁に頭突きをしている。
「い・・・い・・・いいかげんにしろォォォォォ・・・・!!」
男のような低い唸り声。
思わず悲鳴を上げながら後ずさりする澪を、律と唯は抑えて、
「梓こわいぞ・・」
「そんなにいやなら、あずにゃんは行かなくてもいいってば・・・。」
「いいです、行きますから。」
むくれた表情で梓は従う。
律は携帯を取って、ムギに電話をするが、
「どうしたんだ、ムギの奴も・・・・連絡が取れない・・・。」
「とりあえず、私は行く!」
リビングを飛び出す唯を、
「まて、分からないだろ!? 私が道を桂に聞くから。」
澪が追いかけた。


整理されているが、小さな電球がともるだけの簡素なリビングでは、4人がけのテーブルに丸椅子が追加され、5人座れるようにセッティングされている。
下座で憂が抜け殻状態でうなだれている。斜向かいの席でいたるは、心と指遊びをしている。
「ねーねー、おねーちゃん、おねーちゃんもあそばないのー。」
いたるが屈託のない笑顔で憂に問うので、心はぎょっとなり、
「お、大人しくしててよ・・・この人には関わらないほうがいいって・・・。」
「なんでー?」
「いいから。 さ、遊ぼう。」
いたるは、うつむきっぱなしの憂を気にしながらも、心と再び遊び始めた。
そんな様子を、奥のキッチンで言葉と誠は見ながら、
「・・・なんか、本当に何も覚えてないみたいですね・・・。」
言葉は顔をしかめて、呟く。
「どうやら、あまりに急だったみたいでさ。その時の記憶はないみたいなんだ。
まあ、凶器はとりあえず預かったし。まあ大丈夫だろう。」
ユニパックに入れた包丁を見て、誠は安堵の表情で材料を用意する。
「ずいぶん、落ち着いているんですね。」
一時の沈黙。
驚いていないわけではないが、今日1日は様々なことが起こりすぎて、頭が鈍感になってしまっているのだろう。
それに・・・なんといっても、この子は唯ちゃんの妹。
もうすこし寛大になっても、いい気がした。
「驚いてないってわけじゃないけど・・・・まあ、こうなってもしょうがないかな、と思って。
憂さんの言う通り、二股も三股もかけていた事実は否定できないさ。挙句唯ちゃんにキスされた時も、拒めなかった。」
「あれは平沢さんから、勝手にキスしてきたんでしょ? しょうがないじゃないですか。」
「・・・そうかもしれないけど、唯ちゃんの妹だしね。」
「そうですか・・・。」
エプロンをかけて、言葉と誠は、今晩の料理を作り始めた。
誠は慣れた手つきで、玉ねぎをみじん切りにしていく。
「いたっ!」
「言葉?」
言葉は、どうやら指を切ってしまったらしい。
「マキロンと傷バンならあるけど、使う?」
誠がきくと、言葉は大きな目で、じーっと彼を見つめ、
「傷、なめてほしい、です・・・。」
「え・・・。恥ずかしいよ。それにかえってばい菌が入るだろ。」
「ううん。なめてほしいです・・・。」
誠は困り果て、
「まいったな・・・。」
と呟きながらも、切り傷のある言葉の人さし指に顔を近づける。
「そのまま、目を閉じて、なめてほしいです。」
ずいぶんと注文が多い。
しぶしぶながら頬を染めて、誠は目を閉じ、言葉の傷口にしゃぶりついた。
パシャッ
耳元で、カメラのシャッター音。
「?」
誠は思わず目を開いた。
言葉は後ろ手で何かをしまいながら、
「なんでもないですよ。」
「そう・・・?」
気にしながらも、彼は自分の仕事を進め、あっという間に野菜のみじん切りを終わらせた。
続いて、セイロの横でハンバーグをこね始める。
言葉はそれを横目で見ながら、
「そういえば、ハンバーグにセイロって使わないですけど・・・。」
誠はにっこり笑って、
「これはデザート用。何ができるかはお楽しみ。」
そう言いながら誠は、ひき肉に玉ねぎを混ぜ合わせ、ハンバーグを小さく、沢山つくる。
何とか足りるようだ。
「ずいぶん数が多いですね。」
「ああ。憂さんもいるし。」
「わざわざごちそうするんですか・・・あんなことされても?」
まあ、そうではあるが・・・。
あの後の落ち込みようを考えると、ある意味普通の人間かもしれない。
まして、あの子の妹さん。
少なくともあの顔を見ると、何となくほおっておけない。
「電話と、メール・・・。」言葉が、うつむき加減になる。「平沢さんや、西園寺さんから来ても、取らないでください。」
「え、なんで・・・。」
「着信拒否にしてください。」
彼は唖然となる。
なんだか、自分と付き合うと、みんな同じになるなあ。
「そんなこと言われたって、唯ちゃんと連絡がとれなきゃ、唯ちゃん達はたどりつけないだろう。」
「私が秋山さんと連絡を取り合いますから、大丈夫ですよ。」
いつになく、真剣な目つきの言葉。
「それは、できないよ・・・。」
「え・・・。」
「前に世界にそう言われて、挙句とりみだして分かったんだ。
俺にとっては、世界も唯ちゃんも、もちろん言葉も大事なんだって。」
「そんなの・・・。」
「世界に張られてさ、唯ちゃんにあんなこと言われて、すっごくぽっかり穴が開いた気分になってるしさ。」
「・・・・。
でも、平沢さんにはもう、近づかないほうがいいと思いますよ。」
言葉はそれ以上何もいわず、何かを考えているような表情で、一心不乱に玉ねぎを切り始めた。
機嫌を損ねたか。
でも、仕方ない。
「いたっ!!」
あっという間に彼女、指を切ってしまったようだ。


桜ケ丘から原巳浜までは、およそ30分。
プラットホームの中で、唯は一刻一刻が長く感じられてならなかった。
おまけに通勤客がたむろしている。その隣で、澪、律、梓が何か口論をしている。
唯はこっそりと人ゴミの陰に隠れ、誠への携帯に電話をする。
トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・・
額が、汗ばむ。
一時の、耳元に響く電話の後、
「はい、伊藤ですけど。」
男の低い、でもさわやかな声。
「・・・マコちゃん・・・私、唯。」
「唯ちゃん・・・どうしたの、元気ないけど。」
あんなことをされて、気にしてないのだろうか。
真っ先に気遣ってくれたのは、自分・・・。
「あの・・・ごめんね・・・。憂が・・・妹が迷惑をかけたみたいで・・・。」
「そのことかあ。」
はははと笑う声が、受話器から聞こえる。胸がさらに苦しくなる。
「唯ちゃんは気にしなくていいよ。幸いいたる・・・あ、妹ね。無事だったしさ。」
「ううん、ほんとひどすぎるよね・・・許してなんて、言えないよ。」唯はしゃがれた声で、「・・・怒ってる・・・?」
「怒ってるって・・・・だから唯ちゃんがやったことではないし・・・。」
多少笑いを含む声。
携帯を持つ手に、思わず力が入る。
「・・・マコちゃんは・・・。」
「?」
「・・・優しいよね。」
心から、そう言えた。
「優しい・・・。」受話器の声が、思案するような声になる。「だとすれば、それは相手が唯ちゃんだからかもしれない。他の人なら、たとえ言葉や世界でも、こうはいかないと思う。」
「そうかなあ。」
自分のどこが、マコちゃんをそういう風にさせてくれているんだろう。
考えても、彼女自身にはわからなかった。
「唯、来たぞ。」
澪が声をかけてくる。
我に返って向こうを見ると、銀色、ブルーラインのローカル電車が目の前を横切り、停車した。
「あ、すぐ行くから、待ってて。」
「うん。わかった。せっかくだから、ご馳走食べてかない? 言葉も来てるから。」
「ほんと? ありがとう・・・。」
安堵の表情で、唯は携帯を切り、電車に乗り込む。
顔につけた携帯が、少し濡れていた。


「秋山さんの家は、どこです?」
七海と子分たちに取り囲まれながら、ムギは世界の家の中で、地図を見ていた。
「ええと・・・桜ケ丘の・・・このあたり・・・。」
「わかった。あんた達はそちらをマークして。あんた達は桂を探るんだ。」
七海の子分は、落ち着いてうなずく。
スポーツ特待生で女バスに入ってからも、生徒を仕切っていた七海は、こういうことには如才がないようだ。
「あの・・・私は、どうすれば・・・。」
「ムギさんは私と一緒に、榊野の校門で待機です。」
七海は冷静な口調。
逃げ場はない。
放課後ティータイムの誰かと連絡を取りたかったが、いかんせん携帯が出せない。
せめて、誰か一人でも来てくれたら・・・。
無理だろうか。
「いったい七海・・・何しているのかしら。」
「あれだけの人数を集めているから、大がかりなことだと思う。」
そわそわする光に対し、隣の刹那は、相変わらず無表情。
「世界・・・。」
光が声をかけるが、世界は布団にうつ伏せになったまま、応じない。
と、
「私・・・。」むくりと起き上がり、「私、ちょっと用事思い出した。」
低い声で、つぶやくようにいい、
「言ってくる。」
そう言って、外套を着ると、玄関の方まで急いでいく。
「世界、どうした?」
「用事思い出したんで、行ってくるから。」世界は真顔で、「七海、あまりてあらなことはしちゃだめよ。今日も澤永をそそのかして、桂さんに危害を加えようとしてたって聞いたし。」
「あ、いや、はは・・・。」七海は頬を染めて、「まあ、おいおいな・・・。」
「ムギさんも、無理しなくていいですからね。七海が暴走しそうになったら、止めていいから。」
確信に満ちた口調に、ようやくムギの緊張が、ほどけた。
「あ、待って西園寺さん! 私もついていくわよ。」
「あ、でも・・・ちょっと今日は、1人で行きたいんです・・・。」
「伊藤さんや桂さんのことなら、私は平気です。あまり干渉しませんから。」
「・・・でも、ごめんね・・・。」
懇願するムギに対し、世界は顔を赤らめて断った。
そのまま、世界は夜の闇へ飛び出していく。
再び孤立してしまったムギ。
「どこへ行くんだ?」
「伊藤のとこだね・・・。」刹那は息をしながら、「七海、強引な方法を取らなくてもいいんじゃない。世界の思いが通じて、伊藤と元通りの関係になる可能性もあるわけだし。」
「それもそうね。」
光も同調する。
ムギは無言。
すっかり、物言えば唇寒しになってしまっている。
「・・・うまくいくといいけどねえ・・・相手はあの牛チチ女だよ・・・。」
こめかみをかきながら、七海はつぶやいた。
「とりあえず、万が一の時の作戦。実行するつもりですよ、ムギさん。」
「・・・そうですか・・・。」
ムギは、再びうなだれてしまった。


プラットホームから、海が見える。
ようやく原巳浜駅についた。
「あ、もしもし桂、いま原巳浜についた。」
澪が立ち止まって言葉と電話する時も、誠の家まで、唯は全速力で突っ走っていた。
「おい、待て唯! 大体お前、伊藤の家知らないだろ!!」
息を切らして走りながら、澪は前方の唯に声をかける。
「ううん、こっちがきっとマコちゃんの家だよ!!」
一種の直感みたいなものが、誠に絡むとよく働く。
唯自身、ちょっと驚いていた。
「なんでわかるんだよ・・・あ、桂、今原巳一丁目の本屋の近く。・・・あ、そっちに行けばいいんだな。ありがとう。」
背後で澪の声を聞きながら、唯は直感の導くままに走っていた。


「やれやれ、持って帰っちまったよ・・・。」
風が少しやんだ中。
自宅の玄関の電気をつけながら、泰介はつぶやいた。
黄色く光る部屋に、無数のドラボンゴールのフィギュアが浮かび上がる。
さわ子の左腕を肩にかけながら引きずり、学校から家まで連れてきた。
彼女は弱っているものの、怪我も病気もないので、救急車を呼ぶこともできず、どさくさにまぎれて連れてきてしまった。
弱みに付け込んだ感じである。
さわ子は、
「ああ・・・止さん・・・もっとして・・・。」
相変わらずうわごとを呟いている。
「あー、どうしよ・・・まあ据え膳食わぬは男の恥ともいうし・・・1回だけなら・・・。」
「たーいすけー、なーにやってんのー?」
廊下の奥から声がして、彼の姉が玄関までやってきた。
「あ、姉ちゃん・・・。」
「あら、誰その人。なかなかきれいな人だけど、怪しい人じゃないよね。」
「って、祝福してよ!」泰介は悲しくなり、「学祭中なんだから、彼女ができてもおかしくないでしょ。」
「はいはい、私は美人は信用しない性質なんで。どこの人?」
「どこ、と言われても・・・。」
直感でさわ子と思ったが、それを証明できるものは何一つ持っていない。
もはや破れかぶれになり、さわ子の手持ちのバッグをあさり始めた。
「って、人のバッグを勝手にほじくるな・・・あれ?」
姉は、バッグがら飛び出た一つの写真に目が行き、拾い上げる。
檜の部屋をバックに、桜ケ丘の女子生徒5人とさわ子が、楽器を持ってそれぞれウインクしながら写っている。
「この人、桜ケ丘の人・・・?」
「あ、そ、そうだよ。」泰介は、真ん中に写っている唯を発見し、「あ、それにこの真ん中の子、平沢さんっていうんだけど、誠といい仲なんだよ。」
「伊藤君がねえ・・・なかなかかっこいいものね、あの子。あなたとは違って。」
「一言余計だぜ。」
やっと怪しいものじゃないと、信用してもらえたようだ。
鞄をさらに探ると、身分証明書も見つかった。
『桜ケ丘高校 音楽教師
山中 さわ子』
緑色のカードに、はっきりと書いてある。
「ほら、桜ケ丘の先生だよ。怪しいものなんかじゃないだろ。せっかくだからさ、今晩この人を俺ん所に・・・あ。」
ぐったりしているさわ子を、姉は泰介から奪い、背におぶって、
「私が預かります。あんたと2人にしたら、何するかわからないし。」
「待ってよ! 俺が連れて来たんだし、いいだろ!? それに榊野で童貞卒業しねえと恥ずかしいし!!」
わめく泰介だが、どうすることもできない。


古びたマンションの、銀のドアの前で、唯と澪は、息を切らして停止した。
後から律と梓も追い付く。
恐る恐る、唯は呼び鈴を鳴らした。
ぴーんぽーん。
誠の家の呼び鈴が、鐘をつくように聞こえた。
がちゃっ。
ドアが開くと、出てきたのは、誠。
「唯ちゃん・・・。」
「マコちゃん・・・。」
思わず2人の、声がハモった。
と、唯は耐え切れなくなり、
「ごめんなさいっ!!」膝をついて土下座し、「ほんと、憂が・・・妹が本当に迷惑かけたみたいで・・・!!」
「唯ちゃん・・・だから唯ちゃんがやったことではないんだから、そんな卑屈にならなくても・・・。」
「ううん、妹の不始末は私にも責任があるもん! 本当に・・・本当に・・・ごめんね・・・。」
額を地面に必死にこすりつける唯。
と、左頬がぽっと暖かくなる。
誠が唯の視線まで腰をかがめ、そっと手を差し伸べていた。
「大丈夫。もういいよ。」
顔を上げると、誠は穏やかな微笑みを浮かべていた。
「マコちゃん・・・!」
唯の眼がしらが、熱くなる。
「おにーちゃ! どしたのー!!」
小さな子供の呼び声。
ツインテール、3歳くらいの少女が玄関に立っていた。
可憐で優しい顔だが、前髪などがよく誠に似ている。
「あ、この子が妹のいたる。あ、いたる、この子は俺の友達の、平沢唯ちゃん。」
思わず唯は膝をかがめ。
「ごめんね・・・憂が・・・妹が貴方に迷惑をかけちゃったみたいで・・・。」
何度もぺこぺこ頭を下げた。
「はー?」
いたるはぽかんとした表情。
「ほら、いたるも覚えてないみたいだし、大丈夫だよ。」
「それより、」梓は少し、喧嘩するような口調で、「憂はどこ? 憂のことは申し訳ないと思っているけど、それはそれ。
大体あんたが唯先輩をその気にさせたから、憂もおかしくなっちゃったんでしょ。あの子はお姉さん思いだし。」
「あずにゃん、その気じゃなくて、もともと私から好きになったんだよ!」
たしなめる唯に対し、誠は無言。
ある意味図星なだけに、答えられない。
「・・・まあ、こんなにいらっしゃってたんですね。」
誠の背後から、声。
そちらを向くと、言葉と心。
「桂さん・・・。あれ、そっちの子は?」
「妹の心です。憂さんなら、向こうにいますよ。」冷淡な声、冷淡な表情で言葉は唯を見据え、「全部なかったことにしますから、どうか、お引き取り願いますか。」
「そんな・・・正直、マコちゃんにはホンっとーに申し訳ないと持っているし! 死ぬことだってためらわないくらいなんだよ!!」
「唯ちゃん、だからそんな卑屈にならなくても・・・。」誠は苦笑いしながら、「とりあえず、憂さんもいるし、一緒に食事しない? 今日はハンバーグライスとスパゲッティーサラダだから。」
「ほんとなんだね!! ありがとう!!」
思わず気持ちが浮き上がる。
「おい、遠慮しろよ唯。 いやいや伊藤、悪いよ。」
澪が手をパタパタ振って前に出るが、さらに律が出てきて、
「ハンバーグは私も好きなんだ、食ってみたいぜ!!」
「律先輩も遠慮してくださいよ!!」
たしなめる梓を無視してずいっと進み出た。
「あのね、私、その・・・マコちゃんの手伝いをしたいっていうか・・・。」
唯は指をつんつんしながら、恥ずかしげに囁く。
「え? いや、そんな、悪いよ・・・。」
「でも! でも! 憂のしたこと、少しでも償えればな、と思うし・・・。」
「まあ、」言葉はすました顔で、「誠君に直接手を下すのではなく、誠君の大事な人を奪って生き地獄に落とす、なんて言ってましたけどね。」
唯は胸をつかれた。
床の湿り気がひざを這い上がってきた。
「言葉、それは・・・!」
誠が言葉を抑える前に、思わず我を忘れ、唯は皆を背にして駈け出した。
ドタドタドタ!!
リビングに憂。
「あ、おねえ・・」
パアンッ!
言いかけた憂の頬を、唯は思いっきり張っていた。
憂は椅子から、木の床にどさっと落ちる。
「何でそんなことしたの!?」唯の口調は、自分でも信じられないほど荒い。「そんなことをして、私のためになると思っていたの!?」
「・・・だって・・・伊藤さんが、お姉ちゃんを取っちゃうと思ったから。」
左頬が赤くはれ、憂の目には涙がにじんでいる。
「そんなことはないよ! それに、私からマコちゃんを好きになったんだよ!! 私はあの人を好きになって、嬉しいんだよ!!
なのに、貴方は・・・罪のないいたるちゃんにまで、迷惑をかけて・・・・。」
「・・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・・。」
うつむき加減で、声が震えている。
憂は、かがんでいる唯の胸にこうべを垂れ、すすり泣きはじめた。
昂った思いが、急にほどける。
唯はほほえみを浮かべ、憂の背中に手をまわした。
同時に、ちょっと信じられない思いがした。
今まで、妹を殴ることなんてなかったのに。
生まれて、初めて。
一同もリビングに駆けつけ、唖然としている。
「唯が、殴った・・・。」
呟く律。
「田井中さん?」
「いつも唯って、憂ちゃんの世話になってばかりで、姉としての威厳も全然ねえのに・・・。」
「やっぱり、好きな人ができると、人間って変わるものなんだろうな。」
澪は平沢姉妹を見て、つぶやく。
「唯ちゃん・・・。」
誠は呆然とするが、ふと思い出したことがあり、律に聞いてみた。
「そう言えば、あの人がいないですね。」
「あの人?」
「キーボードが得意で、金髪で、眉がちょっと太い人。」
「あ、ムギか! それがな、甘露寺に連れられて西園寺の所へ行ったきりなんだ。電話しても連絡とれねえし。」
「世界のところか・・・・。何しに行ったんだろう?」
「もとはと言えばあんたのせいでしょ。」梓は詰る。「あんたと唯先輩がキスなんかするから、西園寺も図太ぼろに傷ついちゃったんじゃないの。ムギ先輩はその罪滅ぼしのために、行ったようなもんなんだからね。」
「・・・そうなんだ・・・。」
「私はお暇して、ムギ先輩たちのところに行ってくる。」
踵を返す梓に、
「まてまて、せっかくだから、梓は一緒に楽しもうよ。あたしが行ってくるから。正直西園寺はあたしも気になるしよ。」
律が止める。
「そうですか・・・。」誠はちょっと、残念そうな表情になった。「じゃあ、唯ちゃん達は食べる?」
「うれしい、ありがとう!!」
気持ちの浮き上がった唯は、思わず誠の腕に抱きつく。
思わず顔を赤らめる誠。
と、
ぐいっ!
唯の腕を、言葉がすごい力で、引き離していた。
2人に向かう、冷たい眼光。
「「・・・・!」」
すまんねと、澪が言葉に謝る。
最後に残った律と梓。
ふと、梓の携帯から着メロが流れ、それを取ってみる。
「ん・・・?」
「どしたあ、梓。」
「清浦から、メール。・・・西園寺がこっちにきてる!?」
「なんだって? ・・・わかった、私もここに残る。」


街灯が暗い夜道を、明るく照らす中。
自宅から最寄りの駅まで、世界は一心不乱に走り続ける。
道行く人は、大学のアベックもいれば、仕事帰りのサラリーマンもいる。
それをかき分けかき分け進み、ようやく駅にたどり着いた。
すると携帯から、
『♪抱きしめてミスター つかまえてミスター♪』
KARAの着うた。
「誠!?」
蜘蛛の糸のような希望にすがり、世界は画面も見ずに通話ボタンを押した。
「おいーす、さーいおーんじー。律だぜー。」
間の抜けた声が、耳に。
「田井中さん・・・?」
急に気持ちがしぼむ。
「梓から聞いたよ。伊藤とのところに向かってるって?」
「何で知ってるんですか?」
「清浦が梓にメールしてきてな、それで分かったのさ。
あんたもこりないねえ・・・浮気した元彼を慕って、また出直してくるなんて。」
「・・・そんなの、どうだっていいじゃないですか・・・人の恋愛に、いちいちちょっかい出さないでください・・・。」
律の言葉に、多少癪に触りながらも、ゆっくり世界は答えた。
「いや、実はあたしたちもちょっとした用事で、伊藤ん所に来てるんだよ。」
「な? どうして?」
「どうも憂ちゃん・・・あ、唯の妹ね。そいつが伊藤の妹を人質にとって、唯から手を引けと伊藤を脅したそうなんだよ。」
「・・・そうなんですか? 平沢さんの、妹さんが・・・。」
信じられなかった。
「幸い、桂が憂ちゃんをおさえて、一件は落着したけどな。伊藤の奴、やってきたあたしたちもついでに誘って、みんなで食事会をすることになったのさ。」
「そうですか。誠も、よく平沢さん達を誘いましたね。」
「そんだけ伊藤も、唯が好きなんだろ。それに桂や澪もいるから、望みは薄いと思うけどな。」
ごもっともである。
さらに気持ちが、しぼんでいった。
「だーいじょうぶだ、伊藤なんかよりいい男は、生きてりゃそのうち会えるって。あんたは結構いろんな人にコクられてんだろ? はっはっは。」
あっけらかんと笑う律が、何やら腹立たしい。
「やめてください。ずっと前から私は、誠のことが好きだったんです!」
「あー・・・。」
「・・・もう、乗り掛かった船です。駅まで来ちゃいましたし。」
「そうかい・・・。あ、それとよ。ムギはどうしてる?」
「ムギさんですか・・・・?」
あの人がつらい役割を、七海に頼まれていることには、薄々彼女も感づいている。
だが・・・七海も、自分のためにそれを行っている。
・・・・・
「・・・ムギさん、結構つらい表情をしていました。きっと、望まない役割を引き受けることになって。」
「え・・・?」律は何かを察したらしく。「あ、あんたたち、ムギに何をしたんだ!? 甘露寺も黒田も清浦も、何をしたんだよ!?」
「・・・わからないです・・・。ただ、今度会ったら、はげましたほうがいいと思いますよ。
そして誰か一人、ムギさんのそばにいていたほうが。」
「まて! 何があったのか全然わからねえ!!」
「わからなければ、いいです。
それと、秋山さんは桂さんから手を引いたほうが、身のためになると思います。
あ、電車が来た。きりますね。」
「・・・わかった。あたしは西園寺の家に向かう。」
「え? でも、場所知らないでしょ。 模手原坂下からすぐなんだけど。」
「・・・そうだったな・・・。」
少し呆れて、世界は通話をオフにする。
『貴方が誠君のことを嫌いになった以上、誠君も貴方のことを嫌いになったでしょう。』
言葉の言が、頭の中で響いた。
「大丈夫、だよね・・・。私が誠のことを好きならば、誠だって・・・。」
つぶやいてから、電車に乗り込んだ。


誠はあらかじめ、何人来ても対応できるように、ハンバーグを小さくたくさん作っていた。
ハンバーグが好物であるいたるはちょっと不満だったが、誠が自分の分を妹に渡したことで、落ち着いた。
席が少ないのが気になったが、とりあえずソファーを使って、何とか間に合わせた。
憂はいまだに落ち込んだままだが、梓が隣で慰めているようだ。
律、心、いたるが食事をしながらだべっている中で、誠はデザートを作っている。
3人とも、子供のように(心といたるは子供だが)はしゃぎまわって、誠の部屋に行ったり来たり。
「お、漫画! おお、『ワンピーク』『ヒューヒューハクション』『くろうにん検診』。全巻揃えてんなんてすごいじゃねえか!」
「んー、なんだかわからないけど、おにーちゃんはすきだって・・・。」
いたるにつれ沿う形で、誠の部屋に行く律。
「勝手に人の部屋に入らないでくださいよ・・・恥ずかしい。」
「そうだぞ律。大人しく食事しなって。」
「いいじゃねえかよ。それに恥じるものなんかねーぞ。ワンピークは私も好きだしよ。」
赤面する誠と、注意する澪にも、律は動じない。
「ま、はまる物にははまるんですよ、俺も。」
ため息をつきながら、セイロを使って料理を蒸している誠。
梓はむしゃむしゃ、ハンバーグを早食いしながら、
「おいしい・・・。あ、ま、誰にでも何か取りえがあるもんですね。」
「梓。」
澪が仲裁するが、誠は多少癪に触りながらも、
「そりゃあね。のび太だってあやとりと射撃が得意なんだし、ドラボンゴールのハムチャだって、野球がうまいだろ。」
とりあえず流す。
と、唯がそばに来た。
スパゲッティーサラダのクリームが、口の周りについている。
「あれ、唯ちゃん?」
「マコちゃん・・・私に、何か手伝えることある?」
潤んだ目で、ドキドキしながら言っていることに気付いた。
思わずぞくぞくしながらも、誠は
「あ・・・そうだな・・・じゃあ、この生地にごまをのっけてくれる?」
「う、うん!」
「それより、口にクリーム付いてるよ。」
「あ、ごめん・・・。」
誰も見てないのを見計らってから、唯は・・・。
誠の頬に、キスをした。
胸の高鳴りが、さらに激しくなる・・・と、急にひやり。
言葉が、冷たい視線で彼を見ていた。
・・・・。
澪が彼女を引っ張って席をはずした後も、彼は冷たい気持ちに、震えた。
「マコちゃん、こんなんでどう?」
唯が明るい声をかけてきたので、思わず我に返る。
座敷わらしのような笑顔である。
「あ、いいじゃないか。じゃあ今度は、生地をセイロの中に入れてくれる?」
笑顔の唯と向かい合うと、意識しなくても笑顔が出る。
だから、妹のことも許せたんだろうと、彼は改めて思う。
生地をセイロの中にほうりこむ。
唯と見て、一緒にくすくす笑いあった。


「ほんと、すまなかったな・・・。憂ちゃんがいたるちゃんに迷惑をかけちゃったみたいで。おまけにごちそうまでしてもらって。」
食卓から少し離れた、お風呂場の更衣室で、澪は言葉に声をかけた。
「・・・終わったことは、もういいですから。正直、憂さんだけ迎えて引き取ってほしいところでした。」
横顔、思案顔で、言葉は答える。
「それにしても、相変わらず唯には冷たいんだな。」
「当然です。あそこまで誠君とくっついてくるんですから。」
澪は肩をすくめて、
「正直、貴方の独占欲が強すぎるんじゃないのか?」
「独占はしたいものです。誠君の彼女は、私ですから。」
「・・・まあそうか。しかし、私達が帰ったあとで、ゆっくりと過ごせばいいんだと思うんだ。」
「・・・。」
「唯はただ、好きな人にスキンシップをかける癖があるだけで。伊藤は桂とのほうが付き合いが長いんだから。」
「・・・貴方は、分かってません。」
「え・・・?」
「私が、手を握られるのを怖がってる間に、西園寺さんは誠君を取ろうとした。同じようなことが、また起きないとも限らないんです。」
「・・・・。」
「節度ってのを、明らかに破ってるでしょう、平沢さんは・・・。」
「・・・そうだけどな・・・。」
言葉の疑りの目が、今度は澪に向く。
「秋山さんも・・・どうして、止めないんですか・・・?」
思わず澪はそむけ、
「私は・・・唯の気持ちも大事にしたいし・・・。正直、伊藤がもう少しはっきりしてくれるといいんだけどな・・・。」
「誠君は、優しすぎますから。」
「はあ・・・。」
「その分は私が、誠君にちょっかいを出す女の子を近づけないようにしないと。
もう少し平沢さんは、許そうかなと思ってたんですけど。」
苛立つ言葉の表情に、澪はひやりとしながら、
「頼む・・・唯はそんな奴じゃない・・・。」


やがて唯と誠が、キッチンから顔を出す。
「みんな! 食後のデザートだよ!!」
緑の花で彩られた皿の上に乗っていたのは、10センチくらいの大きさの、ブタ顔の饅頭が何個も。
「ひょえーっ!!」
「かわいー!!」
律と心がすっとんきょうに声をあげる。
「すごい・・・。」
それまでうつむいていたばかりの憂が、思わず饅頭を持ち上げた。
押麦と黒ゴマで、つぶらな目がつけられ、細く伸ばした生地で鼻がつくられ、両脇に耳がちょこんとでている。
白い生地から、ふわふわ湯気が出ている。
「これでも中身はアンコ。名づけて、『こう見えてアンマン』。」
ニコニコしながら、誠は発表する。
「うわ、フェイクかけるのが憎いな・・・。」
「伊藤さん・・・私も食べていいんですか。」
おどおどした表情で、憂は言う。
「いいよ。」
「ホント! ありがとうございます!!」
「いいですけど、残して下さいね。」心がませたことを言う。「お姉ちゃんや、秋山さんもいるんですし。」
「はい・・・。」
みんなで、むしゃむしゃとアンマンを食べ始めた。
唯と誠は、それを微笑みながら鑑賞し、
「可愛く出来たよね。」
「そうだねー。」
にっこりと笑う唯。
それを見て、誠は今までの唯の表情を、くるくると思い返した。
必死に謝った時の、あの泣きそうな顔。
憂さんに平手打ちした時の、あの真剣な表情。
そして、心からの笑顔。
全てがいちずで、穢れがない。
汚したくない。
心から誠は、そう思った。
「本当にありがとね! マコちゃん!!」
唯は誠の首に腕を回そうとして・・・。
両腕をつかまれた。
続いて、横でえへんえへんと咳払いの声。
言葉が、2人の横にいた。
唯の腕を掴んで。
澪も不安げな表情で、彼女の隣にいる。
「平沢さん・・・少し2人で、話しましょう。」
低い声。


唯と言葉がでていったリビングで、澪は、
「お互い譲れないみたいだな・・・。」
誠は無言で、あらかじめ皿に盛っていたハンバーグとスパサラダを口にする。
「言っとくがね、」律は両腕を頭に組みながら、「西園寺もこっちに来てるみたいなんだ。いい加減はっきりしねえと、痛い目にあうと思うぜ。」
「世界が・・・わかってますよ・・・。」



「あのですね、平沢さん。」
誠の家の外で風を浴びながら、言葉は唯に、
「貴方が誠君に会うのは許したいんです。秋山さんのこともありますし。
でも、誠君は私と付き合っているんだから、あまりくっつくのは、やめてくれませんか・・・。」「・・・それは、どうかな・・・。」
重い口調で、唯は答えた。
「誠君も私が好きですし。貴方はあくまで『友達』です。」
「それは・・・分からないと思うけど。」
相変わらず疑心的な目を、唯はちらちらと目をそらしてかわす。
「わかりますよ。誠君のこと一番わかっているの、私ですから。」
「そんなことはないと思う。
だって、憂があんなことしても、マコちゃんは笑って許してくれた・・・。
それは、憂が私の妹だったから。あの人や貴方じゃそうはいかないって、マコちゃんは言ってた・・。」
言ってみただけだったが、誠の思いが自分に向いていると、唯は信じたかった。
「誠君は、すごく優しいですからね。」多少嫉妬の混ざった目で、言葉は、「でも、私には、キスしてくれました。」
「キスなら、私だって・・。」
「いっぱいですよ。」
「そんなの・・・。」
「唇だけじゃなく、胸も、おへそも、おなかも、背中だって・・・。」
「え・・・?」
唯は、嫌な予感を感じた。
「証拠だってあるんですよ。」
得意な表情で言葉が携帯を取り出した時、
ドッドッドッ・・・!
何やら階段を全力で駆け上がる音が聞こえる。
そちらを向くと、階段から1人の小柄な少女が飛び出し、2人の目の前で停止する。
「・・・西園寺さん・・・。」
「貴方はあの時の・・・。」
呆然とする言葉と唯に対し、世界は大きく息をして、
「はあ、はあ、はあ・・・2人とも、やっぱりいたのね・・・。」
ぎこちない微笑み。
「もう、誠には許してもらえないとは思ってるし・・・まだ誠への未練を残しているというわけではないけど・・・あれから誠、どうしてるかな、と思って。」2人の視線から目をそむけながら、世界は言う。「いじけてさ、1人で部屋に引きこもってるかなーって、思ってたんだけど、貴方達がいるとはね。まあ田井中さんから聞いたけど。」
それを聞いて、ぷっと唯は吹き出して、
「要は西園寺さんも、マコちゃんのことをあきらめてないんだよね。」
「バッ・・・! なんてこと言うんですか!!」
「ならば、戻ってくる必要ないじゃない。」
なんだかおかしくて、思わずくすくすと笑ってしまう。
世界の顔は赤く、言葉は相変わらずの冷ややかな視線。
「ちょうどいいですね。西園寺さんも、みたほうがいいです。」
携帯を取り出し、カメラのデータを開く。
言葉が2人に見せたのは、誠が彼女の指にキスをしている写真。首から先しか映っていないが。
・・・というのは見せかけで、先ほど彼女が怪我したときに、誠が傷をなめているところを撮ったもの。
「「・・・・!!」」
「誠君、私の指をこんなに夢中になって吸うんです。」
「そんなの・・・。」
世界は目をそむけつつ、でも声は明らかにテンションダウンしている。
「指にキスって、王子さまがお姫様によくやるよね・・・。」
唯はショックというより、妙に興味深げな表情になった。
ちょっと変わったキスだと思っている。
言葉は浮かない表情になる。
やはりこれだけでは、不足か。
唯は、元気のない世界と、少しがっくりしたような言葉の顔をかわるがわる見て、思わず言ってしまう。
「ねえ・・・西園寺さんも桂さんも、『勝っても負けても遺恨なし』ってできない・・・?」
張りつめた空気が、さらに怪しくなった。
「・・・それができないから、こうやって修羅場ってるんじゃないですか・・・。」
世界は、思わず呆れてしまった。
「ま、まあとりあえず、マコちゃん待ってるからさ、とりあえず食べようよ。」
唯はにっこりと笑う。
世界も、思わず顔を赤らめた。
「・・・とりあえず、田井中さんじゃないけど、腹を割って話したほうがいいかもしれませんね。」

廊下を走る唯を背に、世界は、さりげなく言葉に切り出す。
「・・・なんとなく、分かる気がする。」
「え?」
「誠が、この人に惹かれていった理由が。」
言葉の表情が、さらに曇った。
「なんというか・・・あの悪意のない笑顔・・・。あれを見ると、こっちまで心が洗われるような気がして・・・。」
「そうですか?」
「え?」
「平沢さんなんて、駄目です。」
「・・・。」
この人の意固地っぷりも、相変わらずというべきか。


「それにしてもよ。」律はブタ顔のアンマンにかじりつきながら、「結局振り出しに戻っちまったじゃねえか。どうすんだよ、伊藤。」
もっともだ。
自分も相変わらず決めることができないから、同じ賽の目を繰り返している。
「必ず決着は、付けるつもりです。・・・あれ、いたる、心ちゃん?」
2人とも、ブタ顔のあんまんをみつめたっきり、一口も食べていない。
「・・・これ、かわいそうで食べられないよ・・・。」
「あはは・・・そうだね。じゃあ、持って帰るのもいいかもね。」
「いたる、おとーさんにたべさせたくない、これ。」いたるは不満げだ。「あ、そうだ。
おにーちゃんにあげる。」
「はは、ありがとう。」
満面の笑顔で、誠はいたるの頭をなでてやった。
それを見つめる3人。
「・・・やっぱり、悪い奴じゃないと思う、伊藤は。」
澪は肩をすくめて、律と梓に話す。
「澪・・。」
「澪先輩・・・。」
まばたきする2人に、澪は続けた。
「ちょっと優柔不断なだけで、誰かを思いやれる心はあると思うんだ。
どれだけ振り出しに戻っても、じっくり、マイペースで決めさせてやっていいと思う。
そうすれば、多分いい形で上がれると思うんだ。」
「?」誠は振り向き、「何か言いました?」
「あ、いや、なんでも。」
澪は、顔を赤らめて答えた。
やがて、3人が戻ってくる。
「世界、どうして・・・。」
世界の顔を見て、誠は思わず言う。
「い、いやあ・・・誠、一人で落ち込んでるかなあって思って、来たんだけど・・・。」
世界は笑いながら、目をそむけた。
「西園寺・・・。」
「田井中さん・・・。」
律は世界に近づく。
「いったい、ムギに何があったんだ?」肩をつかみ、「なあ! 澪や桂のことか!? いったい何があったんだよ!?」
澪と言葉、唯と誠もそれを見て、あらぬ何かを感じ取っていた。
「ムギちゃんに、何かあったのかな・・・?」


「はあ・・・。」
誠の母は、彼に頼まれた買い物を手に提げながら、車を駐車場に停める。
外に出ると、星一つない、灰色の雲が覆う夜空。
マンションの入口に入ろうとすると、
「お前か。」
と低い声。
振り向くと、長髪で縞の皮ジャン、筋骨隆々な男がいた。
「あなた・・・いや、沢越・・・止・・・!」
かすかに寒気、嫌、吐き気すら覚えた・・・。
「何だよその口調は。ただいたるを連れ戻しに来ただけなのにさ。」
鼻で笑いながら、止は濁った眼を彼女に向ける。
「・・・いたるを連れ戻したら、早く帰ってくれる? 誠だってあなたの顔なんか見たくないでしょうし。」
「・・・言われるまでもねえ。」
おたがい淀んだ雰囲気のまま、2人は誠の家へと急いだ。



続く


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久々の青と赤

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【 2012/04/27 20:45 】

| 小説 『Cross Ballade』(けいおん!×SchoolDays小説) | コメント(0) | トラックバック(0) |
小説 『Cross Ballade』 第8話『暗転』
けいおん!×SchoolDaysクロスオーバー小説第8段。


ドラゴンボールとワンピースのコラボをモデルに、この小説を書いた。
最近になって考えているのは相性の問題。
銀魂とSKET DANCEも時代物と学園モノという差があるけど、
作者の空知が学園モノ好きだからねえ。

けいおんとの相性がいいのは・・・俺の妹がこんなに可愛い訳がないかな。
雰囲気にているし。
今回の組み合わせは、雰囲気の差が大きくてちょっと相性悪いか。
でもキャラ特性は意外と似てたから、意外と1対1は組みやすかったんだけどね。
今回はお互い仲良くやるというよりは、
互いに我力をぶつけ合う、全力対全力の殲滅戦という雰囲気。

けいおん風ハッピーエンドにするか、スクイズ風惨劇エンドにするかは、学祭直前まで五分五分で、知恵熱出るぐらいまで悩んだけどね。


暗くはないが、平坦でもない。
そんな物語になった気がするけどね。
個人的には本望かな。
泥にまみれて人は生きていくものだもの。
嵐はこれから。


実を言うと以前話した『1対1』の組み合わせで、一番気に入っているのは『秋山澪×桂言葉』
平沢唯×伊藤誠の主人公組の組み合わせが決まったのは3番目。
ただ2人の共通点をしってからは、ぐっと発想が膨らみました。


さあ、第8弾ですよ。
**************************************************************************************************
第8話:暗転



「誠君、一緒に行きましょう。」
言葉が誠に声をかけて、そっと腕を組んだ。
「ああ。」
誠は、笑顔を彼女に向ける。
が・・・。
唯が2人を、大の字になって遮った。
「やっぱり、だめなの? マコちゃん・・・。」
「ゆい・・・平沢さん・・・。」
唯の悲しげな視線を見て、誠の胸が急に冷える。
「ね、ねえ・・・ならばタイムシフト制にできない? 4時から5時まで桂さんが、5時から6時まで私がマコちゃんと回る、とか。」
「バイトか。」澪の突っ込み。
言葉が唯の前に進み出て、炎が付いた眼光を向ける。
こうなる時、彼女はいつも頑固なのだ。
「平沢さん、学祭で男女2人で回るということは・・・。」
「分かってるよ・・・付き合ってるってことなんでしょ。私も、一緒に回りたいのに!」
「あげるわけには、いきません!」
激しくなった2人の口調。
「落ち着け、唯! 桂!」澪は誠に視線を向け、「伊藤、貴方はどうしたいんだ?」
「・・・それは・・・。」
答えられるわけがない。
真剣な視線で唯と言葉は見るが・・・。
澪の顔を見ると、眉が幾分か寄っている。
『どうもはっきりしねえなあ。』
そういう顔だと、すぐに彼も理解できた。
がちゃっ!!
突然、屋上入口から大きな音。
そちらを向くと、世界。
風が急に、激しくなった。


「どうして・・・。」
低い声で、世界は言う。
「誠・・・どうしてここにいるの・・・。」
「世界・・・。」
誠は、彼女の怒りのこもった瞳から目をそむける。
「せっかく放課後ティータイムの演奏を聴いて、ファンクラブに加入して、学祭で一緒に回るって、約束したよね!?」
「と、トイレが長かったんだって・・・・。」
「誤魔化さないでよ!」世界は進みより、唯に目を向け、「聞いたんだよ・・・・
平沢さんとキスしてたって!」
澪と言葉は、思わず目を見開いた。
「ど、どうして知ってるの?」
唯は思わず、しゃべってしまう。
「やっぱり・・・!」
「世界、それは・・・!」
パンッ!!
あわてて歩み寄った誠の頬を、世界は張った。
「誠・・・ねえ・・・私と初めて結ばれた時、言ったよね・・・? 誠は私のこと、桂さんより好きだって・・・。」
世界の声は、震えている。
「・・・なのに、どうして・・・?」
「・・・それは・・・。」
「私、桂さんの代わりだったの・・・? 桂さんが誠にさせてくれなかったから、私で満たしたかった、ただそれだけ?
それとも、平沢さんが現れるまでのつなぎ? 私のいないところで、ラブラブの登下校をして、喫茶店へ行って・・・。いちゃいちゃ話をして・・・。」
「いちゃいちゃって・・・そんなんじゃない。」
「待ってくれ!」
誠と世界の間に、澪が入った。
「西園寺・・・だったね。」
「貴方は・・・秋山さん?」
「!」
ライブで自己紹介しただけなのに、名前を覚えられていたことに少々戸惑いつつ、
「私が桂から聞いた話だが、」澪は探るような視線で、「伊藤はもともと桂の彼氏だったのを、貴方が伊藤と関係を持って、取ったと聞いた。
そんなはずはないんだがもしそうなら、貴方が一番桂を傷つけているし、伊藤を批判する資格なんてないと思うんだ。」
「それは・・・。」
事実だ。練習なんてわけのわからない理屈をつけて。
誠は言葉をちらりと見る。
助け船が入ったのは良かったが、知られてはならないことまで知られてしまった。
言葉は澪と同じく、探る目。
「おいおい、実際に伊藤は、西園寺のことを好きって言ったんだとよ。」
屋上の入り口から、高い声が響いた。
「田井中さん!?」
「律!?」
世界と澪は、思わずまばたき。
よっと声をかけて、つかつかと律は話に入っていく。
「いやあ、実はね、こいつとそのダチ公がうちのファンクラブに入っちゃってさあ。部長としてはちょっと気になるところなのよ。」
よりにもよって、と思いつつ澪は、
「面白半分で入るな、律。ちょっと込み入ってるんだから。」
と律をたしなめる。
「とにかく、伊藤だったな。あんたは西園寺にも桂にも、好きって言ったんだろ?」
両手を腰に当てて、律は誠を向いた。
「・・・それは・・・。」
そうだ。
「だけどさ、律、先に付き合ってたのは桂なん・・・。」
澪が言いかけた時、世界が声を上げた。
「私・・・みじめじゃない・・・!!」
声は、震えている。目も赤い。
「私の方が、桂さんよりも好きって言われて・・・何度もそばにいて、何度も腕を組んで、何度も身を任せた私って・・・みじめじゃない・・・!」
「世界・・・。」
「あの時もそうだったじゃない・・・。誠が平沢さんや桂さんに目移りしてることをとがめると、逆ギレして・・・。」
「あの時は、申し訳ないと思ってるけど・・・。」
胸がきゅっとなるのを、誠は感じた。
「もういい! 何も信じられないよ!! 嫌い! 嫌い! 大嫌い!!
誠も、桂さんも、平沢さんも、何もかも、みんな嫌い!!」
「せか・・!」
「大嫌い!!!」
頬を赤くして、目に涙を浮かべて、世界は後ろを向く。
「世界!!」「西園寺!!」
誠と律が止めるのも聞かず、つかつかと歩き出す。
風がやんだ。
律が誠に向けたのは、冷たい視線。
怒りをこらえていると、唯にはすぐ分かった。
振り向くと、澪が複雑な表情で、言葉が冷ややかな視線で、世界の後ろ姿を見ていた。


唯達に知られないように、梓と七海は、入口付近に隠れて様子を見ていた。
「どんな悪人面かと思いきや、意外と優男じゃない・・・。」
梓は誠の顔を見て、つぶやいた。
「・・・桂の奴、澤永の足止めを食らったはずがピンピンしてるな・・・やはり失敗したのか・・・。」
七海の呟きを聞いて、彼女は、
『桂と話がしたい』
という澪のメールを思い出す。
「甘露寺、」梓は口を開く。「私には、分からないの。
桂が気に食わないのは私も同じだけど、何でそこまで、追い詰める必要があるのか・・・。」
交わした七海の目は、真剣。
「世界の敵だからだよ。」
「それは・・・そうだけど・・・。」
「あいつ、いまだに伊藤の彼女は私って言ってるからねえ・・・。脳内どうなってんだか知んねえけど。
世界は彼氏でもゆずっちまうような奴だからよ・・・。」
「・・・・。」
「それにしても、桂をかばうあの女も何なんだか。」
「! 澪先輩は違います!! ・・・多分桂が可哀想だと、考えなしに思っちゃって・・・。」
「そう・・・?」
七海は、あごに手をあてる。
と、2人の前に、つかつかと世界がやって来て、通りすぎる。
「世界!?」「西園寺!?」
「私、帰る!」
世界は七海と梓に、これだけ言うと、速足で階段を下りてしまう。
七海の表情が、さらに険しくなったのが、見て取れた。


女癖の悪い、ふらふらした少年・・・。
これで、すべてのいきさつが、唯にはわかる気がした。
世界の気持ちもわかるし、言葉の気持ちもわかる。
でも、この少年を好きになった自分の気持ち・・・。
それは間違っているのだろうか・・・。
「あのね、マコちゃん。」
穏やかな口調で、唯は口を開いた。
正直、今は頭の中を整理できない。
でも、自分の思った通りのことを、語っていた。
「私、すっごく楽しかった。
マコちゃんに会ってから。
あのコンビニで、マコちゃんを見てから・・・。
ううん、マコちゃんに近づいて、そして登下校したり、喫茶店に行ったりして、すっごく嬉しかった。
それだけじゃない。
榊野を通る時はすぐマコちゃんが目に付いたし、途中を歩いていても、マコちゃんのことが心に浮かぶんだ。
放課後ティータイムのみんなで演奏した時も、この演奏をマコちゃんに聴かせたいって思った。
みんなでお菓子を食べあいながら話す時もそう。
お菓子をマコちゃんに食べさせて、お茶飲みあいながら和気あいあいと話して、笑いあいたくなるんだ。
家に帰れば私の部屋をマコちゃんに見せたいと思うし、
ベッドに入れば、夢にマコちゃんが出てきてほしいっていつも思っちゃう。
マコちゃんと帰ると、また軽音部の練習を頑張りたいと思うようになったし、
マコちゃんに会えないと、軽音部の練習すらやる気にならなくなっちゃう。
軽音部にいる時よりも、ずっとずっと、ずーっと充実した一日一日になってたんだ。」
「唯ちゃん・・・。」
「えーっと・・・つまり・・・何が言いたいというとね。
ありがとう・・・。
そして、ごめん・・・。
私をこんな思いにさせてくれた人に、お礼の言葉を言いたいの・・・。」
そう言うと唯は、満面の笑顔を作る・・・
が、誠は彼女が無理をしていること、そしてその目に、涙がにじんでいることをすぐに察した。
「唯・・・ちゃん・・・。」
悲しげな表情の誠を背に、唯はすたすたと歩き出した。
正直、もう何が何だか、自分でもわからなくなっていたのだ。
唖然とする皆、それに梓と七海を無視して、唯は無心に階段を下りて行った。
ボイラーの音が、相変わらず低周波を立てている。
「・・くそ・・・!」
誠も入口へすたすたと歩いていく。
こんなんじゃあ、嫌われるよな。
理性では分かっていても、やはり耐え切れなかった。
「おい伊藤! お前っ!!」
「唯先輩をたぶらかして、どういうつもりっ!?」
七海と梓が誠に手を駆けるが、強引に振りほどき、すたすたと降りていく。
「誠君!」
言葉も誠を追って駆け出し、梓と七海の間をかき分けた。
その一瞬、言葉は七海を見て、
かすかに・・・・・だが、間違いなく・・・・・微笑んだ。
七海が反応する前に、言葉は速足で、かけ下りる。
後にはただ、沈黙。
「ちぇ、なんなんだかあいつ。」
「伊藤・・・。」
取り残された律と澪は、冷静につぶやく。
「しかし、まさか西園寺がうちらのファンクラブにねえ・・・。」
「西園寺だけじゃなくて、その友達もだよ。前々から興味を持っていたそうだけど。
案の定榊野でも、唯と伊藤のことが噂になっていたようだった。」
「そうか・・・。」澪は腕を組みながら、「となると、それもあって近づいた可能性も高いな・・・。」
「そうかあ? みんなでゲームしてた時は、それなりには楽しんでいたぜ、あいつら。
これがファンクラブ会員の名簿なんだけど。」
律は澪に、今まで入った会員の名簿を見せる。
世界、刹那、七海、光。
たった4人。
それも、世界とその友人ばかり。
「まる聞こえなんだけどなあ。」
額に指を抑えつつ、七海は呟く・・・。


ここは先ほどの、1階ロビー。
「・・・・。」
梓から送られたメールを、刹那は受け取った。
ムギと2人で、放課後ティータイムファンクラブの受付番をしている。
「どうしたんですか?」
と、ムギ。相変わらず暇なので、あくびを繰り返してばかり。
「中野から、メール。」
「梓ちゃんから?」
「はい。世界、伊藤と喧嘩しちゃったらしいです。事実上の絶交。
平沢さんも彼から離れたみたい。」
「そうですか。」
ムギは当事者ではないので、余り感慨はわかない。
「・・・とりあえず、これで伊藤さんは、桂さんと付き合うしかないんですよね。ごたごたが解決して、よかっ・・・!」
ムギの笑顔が消える。
刹那が向けた瞳は、怒りに燃えていた。
「簡単に言わないで!! ずっと世界は伊藤のことが好きだったんだよ!! それをあきらめる苦しみが、貴方に分かるの!?」
「・・・そりゃあ、唯ちゃんも伊藤さんのことが好きみたいですし。分かりますよ。
でも、西園寺さんは伊藤さんを嫌いになっちゃったみたいだし、こうなっちゃった以上は、しょうがないじゃないですか。」
「しょうがなくない!!」
「・・・ごめんなさい。」
刹那の大声に、皆がちらちらと目を向けるが、すぐに皆皆通り過ぎてしまう。
「ムギさん。」
「はい?」
刹那は一瞬、ムギから目をそむけてから、
「七海には気をつけた方がいい。」
「どうしてですか? 西園寺さんのために、結構気を使ってくれるいい人じゃないですか。
私には、まだどぎまぎしてるけど。」
ムギはいまだに、ことの重大さが分かっていない。
「だからだよ。」刹那は声に力を入れる。「七海は女バスのキャプテンだし、うちら誰よりも、私や世界よりも仲間思いだ。
でも、だから怖いんだよ。
友達のためなら、どんなことでも、できてしまうから。」


日は傾き、窓には赤い夕陽が、飾りを照らしている。
昼ごろには廊下を埋める程に多かった客も、今や数人となってしまっている。
言葉は一人、誠を探して廊下を歩いていた。
「・・・どうして、誠に会えてたの・・・?」
横から、声が聞こえる。
世界だった。
待っていたのだと思われる。
「西園寺さん・・・?」
「みんな見張ってたのに・・・どうして近づけたのか、これだけは知りたいの・・・。」
とは言いつつも、世界の拳は力を入れていた。
「私も聞きたいです。澤永さんに私を襲わせたのは、西園寺さんの差金だったんですか・・・?」
「澤永に?」
「それを教えてくれたら、教えてあげてもいいです。」
「七海・・・どんなことをしたのかと思ったら・・・。」世界は呟きつつ、「私は知らない・・・知らない・・・。」
「そうですか?」世界の言葉は正直、言葉には信じられない。「幸い、秋山さんが私を助けてくれまして、誠君ともメールが通じていたましたから。だから、いつもの屋上で落ち合えたんです。
作戦失敗ですね。
平沢さんがそばにいたのは、私も予想外でしたけど。」
皮肉たっぷりの口調に、世界は昂しかけたが、
『貴方が伊藤を批判する資格はない』
という澪の言葉が、頭をよぎった。
「私はもう、男の人に触られることすら嫌っていた、臆病な自分ではありません。
誠君好みの、誠君に尽くせる自分になれるように・・・努力しました。
本当の恋人になれる覚悟も、できています。」
「でも!」
「あなたは、私が臆病だったことを利用して、誠君に体を与えただけじゃないですか。
しかも貴方は、私に誠君を紹介し、誠君との付き合いで悩んでいた時に相談に乗ってくれましたよね・・・?」
「違う! 誠は、本当に私のことを、貴方よりも好きって言ってくれて・・・!」
「その時の快感を、誠君は忘れられないだけじゃないですか・・・?」
「う・・・。」
それは・・・あるかもしれない。
「そして貴方も、それが忘れられなくて、誠君を離したくなくて、流されるままに続けていた。」
「違う! だけじゃない!! 好きって、何回も言ってくれたし、コクリコ坂からを見た時だって、街を歩いたときだって、好きって言ってくれたし!!」
「よしんばそうだとしても、貴方が誠のことを嫌いといった以上、誠も貴方のことを嫌いになったでしょう。」
「あ・・・。」
世界は、ガタガタガタガタ震え始めた・・・。
感情に任せた、一度の勢いでああいってしまったことを、後悔した。
言葉は低い、憎しみのこもった声で
「だから、もう・・・。」
「嫌・・・嫌・・・。」
「誠君に、近づかないでくださいね。」
「嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
世界は頭を抱え、消えていってしまった。
言葉は1つ、息をつく。
これで1人、ライバルが減った。
「桂!」
言葉にかかる声。
「秋山さん・・・。」
どうやら、今のを聞かれていたらしい。
「今の、言いすぎじゃないのか? ほんと律や、西園寺の友達が聞いてなくてよかった・・・。」
「今まで傷つけていた分を、返しただけです。」
「そうだけど、いくらなんでも・・・。」
澪は呆れた表情。
と、横の通路から、背の高い、馬面の少年が顔を出す。
「澤永さん!」
「あんた・・・。」
泰介は「げ・・・。」と呟く。


「へーい、兄さん、私とデートしない?」
そのころ、山中さわ子は1人、彼氏のアタックを続けていた。
手元には、女性にだけ配られる休憩所がある。
「受けた。」
さわ子は、1人の男の声を聞き、そちらに目を向けた。
そこにいるのは、肩までかかる長髪、どちらかというと筋肉質な男。
「おお! うれしい。」
「榊野の休憩所、私も知っているよ。」
その男はなかなかに整った顔立ちだが、目の濁りにさわ子は気づかない。
「じゃあ、さっそく喫茶店に・・・。」
「その前にこの近くに、休憩所があるからさあ。」
男はさわ子の肩をつかみ、強引に休憩所へと歩いていく。
「え、は、気が早すぎ・・・!」
「いや、我慢できないんでね・・・。」
「ちょ、ちょっとやめ・・・。」
男は、問答無用にさわ子を押し倒す。


薄暗くなり、空が紺になり始めた時。
誠は1人、中庭で缶ジュースを飲んでいた。
広場では、数人の生徒会員が、セットの後片付けをしている。
知り合いがいないのが幸いである。
「こんなところにいたのか。」
校舎から、声がした。
泰介であった。
誠は、無言である。
正直、誰とも会いたくなかったのに・・・。
「ま、色々とあった一日目みたいだな。」
泰介は彼の隣に座って、手持ちの缶ジュースを開ける。
どうやら一連のことを耳にしているらしい。
本当に噂が回るのが早いもんだ。
はぐらかそうとして、誠は、
「おい、泰介・・。言葉には・・・。」
「分かってる・・・。」泰介はぼやくように、「桂さんには一応謝ったよ。土下座して。
・・・背後であいつも、にらみをきかせていたし。」
誠は思わず、吹き出してしまった。
そう言えば、秋山さんに、一言もお礼をしてなかったな・・・。
「話はちょっときいたよ。西園寺とけんかしたんだって?」
「いや、もう事実上、別れた。絶交状態。」捨て鉢になって誠は、「もういいんだ・・・。好きだけど、好きじゃなかったんだな・・・。」
「は? なに訳のわからないことを。それに童貞卒業した仲なんだろ。」
「それは、もういいんだ。その時はお互い勢い任せだったし、結局それで大人っぽくなったわけでもなし。
それにそれが、悪癖になっちまってたよ。」
「そうなのか?」
「ただ、最近は、あまりしたいって、思わないんだよな・・・。
ゆい・・・平沢さんの笑顔を見てから。」
「そんな仲にまでなったのか。」泰介はニヤッと笑ってから、「いや、いいって、唯で。」
「唯ちゃんの笑顔を見るだけで、それを思い出すだけで十分になったんだ。」
「そうかい、そうかい。そう言えば、平沢さんの笑顔だけで満足と言ってたしな。」泰介はうなずいて、「ま、お前にはまだ、平沢さんや桂さんがいるだろう?」
正直、平沢さんと聞くと、あの悲しげな笑顔が目に浮かぶ。
「いや、この体たらくで唯ちゃんにも嫌われたし!
言葉だって、どうだかわからないぜ・・・。
いい! いい! もういいよ!! 
明日は一人で回って、それなりに楽しむから。」
「おいおい、いじけんなよ。もしなんだったらさ、俺が黒田紹介すっから。」
「・・・いや、どう見ても黒田は俺のこと嫌いだろ・・・。」
「だーいじょうぶだ、あいつは俺の言うことには素直だから。
俺はさわちゃんにコクるから、うまくいったらダブルデートな!」
「いや、ははは・・・。」
取らぬ狸の皮算用とはまさにこのことだが、口にするのはもちろん控えた。
「同じ悩みを抱えてるのは、お前だけじゃないんだぜ。」泰介はグイっとジュースを飲みほしてから、「知ってるか、足利のこと。」
「足利かあ・・・。そういえば最近会ってないなあ。」
「あいつ、4組の加藤と、桜ケ丘の真鍋って子に同時にコクられたそうでさあ。今も迷ってるらしいんだ。」
「そうか、加藤が・・・足利も加藤も中学の同級生だけど、そうだったんだ・・・。」
「加藤と真鍋は、『彼氏を手に入れるための修行』っていって、早めに帰っちまったらしいが・・・。」
この学校、本当に恋人を取り合うケースが多いな。
誠はそう思ってから、空き缶をくるくる回して一人悦に入る。
「それから、教員室でちょっと聞いた話なんだけどよ。」泰介は心配げな表情になり、「教員室に桜ケ丘の子が来て、3組の掲示板を見て、なんかお前の住所を調べてたみたいだぞ。
なんかずっと、うつろな笑い声をあげてたって話だ。」
「・・・誰なんだろう。」気がかりになった。「言葉や世界は、俺の家をもう知ってるし。唯ちゃんはそんな暗くないしな。」
ふとその時、
「伊藤!」
校舎から声がして、2人はそちらを向く。と、泰介が、
「げ、あいつ苦手・・・あとはよろしく・・・。」
といって、そそくさ逃げてしまった。
誠は驚かなかった。
とても見覚えのある顔。
つり目で黒髪ロングヘアーの子に、小柄で茶髪、カチューシャで短髪の子。
どちらも桜ケ丘の学生服を着ている。
「秋山さん・・・それに・・・ええと・・・。」
「田井中律だ。軽音部部長。」
髪の短い方が、言った。
「しかしね、何で私まで付き合わなきゃいけないんだ?」
「頼むよ。私は1人じゃ男と話せないんだからさ、
律だって、伊藤と一度話をしたいと言ってたろ?」
律と澪は、誠に聞こえないようにぼそぼそと話す。
「な、なんですか・・・・。」
2人の表情から考えて、とてもいい話とは思えない。
「伊藤・・・、」最初に口を開いたのは、澪。
低い声だ。
「貴方は本当は、だれが好きなんだ?
貴方があいまいな態度をとったせいで、西園寺も桂も、かなり傷ついているの、分かっているだろう。
挙句唯まで巻き込んで・・・。」
誠は、澪の鋭い眼光から目をそむけて、
「唯ちゃんまで、巻き込むつもりはなかったんです・・・。
それに言葉はあのスタイルと顔だし、世界だって、俺のしたいことをさせてくれたから・・・。」
ドンッ!
言いかけて誠は、横っ面を殴られ、地面へ叩きつけられた。
「おい律!!」
澪のたしなめる声。
「西園寺の言った通り、ハナからそれが目的だったのか!?」律は殴りつけた右こぶしをそのままに、「ったく、いい奴って聞いてたけど、大外れのこんこんちき!! お前の親の顔が見てみたいわ!!」
セットの片づけをしている人たちが、一斉にそちらを見た。
澪はパッと顔を赤らめて律をとめる。
幸いすぐに生徒会の人たちは、自分たちの仕事に戻る。
「そりゃあ、ずるずるずるずる流されていったのは情けないと思うけど・・・。」
「あんたがもっとはっきりしねえとよお! ま、もう手遅れだけどさ。」
律はそっけない。そんな彼女を澪は押さえながら、
「誰も捨てたくない気持ちはわかるが、そういった態度が誤解を生んでいるんだ。」
「それは、そうですけど・・・。」
「とにもかくにも、西園寺とは関係を持ち、桂や唯ともキスをして、そんなふらっついてちゃ、だめじゃんか。」
「わかってますって・・・。」
反論の余地がない。
「ま、二兎を追うものは一兎も得ずみたいな結末になっちまったけどさ。」
律は冷淡である。
「それは、覚悟の上です・・・。」
本音。結局自分の自爆なのだ。
誠は、律や澪の顔を見ることもできない。
うつむき加減に話すしかない。
「何してるんですか!」
と、律と澪の前に立ちふさがったのは、言葉。
「桂・・・。」
「言葉・・・。」
「誠君を責めないでくださいよ!! 秋山さん、それから・・・誰でしたっけ・・・。」
「田井中律だ。」律は額を抑えながら、「何で部長のあたしが覚えられていないんだよぉ・・・。」
「仕方がないだろ、桂は私たちのライブに来れなかったみたいだし。」
澪は言葉を、例のごとくフォローした。
「誠君は西園寺さんに誘惑されたんです。彼のせいではありませんから。」
「言葉・・・。」
誠も、澪も、律も唖然となっている。
「私決めてるんです。西園寺さんや平沢さんにされたことも含めて、誠君を許すって。」
「・・・・・。」
「おい桂、」今度は律がたしなめる。「澪はあんたのことを思って、」
「もういいんです。これですべて、元通りの人間関係になっただけですから。
とにかく、もうこれ以上、誠君を責めないでください。」
そう言って強引に彼の腕を引っ張り、校舎へと連れ戻していく。
澪は不安と安心が半々といった表情で、
「桂!」
「はい?」
「貴方は本当に、それでいいんだね。」
「いいんです。」
言葉の言、それに真剣な目には、迷いも何もないようだ。
「わかった。・・・それほど、大切な人ならば、そばにいるといいかもな・・・。」
ぎこちない微笑を浮かべて、澪は言葉を見つめる。
誠は振り向きざま、
「秋山さん、ありがとう。」
「え、」澪は目を丸くしつつも、「あ、ああ・・・。」
思わず答えてしまった。
言葉はにっこりして、誠の腕を引っ張っていった。
最後に、軽く澪に会釈して。


「桂・・・。」
呟く澪に、律は、
「澪、桂は、」
「分かっている。今回の1件は全部西園寺や唯がいけないって、伊藤は悪くないって、桂は思ってるんだろう。」
「みたいだな。
ったく、桂の奴何なんだか・・・せっかく澪がいろいろと世話してやってんのにさ。」
「いや、いいんだ、律。
これであいつは、伊藤を取り戻せたんだし。
幸せならばそれでいいよ。
あの子の、笑顔が見れたのだから・・・。」
澪の微笑は、どこか寂しげ。
「はいはい。ま、桂もなーんであんな奴を好きになるのかねえ。」
「まあいいじゃないか。伊藤も悪い奴ではないし、唯のことも桂のことも気にしているようだったしな。」
2人も校舎へもどり、廊下を歩いていく。
澪は、
「私、明日も榊野学祭に行ってみるわ。2人のことが気になるし。」
「オイオイ、それはお節介っつーもんだろ、」律は笑いながらも、「澪は本当に変わったな・・・あんなに榊野に行くの、嫌がってたのに・・・。」
澪は微笑を、律に向け、
「あえて言うなら・・・桂と会えたからかもしれないな・・・。」
「そうかいそうかい。ま、恋がかなってよかったですなあ。」
「だから恋じゃねえっての!!」
「ま、私も行くつもりだけどな。あくまで彼氏探しだ。」
「結局彼氏目当てか。西園寺はどうすんだよ。」
澪の問いかけに、律は笑顔を消して、
「私が入り込める余地もねえだろうさ。それに西園寺にはダチがたくさんいるし。
そのうち立ち直るだろう。」
「でも、背中を押す人間は必要だよ。ひょっとしたら、お前になるかもしれない。
さて、後は唯か。」
律は梓からのメールを見ながら、
「あいつ、あれからずっと部屋にこもりっぱなしか。」
「らしいな。菓子も拒否していることを考えると、相変わらず重症だな・・・。」澪は、急に表情を深刻にして、言った。「なあ、あり得ないとは思うけど・・・もし西園寺が、伊藤のことをあきらめていなかったら、どうする?」
「は?」
「放課後ティータイムファンクラブに入ったのは、西園寺とその友達だけだったんだよな。
あいつらにとって、伊藤を手に入れるためには、桂は邪魔な存在なはず。」
律も思案顔になり、
「・・・そう言えばあいつら、桂のことをかなり嫌ってた。西園寺はそうでもないみてえだけど。
それはいいとして、澪・・・。」
律は真剣な目で、澪を見る。
「お前が桂をかばっていることが知られたら、お前までも浮いちまうかもしれない。
それでもお前、あいつのサポートを続けるつもりなのか?」
澪は、その後のことを、想像した。
後に続くのは、ろくなことがない・・・。
「・・・正直、分からない。」
2人は榊野を出て、唯の家へと足を進めていく。
「ひょっとしたらうちらも、割れるかもしれないな・・・。」
律の口調は、半分自嘲気味。
「割れる・・・。」
さびしがりやで、長らく律だけがたった一人の親友であった澪には、それが耐えきれない。想像したくもない。
「ま、割れちまってるか。唯が伊藤にちょっかいを出してから。
だけど、私たちはぐだぐだながら仲良くやってきたんだから、今回もぐだぐだやればいいんじゃねえか。どんな状況になっても、のろのろだらだらとさ。」
「そうだな・・・動じないのが大人だな・・・
みんなを、信じなきゃな・・・。」
最後に澪は、携帯で電話をして、
「それにしても和(のどか)の奴、こんな時に限って連絡が取れないとは・・・。
唯が大変なのに・・・。」


言葉と誠は、同じ電車に乗って家路についた。
榊野学園に入学した時から、お互い見かけた場所。
だけど長い間、話すことはなかった。
そして世界によってお互いが紹介され、曲折あって・・・。
言葉が触れられるのを拒否してから、世界が『練習』を持ちかけ・・・。
本来自分は言葉と付き合うべきだったのに、それからその時の快感が忘れられなくなって・・。
だから、これでいいんだ。
そんな思いが、頭をよぎった。
その時、誠の頭の中で、ふいと唯の笑顔が浮かんだ。
同じく、榊野学園に入ってから、コンビニでお互い見かけていた。
けれど、2学期まで話すこともなく・・・。
突然、声をかけられたこと。
自分の腕に抱きついて下校していたこと、喫茶店でウキウキしながら話をしていたこと。
休憩室の中でのキス。
そして、屋上での別れの言葉・・・。
長い時間が流れる。
車窓から海が見えてきた。
いつの間にか誠は、あの歌を口ずさんでいた。

『♪キミを見てると いつもハートDOKI☆DOKI
揺れる思いは マシュマロみたいにふわ☆ふわ
いつもがんばるキミの横顔 ずっと見てても気づかないよね
夢の中なら 二人の距離 縮められるのにな♪』

そっと誠の手に、暖かい手が重なる。
「言葉?」
「『ふわふわ時間(タイム)』ですよね。放課後ティータイムの。」
「ああ・・・そうだよ・・・。」
「でも・・・もう平沢さんは、誠君の隣にはいません。」
「わかってる・・・。」
半分自棄的に、彼は答えた。
「なら、いいじゃないですか。」
「え?」
「私、誠君のことが好きです。誠君の隣にいたいんです。」
「・・・。」
誠はため息をつく。
流れるように過ぎていく風景。
言葉は少し、間をおいてから、
「今日、うちに来てほしいです。うち、だれもいませんから・・・。」
「言葉・・・。」
「私、はじめてですけど・・・やっと、誠君と本当の恋人になれそうで・・・。」
「そういえば、俺もご無沙汰だったな・・・。」
呟きながら誠は、自分の気持ちに正直に問いかけた。
答えは、一つしかなかった。
言った。
「実はゆ・・・平沢さんと会ってから、あまりしようって気が起きないんだよ・・・・。
最後にしたのは、世界とけんかした時だったかな。八つあたりもあった。
世界と『練習』して以来、なんかあの時の感触が忘れられなくなって・・・。
それで、あいつと猿みたく毎日していたんだけど、それが嘘のようで・・・。」
「そうなんですか・・・?」
「・・・すまない。
もう分かってると思うけど、俺はお前がいながら、隠れて世界と関係を持っていた。
あげくゆ・・・平沢さんとも、誘われるままに近づいて、キスまでしてしまって・・・・。」
言葉の表情が、一瞬曇った。
が、穏やかに、しかしきっぱりと言った。
「もういいんです・・・。どれだけ誠君が他の人に興味を持っても、私が一番好きならば・・・。」
「うん、わかってる。」うつむき加減に誠は答えた。
が、いたたまれなくなって、
「でも、分かってくれないか。
俺の悪い女癖を直してくれそうなのは、平沢さん・・・唯ちゃんの笑顔かもしれないんだ!」
「誠君・・・?」
「あの子の笑顔を見てから、俺はしたいなんて思わなくなってきてる。
あの子の笑顔が見られるなら、俺はそれで十分って!
純粋な心を取り戻せるって、自分で分かってきてるんだ!!
女癖の悪さは自分でもまずいと思ってる。
唯一の薬が、あの子が笑ってる姿なんだよ!!」
「・・・・。」
激しく、やつぎばやぎに話す誠の口調に、言葉は唖然として聞くしかない。
「そしてあの子は、決して汚したくない、汚させたくないって、思うんだ。
だから、言葉・・・。
唯ちゃんとは・・・、
例え唯ちゃんが俺のことを嫌いになったとしてもいい、会わせてくれないか。」
「誠君・・・。」
言葉は少しうなって、間をおいた。
電車のアナウンスが、次に停車する駅を告げる。
再び言葉は思案顔になってから、
「いいですよ。平沢さんとは、今までどおり接しても。
私も、秋山さんにいろいろと助けてもらいましたし。
それに平沢さん、私のために泣いてくれましたしね。」
「そうだったな。」
くすくすと笑い、笑顔になった誠を見て、言葉ははっとなり、呟く。
「平沢さん・・・?」
「え?」
「あ、いえ、何でもないです。」彼女は赤面して、懸命に首を振ってから、どこか寂しげに、「恋人付き合いをしないという約束なら、これからも誠君が、平沢さんと会うのを許してあげます。
私だけが、深い関係になれるのならば・・・。」
そこまで言われると、もはや断るわけにはいかなかった。
「わかった・・・。」
これで自分の好色が治って、かつ唯ちゃんの笑顔を見られるのだから、これでいいんだ。
「振り出しに戻っただけですから、やり直しがきかないわけ、ないと思います。」
言葉は言った。
先ほど熱く語りすぎた照れ隠しもあり、誠はさりげなく聞いてみた。
「なあ・・・秋山さんって、どんな人だ?」
彼女は面食らったような顔になったが、すぐに表情を戻し、
「誠君に、似ています。」
「え・・・?」
「不器用だけど、すごく優しくて、一生懸命で・・・。」
「そうか・・・? 俺は言葉に似てると思ったけどな、顔も性格も。
傍から見たら姉妹に見えるくらい。」
「そうですか?」
「それで、世界は田井中さんとか・・・。奇妙なぐらいの力の拮抗だな・・・。」
世界に張られ、律に殴られた頬を、誠はさする。
言葉の表情が、曇る。
唇だけ笑みを浮かべ、話題を変える。
「今日、うちに来てくれますか?」
誠が答える前に、メールが着信する。
それを見て、
「ごめん、実はいたるが俺のところに来ててね、その面倒を見なくちゃいけないんだ。」
「いたるさんって、妹さんですよね。
そうですか。」言葉はまばたきしつつも、「じゃあ、私が誠君の家に行きますね。心も連れてきます。せっかくだから、家族ぐるみで付き合いましょう。」
「あれ・・・誰もいないんじゃなかったっけ・・・。」
「心は強く叱れば、私たちの邪魔はしませんよ。」
彼女はにっこりと笑った。


日は暮れ、曇り空の中。
灯りを消した自分の部屋で、唯はベッドの上で体育座りになり、榊野学園の休憩室でくすねた『あるもの』を、右掌で転がしていた。
登下校した時、喫茶店に行った時の、誠の笑顔が、焼きついて離れない。
始めてキスした時の、彼の赤らんだ顔も・・・。
そして、自分が屋上でああ言ったときの、あの傷ついたような顔・・・。
あのときは、頭の中が整理できなくて、ついああ言っちゃったけど・・・。
やっぱり、忘れられないや・・・。
『待って下さい、俺も、本当は・・・!』
続いて、この言葉が頭の中でリピートされていた。
そうだ。
私も、マコちゃんに彼女がいるとわかっていながら、あきらめきれず、近づいていたんだよね・・・。
それだけ、マコちゃんに・・・。
あのニコニコした顔に魅かれていたんだ・・・。
頭の中が、ぐるぐる回り始めた。
それとともに、手の中にある物も、ぐるぐると回転が速くなる。


唯の家のリビングでは、梓と純が、ソファーで隣り合わせになって話していた。
憂が2人を迎え入れた後、外出しているのである。
「そういうことがあったの・・・。」
「ったく、純が無神経にベラベラしゃべるから、さらに状況が悪化しちゃったじゃない。」
「・・・だって、そんな複雑な状況があっただなんて思わなかったし・・・。」
純はふてくされたように言う。
「それにさ、唯先輩だって、その人あきらめたんだから、それでよかったんじゃない?」
「だといいんだけどね・・・。それにしては立ち直りが遅い・・・。
どっちにしても、私は明日ゆっくりするから。
榊野に行かない。
あんないかれたところ、二度と行くもんですか!」
「梓ぁ、」純は苦笑いしながら、「アトラクションだけでも行ってくればいいのに。面白いよ。」
「い・か・な・い!!」
梓はぷいっと顔をそむける。
「そういえば、みんなは?」
と、純。
「律先輩と澪先輩は、もう少し伊藤に話を聞いてくるって・・・あんなの相手にする価値もないのに・・・。」
「そう? 私はコクっちゃいそうな人だったけど。」
「このミーハー! 顔よりハートでしょ!!」
「あはは・・・それにしても、唯先輩もファーストキスを渡しちゃって、どうすんだろうねえ。」
「自業自得でしょ。
あ、それとムギ先輩は、甘露寺に誘われて西園寺の家に行ってるよ。
ま、いろいろ迷惑かけちゃったしね・・・。」
「そう・・・。」純はせんべいを食べながら、呟く。
「そう言えば憂、遅いなあ・・・・。」


夜になったものの、月は全くなく、煙のような雲が厚く空を覆っていた。
家に帰ってから、世界は自分の部屋のベッドの上ですすり泣くばかり。
母は仕事で外に行っている。
傍らに刹那、そして光がいる。
「ねえ世界・・・、」光は、「もう伊藤なんか忘れてさ、他のいい男見つけたほうが得だよ。」
「光、今は下手に慰めたりしたら駄目だよ。」
刹那は冷静にたしなめる。
「あの時は同情しちゃったけど、こんなことになるのだったら、敵に塩を送るんじゃなかったかな・・・?」
ぽつりとつぶやく彼女。
「刹那?」
「いや、独り言・・・。」
ぴーんぽーん。
誰かが来たようだ。
来客を見て、刹那は目を丸くする。
「七海・・・あれ、ムギさん?」
「よお。」
「お邪魔いたします。まさか甘露寺さんが、私を誘ってくれるなんて。」
「あたしんちじゃなくて、誘ったのは世界の家ですよ。それにわざわざ、ケーキを持ってこなくても・・・。」
ムギの手には、お菓子が入った箱がある。
いつも部室で食べるものである。
「手土産のつもりで持ってきました。私たち、部活はお菓子を食べることがほとんどだし。それに西園寺さん、これで少しは立ち直れるかなと思って・・。」
「ちぇ、七海も私のところにケーキ頼めばいいのに・・・。」光は多少むくれながらも、「でも、ありがとうございます。ね、世界、ここはおいしいものを食べて元気だそうよ。」
「ねえ七海、」刹那は気がかりなことがあり、口を開く。「他の放課後ティータイムはいないの? 田井中さんや、中野は?」
「あ、いや、その・・・。」
七海は笑いながら目をそむけ、「それにしても乙女の奴、こんな時に限って連絡が取れないなんて・・・。」
「・・・・・。」
「まあまあ、」ムギは箱を開いて、「これを食べて、元気を出しましょうよ。
あ、KARAのポスター! 実はりっちゃんもK-POP好きなんですよ。」
「悪いですけど、ほっといてくれませんか・・・?」
世界はベッドに突っ伏しながら、ぼそりと言った。
「まあまあ、スイーツを食べれば立ち直れることもあります。」
ムギはそう言って、如才なく皆にケーキを配っていく。早速光はそれにかじりついて、
「おいしいです!」
世界もゆっくりとおきあがり、好物のババロアを口にした。
「おいしい・・・。」
ぽつりとつぶやく。
「ムギさん、確かにこれはおいしいですよ。」
刹那も相槌を打った。
「なあムギさん、」七海はゆっくり口を開く、「ちょっとこっちへ。」
「はい?」
七海に誘われるままに、ムギは誰もいない外へと行く。
七海の右手が、拳になっていることを、刹那は気にした。


世界の家のドアの前で、七海はムギに、真剣な口調で、言った。
「ムギさん、いつか言いましたね。
『私、甘露寺さんのこと好きだから。甘露寺さんのためならなんでもできるから』
って・・・。」
「え、ええ・・・。」
「なら、私の頼み、聞いてくれないか。」
「え・・・。」
「桂に、今までのすべてを復讐するんだよ。」
「そん・・・!」
ムギが答える前に、5人の女子生徒がムギの周りを取り囲む。
がんをつけるようにして。
「こいつらは同じバスケ部員の同級生なんだけどさあ、
結構私を頼りにしていて、私の言うことには忠実だからさあ・・・。」
七海は微笑を浮かべながら言う。
「頼み、聞いてくれるね・・・。」
その鋭い眼光に、ムギは縮こまり・・・。
「あんた達も気をつけな。
ターゲット追加。標的は桂、それに、あいつをかばう秋山さんだ。」
微笑を続ける七海。ムギは顔が青ざめるのを通り越し、血の気を失っていく。
「そんな・・・澪ちゃんまで・・・。
お願いします! 澪ちゃんは私の大事な友達です!! あの子に危害を加えるようなまねはやめてください!!」
「あいつをかばっているんだから、秋山さんだって容赦はしないよ・・・。」
「そんな・・・。」
「どっちをとるかですね。あたしか、秋山さんか。
もっとも、秋山さんを取った場合、どうなるか分かってますね。」
気がつくと、ムギの目がかすみ、ぐしゅぐしゅと鼻水の音が聞こえてきていた。


学校。
すっかり夜になり、今や喫茶店の後始末をする人間しかいなくなっていた。
いったん外を出て、ぼんやりと廊下を歩く泰介の向かいから、人影が現れる。
さわ子だ。
なぜか虚脱状態で、服も乱れ、ふらりふらりと歩いている。
顔は、何かされたかのように歪み、弛緩した口から涎が出ている。
「まさか、放課後ティータイムのさわちゃ・・・さわ子先生。」
泰介が駆け寄ると、さわ子は彼の腕の中にぐったりとくずおれた。
「ああ・・・よすぎる・・・。」
さわ子はうわごとのように呟いている。
「止(とまる)さん・・・よすぎ・・・。」
「あ、あの、さわ子先生、どうしたんですか!?」
泰介は正直、これからどうすべきか迷った。


霧の中で、家やビルの明かりが、ポツポツと町を照らす。
妹や言葉、それに心に御馳走するための材料を買って、誠はマンションに帰宅した。
安いひき肉も、4人前となると結構値が張る。
学祭でも大分使ったし、今月のこづかい厳しいなあ。
そういう思いを巡らせていると、今日の出来事がおのずと忘れられる。
というより、もう気持ちを前向きにすべき時だろう。
「いたるー? どこだー?」
声をかけながら、マンションの廊下を進む誠だが・・・・
思わず顔色が変わった。
妹が人質に取られている。
いたるが、意識を失った状態。
その状態で、茶髪、ポニーテールの少女の左腕に抱きかかえられている。
その少女は桜ヶ丘の学生服。
右手には、包丁。
「いたる・・・!?」
いたるを人質に取った少女の顔を見て、誠は・・・。
思わず、自分の両目をえぐりたいと思った。
だが、盲目になっても、この光景は焼きついて離れないに違いない。
妹を人質に取ったのは、自分に純粋な心を取り戻させてくれた人。
自分がだれよりも美しいと感じる人で、誰よりもそばにいてほしい人。
「君は、唯ちゃん・・・・!? どうして・・・!?」
「『どうして』と聞きたいのは、こちらの方ですよ。」低い、ゆっくりとした声で少女は口を開いた。「どうして、私のお姉ちゃんを誘惑したんですか?」
この言葉に、誠はポカンとなり、
「お姉ちゃん?」
ふと誠は、唯と行った喫茶店で、
『いつもは妹と行くことが多いんです』
と、彼女が言っていたのを思い出す。
木枯らしが急に寒くなる。
「まさか、貴方・・・唯ちゃんの妹さん・・・。」
口をあんぐりと開けてしまった。
「そうですよ・・・はじめまして、伊藤さん・・・・。」
憂は誠を睨みつける。
その瞳には光がなく、偏執的な狂気しか感じられない。
そして、がっくりと頭を垂れているいたるの首に、包丁を突き付けた。
彼は生唾を飲み込む。
「お姉ちゃんから・・・手を引いてくれますか・・・?」
「・・・。」
「最初から遊びだったんでしょ。すでに二股かけてるのに。
挙句私のお姉ちゃんにも手を出して、あげくキスまでして。私のお姉ちゃんをその気にして。
可愛い妹の命がかかってるとすれば、はいと言ってくれますね・・・。
断ったり、一歩でもそこから動いたら、この子の首、切りますよ・・・・。」
「そんな・・・。」
呆然として、誠は憂を見るしかなかった。



続く
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【 2012/03/10 16:04 】

| 小説 『Cross Ballade』(けいおん!×SchoolDays小説) | コメント(0) | トラックバック(5) |
小説『Cross Ballade』 第7話 『再会』
けいおん!×SchoolDaysクロスオーバー小説 第7弾。


やっと第7話までこぎつけた。
本格的に人間ドラマがやっと描ける。
CROSS EPOCHのように1対1を強調しつつ、複雑に人間模様を絡ませる、と以前書いたけど、
考えている組み合わせは、こんな感じ。(ネタばれです、すみません。)

平沢唯×伊藤誠
秋山澪×桂言葉
田井中律×西園寺世界
琴吹紬×甘露寺七海
中野梓×清浦刹那
山中さわ子×澤永泰介
(あと『真鍋和×加藤乙女』の組み合わせをどこかに入れたかったり・・・。)


この話で律が世界に
「私達はあの馬鹿2人に振り回されている被害者」
っていうけど、
まさにその通りで、唯も誠もトラブルメーカーで周りを振り回すことが多いんだよね・・・。
この2人をどう成長させるかは、筆者の技量にかかってるんだけど
やっぱり成長ものとして描いてみたいなあ、と改めて感じています。

色々文章の書き方は読んだんだけど、
何より自分が楽しめないと、納得行くストーリー展開でないと続かないよね。
いよいよ今回は放課後ティータイムのライブです。(ちょっとだけど)
その後のけいおんキャラとスクイズキャラの人間模様にも注目。

********************************************************************************************************
第7話 『再会』


そろそろ、放課後ティータイムのライブの時間だ。
お化け屋敷の受付で、言葉は立ち上がる。
が、前にクラスの4人。
「桂―、私たち遊びたいんだけどさー、受け付け続けててくれない?」
「え、でも、きちんと決めた順番があるんですが・・・。」
「あんた、クラス委員でしょ!?」
大声を張り上げられ、言葉は思わず縮こまる。
「じゃ、あとよろしく。あと、休憩室使う人がいたら、前の人がまだいるか確認ね。」
「それにしても大成功だったねー。まさか卒倒する人が出てくるなんてさー。」
4人は話をしながら去って行った。
「秋山さん、あんなに怖いの苦手なんだ・・・。あんなの序の口なんだけど・・・。」
受付に取り残された言葉も独りごちる。


放課後ティータイムがお化け屋敷に来た時、言葉は裏の仕事にいそしんでいた。
その時に聞いた大きな悲鳴。
セットをかき分けて飛び出すと、泡を吹いて倒れている澪がいた。
「秋山さん!!」
傍らには、唯。
2人で澪を、入口まで担いだ。
「ははは・・・こんにちは、ね・・・・。」
唯は苦笑いしながら、言った。
「秋山さん、大丈夫ですか?」
言葉が声をかけると
「あー・・・桂か・・・。やっぱお化け屋敷、来るんじゃなかったぜ・・・。」
「りっちゃん・・・あ、うちの部長ね。挑発にのっちゃってね、あげく最初のコーナーで気絶しちゃって・・・。」
ぼやく澪に、唯が付け加えた。
「無事でよかったですよ・・・事故が起きたらどうなるものかと思いましたし・・・。」
肩をなでおろしたが、唯がそばにいるのが、なぜか妙に腹立たしく感じられた。
思わず、
「平沢さん・・・まだ誠君に近づくつもりですか・・・?」
詰ってしまう。
「そうだよ。だってマコちゃんのこと、好きだもん。」
唯は開き直ったのか、妙に毅然とした態度。
澪は、「おろしてくれ」と言って2人から離れ、
「今は伊藤のことでどうこう言うのはよそう。あいつもいないんだし。」
「はは・・・そうだね・・・。」
唯は思わず、笑った。
言葉も、これ以上唯を責めるのをやめにした。


秋山さんのほうが自分より、何となく大人びていると前から思ってたけど、可愛いところあるなあ。
言葉はそんな思いを胸にしながら、一人お化け屋敷の番をすることになった。
とはいえ、やはりさびしい。
ふと、
「澤永さん?」


「いやあ、よかったあ!!」
中庭の楽屋で、唯は愛用のギターを抱きかかえながら叫んだ。
「まったく冷や冷やしますよ・・・。」
「生徒会が預かってたからよかったものを・・・。」
梓と律が、肩の荷を下ろしながら、言った。
「ほんと、ギー太がどうなっちゃうかと思ったよー。」
「いや、それ以前にライブがどうなるか心配だったんですけど。」
ギー太を心配する唯に、梓が突っ込む。
「3組の学級委員さんが、わざわざ生徒会まで回したそうね。」
「ライブ会場も生徒会本部も中庭・・・利口だな。」
話し合う他の面々を気に掛けず、ギー太のネックに唯は顔をすりつけている。
「それにしても澪の奴、いつまでトイレ行ってるんだ? しかもこれで今日20回目のトイレだぞ。」
律が毒づくと、澪が戻ってきて、
「トイレ多くなるのも無理ないだろ! あれだけ客が来てるんだからさあ!!」
「ねえねえ!」さわ子が例のごとくはしゃぎ始めた。「今回バニーで演奏しないの? せっかく特注で作ったのに。」
「いや、普通でいいってば・・・。」
唯は隙を見て、楽屋の幕の合間から客席を見てみた。
桜ケ丘から榊野の生徒まで、エノキタケのようにびっしりと客が来ていた。
・・・!
誠と、目があった。
「マコちゃん・・・・。」
世界と腕を、組んでいるが。
「唯、行くぞ!!」
律に呼び出され、唯はステージへと向かう。
「みなさん、こんにちは! 放課後ティータイムこと、桜ヶ丘軽音部です!!」
唯は中央部で、大声を上げた。


ライブは無事終了。
客席の皆も、中庭を後にしていた。
「言葉・・・。いなかったな・・・。」
世界に聞こえないように、誠は独りごちる。
「いやあ、よかったねー!! 放課後ティータイムのライブ!!」
大きく伸びをしながら、世界は言った。
「まあまあ、かな。」
誠はうつむき加減に、微笑んで答える。
「誠・・・?」
「いや、正直、X JAPANのようなバラードがあるともっとよかったんだけどね。Tearsみたいな。」
「ふふふ、そうかもねえ。でも私は逆かな。もっとKARAの曲のようなノリがほしいな。」
「はは、好きだなあ世界も。」
中庭から校舎に入る。
泰介がいそいそと、目の前を通り過ぎた。
「泰介?」
声をかけるが、泰介は聞こえなかったようであった。
何かあるのか。
「そう言えば、放課後ティータイム、ファンクラブがあるみたいよ。」
「はあ・・・加入したい人、いるのかなあ。」
「まあ、たぶん生徒交流促進のための代物なんでしょうね。でも私は加入したいな。さっそく手続きしようよ。」
悪い、というわけではないが、何となくファンクラブ入りも恥ずかしい。
教員室の横を通り過ぎ、階段を下りていく。
教員室前の桜ヶ丘奇術部ファンクラブには、押すな押すなと行列ができている。
「世界、ちょっとトイレ行って、いいかな・・・?」


「どうだ、ムギ、上の状況は?」
律が2階から戻ってきたムギに尋ねる。
「奇術部、押すな押すなの大盛況よ。」
「ったく、こっちは閑古鳥か・・・。」
律や唯が呼び込みをするものの、生徒たちは『放課後ティータイムファンクラブ』という文字を見向きもせずに通り過ぎる。
さわ子はファンクラブ会員を見つけると言って、上に上がったっきり戻っていない。
5人とも、白い席に座ったまま、退屈そうに宙を睨んでいた。
「やっぱり軽音部、人気ないのかな・・・。」
翳を見せて呟く梓。
「ちょうどいいや、ちょっとトイレ行ってくるね。」
澪は席から離れ、トイレへと向かう。
「これで30回目・・・。」
「澪ちゃん、私も付き合うよ。」
呆れる律を背に、唯は澪について行った。


「違いますっ! 私、付き合っている人がいます!!」
「振られた男なんて、あきらめろよ。」
お化け屋敷の奥の、薄暗い休憩室。
保健室にあるはずのベッドの上で、言葉は泰介と争っていた。
「大丈夫だ! そいつがいなくても、俺が慰めてあげるから。」
「違います! やめてください!!」
言葉は言い終わらないうちに、ベッドに倒される。
が・・・。
白い携帯を左手で握りしめ、とっさに入力し始めた。


用を足して、澪と唯は、黒ずんだ洗面所で手を洗う。
先に手洗いを終えた澪。
急にはっとなり、携帯を取り出す。どうやらメールらしい。
「? 桂・・・? ・・・え・・・!?」
澪の顔が、青ざめた。
「澪ちゃん?」
「唯、ちょっと悪い、先に律たちのところへ戻っててくれ!!」
澪は一気に駈け出した。
「よりにもよってお化け屋敷かよ・・・。」とぼやきながら。
「澪ちゃん!?」
後を追いかけて女子トイレを出て、男子トイレを横切りかける。
ふと、妙な予感がして、ドアを開けた。
第六感というべきかもしれない。探し物を感づくような。
案の定、誠がいた。
トイレ入口へと走っているところ。
「!! 伊藤くーーーーん!!」
「え? ひ、平沢さん!?」
唯は駈け出し、誠の体に飛びついた。
「ちょ、ちょっと平沢さん、ここ男子トイレ! 便器にぶつかる!」
トイレの床に尻もちをつきそうになりながら、誠は何とかバランスを取った。
幸い、誰もいない。


「ずっと、会いたかったんだよ。・・・伊藤君に。」
唯は誠から腕を外し、微笑んで、ゆっくりと言った。
「それは・・・その・・・」
誠は、ちょっと自分の運を呪った。
今は言葉のことだけを考えたいときなのに・・・。
「それは、俺だって・・・。」呟いてから、「ごめんなさい、平沢さん・・・。 その・・・今は・・・!」
「ひょっとして、桂さん?」
「え、どうして・・・?」誠は唖然として、「どうして言葉のことを?」
「前に会ったことがあったの。あの子桜ケ丘まで来て、伊藤君は自分と付き合ってるから、もうちょっかいださないでと言って。」
「そうなんですか、言葉が・・・。
確かに、俺と平沢さんのことは、噂にもなってたけど、俺達はそういう関係ではないですよね・・・。
何でみんな誤解するんだろ・・・世界といい、言葉といい、泰介といい・・・。」
そういう関係でない、と言った時、唯の表情が陰ったことに、彼は気づかない。
「きっと多分、」唯は無理に微笑を作り、「男女の関係は皆興味を持つからだよ。みんな面白半分で当事者に聞いて、面白おかしく噂するからね。」
「・・・考えてみれば、そうかもしれませんね。」
無理な微笑み、と分かっていても、誠には唯の微笑が、とてもきれいに見えた。
「それより、桂さんが大変なことになってるみたいね!! 急いだ方がいいよ!」
「わかってます!!」
誠は言って、唯と一緒に飛び出した。
唯が半歩ほど遅れて。
彼は走りながら、言葉のメールを読んでみる。
『今、お化け屋敷。
助けて!!』
自分以外にもう1人、別の人にメールが送られているのが、妙に気になった。


「いやー、よかったねえ!! オナベ&オカマバー!!」
榊野学園の廊下を歩きながら、純は憂に話しかける。
「刺激的だったねー。」
朝こそ気が立っていたものの、純のマイペースぶりと、榊野の様々なアトラクションのおかげで、憂はすっかり明るい気分になっていた。
廊下は憂以外にも、様々な生徒がたむろして、ちょっと間を通るのに苦労する。
意外とせまい。
「次はどこいこっか?」
「そうだねえ・・・放送部のアイスクリーム屋なんて・・・あれ?」
目の前で、男女2人が人々をかき分けかき分け走ってゆく。
「伊藤君、お化け屋敷ってどこ?」
「1階の端っこの部屋です。そんなにかからないですよ。」
そんな会話をしながら。
周りは不思議な表情。
女の横顔を見ると、それは紛れもなく見覚えのある顔。
「お姉・・・ちゃん・・・?」
憂は低い声で呟く。
「あれ唯先輩じゃない?
わお、オトコ作ってたって噂、ホントだったんだね!!」純はパッと目を輝かせて、「ねえ憂、唯先輩たちがどこへ行くのか、見てみ・・・。」
純が言い出したころには、憂はもう姉を追って走り始めていた。
後ろ姿に黒い霧が出ていることを、純は悟った。
「憂・・・?」


「しょうがねえなあ・・・。梓、ムギ、呼び込んでくれ!」
「呼び込む?」
残った放課後ティータイムの3人は、相変わらずファン集めに奔走していた。
ただし律は、彼氏目的。
「『放課後ティータイム部長、田井中律! 田井中律です! よろしくお願いします!!』みたいにさ。」
「立候補者みたいね・・・。」
「それに放課後ティータイムではなく、律先輩の宣伝になってるじゃないですか・・・。」
恒例のごとく、ムギと梓の突っ込み。
そのとき、「くすくすくす・・・」と、第3者の声。
皆はそちらを向く。
2人の少女がいた。
1人は3組の喫茶店で見かけた、セミロングヘアーに1本のアホ毛を垂らした少女。
もう1人は中学1年生ぐらいの小柄な体格で、赤いリボンをした子。
「ほんっと、世界も好きだね・・・・まさか軽音部のファンクラブに入りたいなんて。」
小柄な少女が、もう1人の少女に話しかける。
「刹那も人のこと言えないよ。」
世界は笑いながら、言った。
「女の子・・・出来たら男・・・むぐっ!」
「あ、あ、ありがとうございます!! 是非とも加入してください!!」
不満げの律の口を抑え、梓は苦笑いしながら応答した。
「ファンクラブに入会したいです。
よろしくお願いします。 田井中律さん、琴吹紬さん、中野梓さん。」
世界は3人の名前を、すぱりと言い当てる。
「・・・あり、すげえなあ。ライブでしか自己紹介してないのに。」
「世界は1発で相手の名前を覚えるようにしてますからね。」
唖然とする律に、刹那が解説する。
「そう言えば、平沢唯さんに、秋山澪さんは?」
「も、もうフルネームで言わなくていいです・・・。」梓は両手を突き出しながら、「2人ともトイレに行ってますよ。」
「そうですか・・・。みんなで話をしたいところなんですけどねえ・・・。」
世界は少し、目を遠くした。
「おーい、世界! 刹那! 何やってるー?」
「ファンクラブ入りなら、私たちも参加していいー?」
世界と刹那の後ろから、長身でボーイッシュな子と、ツインテールをイカリングのように留めた子も顔を出す。
「甘露寺さん!!」
ムギの興奮した声。
「いきなり4人確保か。」
梓は、ほくほくしてつぶやく。
「ねえ七海、」世界は振り向いて、「彼氏と合流したんじゃなかったの?」
「それがさあ、」七海は悲しげな表情になり、「妹が一緒に来てさ、そっちのほうに行っちゃって、『今日は二人きりになれない、ごめん』だってえ・・・。」
七海は明らかに、嗚咽している。
「まあまあ・・・。」ムギが前に出てきて、「私がいますから。落ちこまないでくださいね。」
「いや、あんた女だろ・・・。」
「だからいいじゃないですかあ・・・。」
ムギの目は、不自然に輝いている。
「え、ちょっと・・・。」
「待て待て待て待て!!」律が苦笑いしながら2人を抑え、方便を用いる。「実はうちの学校には、稚児さんと呼ばれる風潮があってな。たまに友達以上の関係を持つ奴がいるんだよ。」
「ち、稚児・・・。」
驚く榊野一同だが、
「あ、そう言えば聞いたことがあります。」
「世界?」
世界だけが話を合わせる。
「よくあるんですよね、男子校や女子校は。同性でついつい仲が良すぎて、バレンタインやホワイトデーでお菓子交換までしちゃうという。」
「お、わかってるじゃねえか、あんた。」
「『あんた』じゃなくて、お願いですから世界って呼んでくださいよ、田井中さん。」
世界のフォローに、七海も落ち着き、
「よ、よろしく琴吹さん・・・。お手柔らかに頼みます・・・。」
小さく言った。


「ええと、西園寺世界さんに、清浦刹那さん、甘露寺七海さんに、黒田光さん・・・。」
梓は必死に、ファンクラブメンバーの顔と名前を一致させようとする。
「別に無理しなくていいよ。案外顔と名前って一致しにくいし。」
「世界が言うと嫌味よ。」光は言ってから、「とりあえず、中野さんだっけ。どこか落ち着ける場所で、ゆっくり話さない?」
「・・・正直、私達も、じっくり話したいと思ってました。」梓達は、世界が誠争奪戦の当事者の1人であることを知っている。「正直、大事なことです。」
「まあまあ待て待て。梓、あのことは忘れよう。」律が小声で言って、「色々と西園寺達の趣味とか聞きたいしよ。ざっくばらんに話そうぜ。」
「ふふふ、私もですよ、田井中さん。」世界は笑って、「とはいってもファンクラブの受付をしているから、動くこともできないですかね。」
「ま、とりあえず古今東西ゲームでもやろうぜ。」
律はノリのままに、発案した。
「ん? ファンクラブの呼び込みとか、しなくていいの?」
「彼氏を探しているなら、私たちも協力しますよ。」
すでに彼氏のいる七海と世界が、ポカンとしつつ尋ねた。
「あー・・・どうしようかな・・・。」
律も思わず、思いとどまってしまうが、
「私は、女水入らずのほうがいいですよ。皆さんもそうでしょ? もちろん、りっちゃんの彼氏は紹介してくれるとありがたいですが。」
ムギが前に出てきて、話を元に戻す。
「それもそうね。やっぱり男が入ると、なんか話が合わないし。」光は早速のってきた。「今だけしか水入らずは楽しめないわよ。古今東西ゲーム、やろうよ。」
「やるか!」
「やろうやろう!」
みながはしゃぐ間、梓は律に、
「伊藤や桂のことに関して、聞かなくていいんですか?」
「何言ってんだよ、私たちの入るところじゃねえだろう。あいつらで解決すべき話さ。」
「でも、ひょっとしたら取り返しのつかないことに・・・。」
「大丈夫だってば。」
律はなんとかなだめて、「やろうぜ!」と声をかける。
浮かない顔の梓を、刹那は冷静な目で見ていた。


お化け屋敷に入り込み、唯も誠も、思わず息をのんだ。
セットがぐちゃぐちゃになり、『冷たい手』や『傘お化け』が、無様な格好で倒れている。
それをかき分けかき分け進むと、薄暗い部屋に、保健室のベッドが一式。
その横で、泰介がなぜか股間を抑えながらうずくまっている。
ヘアスプレーの残り香が、まだ残っている。
「泰介!?」
誠は思わず駆け寄る。
「あ・・・誠かあ・・・。」
「言葉が来ているはずだけど、今どこに・・・まさかお前・・・?」
「いやあ、ほんの冗談のつもりだったんだけどさ。」
その間、唯はベッドの下に、『あるもの』が入った箱を見つけ・・・。
それを1つ、上着のポケットにねじ込んだ。
泰介はバツが悪そうに話を続ける。
「直前に止められてさ。桜ヶ丘の、桂さんとよく似た子に・・・。」
「桜ケ丘? 言葉によく似た?」
「お前も見ただろ、喫茶店で。放課後ティータイムの黒髪ロングの子。」
「それって・・・澪ちゃん?」
唯が口を挟んできた。
「あ・・・そうですよ。挙句俺の大事なところけり上げて・・・。」
成程、いいところ狙ったもんだな。誠はちらと思った。
「おい泰介、」誠は声を張り上げ、「言葉を見てりゃ分かるだろ、あいつはいつも俺のことを気にしてるって。それをお前は強引に・・・!」
「そうよ、それを貴方は・・・!」
唯が同調してきた。
「あのさあ、1対2ってつらいんですけどお・・・。」
「ったく・・・。」誠はため息をついて、「それで、その人と言葉は今どこに?」
「わかんないよ・・・すぐ行っちゃったし。」
「澪ちゃんからメールが来てるといいんだけど・・・。」
ふと、唯と誠の携帯から、音のない振動が伝わってきた。
2人とも、とってみる。
『ごめんなさい、心配かけて。
実は今、桜ヶ丘の秋山さんと一緒に、屋上にいます。
待ってますね。
言葉』
『悪いが、ちょっと桂と話がしたい。
どこかでゆっくりしててくれ。
澪』
「言葉・・・。」
「澪ちゃん・・・・。」
2人の声が重なった。
「「あ・・・。」」
「どうやらお2人にとっても、深い仲のようですなあ。」
泰介がチクリと皮肉った。
誠はそれを無視して、
「とりあえず、行こう。」
「え、ちょっと・・・。」
なぜか唯は乗り気でない。
「あー、ちょっと平沢さん、」泰介は起き上がりながら唯の肩に触れ、「せっかくだから俺とつきあわね? 誠には西園寺が・・・。」
「付き合うわけ、ないでしょっ!!」
唯は思わずカッとなり、泰介の股間をけり上げた。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
奇声を上げて泰介は、再び床をごろごろと転がった。
誠は呆れてものも言えず、休憩室を後にした。


セットをできる限り元に戻し、進んでいく誠。
が、目の前に唯が大の字になって行方をふさぐ。
「だめ!」
「ど、どうして・・・。」
戸惑う誠。
「今、桂さんのところに行ったら・・・・伊藤君、そのままな気がするから・・・。」
指をつつきながら、唯は小声になる。
「そのまま? 訳わからないこと言わないでくださいよ。さっきはあんなに言葉のこと心配していたのに。」
「それは、桂さんに何かあったからと思ったから・・・無事な状態で会ったなら、伊藤君、そのままのような気がしてならない・・・。」
「・・・?」
「桂さんのところへ、行っちゃダメ。」
「・・・・。」
「ダメ。」
唯の細かな手が、誠の太い腕をつかむ。
触れた手は、暖かいというより、熱い。
「・・・どうして・・・。」
誠も、顔が熱くなり、胸が少しずつ高鳴っているのを感じていた。
見かわした唯の目は、潤んでいる。
ぐちゃぐちゃになったジオラマのせいで、外からは見えない。誰か来る気配もない。
泰介は転がって動けないようだ。
しばらく、お互いに何も言えない時間が、続いた。


最初に口を開いたのは、唯だった。
「ずっと、好きだったから・・・。」
誠は、耳を疑った。
まるっきりの冗談だと思い、
「あ、ありがとう、平沢さん。」
と、とりあえず言っておく。
「ドジだし、天然だし、伊藤君の好みではないかもしれないけど、この思い、桂さんにだって、負けないから・・・!」
唯の激しい言葉に、彼は呆然となる。
「え・・・?」
それでもまだ、冗談だと思った。
「学校だって違うし、桂さんや、あの子よりも付き合いは深くないかもしれないけど・・・
ずっと、ずっとずっと、好きだったんだから!!」
ドンっとした告白に、彼は思わず圧倒されてしまった。
「・・・好き・・・。」
「・・・平沢・・・さん・・・・。」
誠は生唾を飲み込む。
緊張のあまり、体が硬直していた。
スッ
気がつくと彼のこめかみに、唯の右手が伸びている。
彼女の細い手が、誠の頬に触れて・・・。
「だめですよっ!!」
誠は思わず、唯の手を払いのける。
「すでに俺には・・・言葉が・・・。」
「伊藤君・・・。」
そむけた誠の横顔が、唯にはしおらしくて仕方なかった。
「それに、世界だっているし・・・すでに迷っているんですよ・・・。」
・・・・
唯は気持ちを、どこにぶつけたらいいのかわからなかった。
「・・・わからないよ・・・。」
膨れ上がっていく気持ちを抑えながら、唯は誠から離れていった。
ぐちゃぐちゃになったお化け屋敷のセットをどけながら。
前髪に隠れて、唯の目はみえない。
「・・・!」
誠の腹の奥底から、ひやりとした感触がどんどん広がっていった。
「待ってください! 俺も、本当は・・・!」
セットを飛び越えながら誠は駈け出し、唯の腕をつかんだ。
誠の手が触れた瞬間、

その瞬間、唯の頭で、何かがはじけ飛んだ。

振り返って誠を真剣な目で見つめ、いきなり彼の口を口でふさいだ。
「・・・・・!!!」
誠を見ないまま、唯は目を閉じ、彼の胸に手を当て、キスを続けた。
ずっと口の感触を味わっていた。
男のごつごつした体に反して、口だけは柔らかい。
「・・・。」
今度は誠が、自分から唇を唯に押し付けてきた。
そのつもりはなかった。が、本能的に唯への思いに、反応していた。
短いはずなのに、2人とも、それがずっと長く、感じられた。
「!!!!」
もちろんその様子を、憂と純が見ていることには、気づいていなかった。


ようやく、お互いの口が離れた。
気がつくと2人とも、冷たい床の上に倒れている。
唯が、誠に覆いかぶさる形で。
2人とも、今の出来事で、体も顔も熱くなっていた。
額が、汗ばんでいる。
「平沢・・・さん・・・。」
紅潮状態で、目も薄目で、誠はささやくように言いかけた。
「だめ。」
唯が強い声で、それを制止する。
「え?」
「私のこと、名前で呼んで。
ゆ、い。
って。」
「え・・・そんな・・・。」
唖然とした。
もはや何が起きたのか、分からなくなっている。
それでも何とか理性を保って、
「ちょっと待って、俺のほうが平沢さんより年下じゃ・・・。」
「そんなの関係ない。1歳しか違わないんだし。それじゃ声も出ないなら、唯ちゃんって呼んで。」
ぼんやりした表情で、誠は、
「・・・唯・・・ちゃん・・・。」
「ありがとう、マコちゃん。」
唯は耳元で、囁いた。
「え?」誠は目を丸くして、「マコちゃん?」
「そう、誠君だから、マコちゃん。やっと言えた・・・。」
「そうか・・・。うれしいな・・・。」
別にあだ名で呼ばれてうれしいはずはないが、なぜか、うれしく感じられた。
誠の胸のあたりで、唯が頭を預けていた。思わずポヤーンとしてしまう。
というより、この短時間の間に、様々な出来事が起きすぎて、ただ、頭がマヒしている。
とはいえ・・・。
これでいいのか、とも思う。
自分が堕ちていくだけじゃない。
唯の純粋さ、純潔さまで、彼女がアタックし続けることで、穢れていくのではないか・・・。
そんな思いが、こまつぶりのように頭の中で回転していた。
そばにいてほしい。
でも、自分も唯も、それでいいのだろうか・・・。


「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
一部始終を見届けた純は興奮状態。
「すっご! すっご! すっご! 唯先輩、積極的!! 自分から男にキスするなんて!!
くうう、初々しい!!
絶対いいカップルになるわよ!! ね、憂・・・・憂・・・?」
憂の姿は、どこにもなかった。
「憂―、どこー?」


「古今東西、ジブリ映画の名字の最初と名前の最初を入れ替えて!」
「ポケの上のガニョ!!」
「ガニョって何・・・?」
「菅と千尋の蝉隠し!」
「何その蝉隠しって・・・。」
「瀬渡元気!!」
「なんか子供向けの本みたい。」
「サクリコ・・・コカから。」
「語呂悪いなあ・・・。」
古今東西ゲームで、みなが様々な突っ込みを入れる中で、梓は不安な思いがドロドロとたまっていた。
「はっはっはっは! こうしてみると宮崎駿ってタイトルに力入れてるよなあ。」
「そうですね。まあ、だから世界的に有名になるんでしょうけど。」
律と世界が特に盛り上がり、笑いあっている。
「ムギさん、古今東西ゲーム、上手いじゃないですか。」
「そうですか? でも私、あまりやったことないんです。」
「ま、そのうち慣れるでしょう。」
最初はぎこちなかったムギと七海も、ゲームが進み、自然体で会話している。
余りにうまくいきすぎて、周りを寄せ付けないほどだ。
その様子を、微笑しながら眺める刹那。
だが、梓はいたたまれない。
言ってはいけないことを、ついに口を滑らせてしまった。

「いったい何なんですか・・・?
伊藤って何なんですか!? 桂って何なんですか!?」

「梓・・・・!」
「梓ちゃん・・・!?」
「「中野・・・!」」
「「中野さん・・・!」」

梓は『しまった』と思ったが、すぐに気を取り直して、隣の刹那に
「いったい何なの・・・。どんな人なの、伊藤も桂も・・・。清浦、学級委員の貴方ならわかるでしょ・・・。」
「? 何で急に伊藤と桂さんが出てくるのか、分からないけれど。」
刹那は、表情を変えずにしらばっくれる。
「何言ってるんですか、榊野でも噂になっているんじゃないんですか? 
唯先輩が伊藤とラブラブの仲って。
伊藤は西園寺と付き合っているし、桂ともいい仲なのに唯先輩に近づいてるって!
それって、・・・浮気・・・ですよね・・・。」
急に淀んだ雰囲気が、場を覆ってしまう。
梓はそれを悟りながらも、もう後戻りできないと思い、
「清浦、ちょっとこっちに来て。」
刹那の腕を引っ張り、廊下へ行ってしまった。


「実はね・・・。」
2人きりになってから、梓は刹那に懇願した。
「唯先輩と澪先輩を探してほしいの!!」
「唯先輩って・・・平沢さんのこと・・?」
刹那は表情を変えずに答えた。
「唯先輩も澪先輩も、多分伊藤や桂を探していると思うんだ。2人とも、あの2人が好きみたいだし。」
「やっぱり、そう?」
刹那の目が、ふっと真剣になる。
「でも、伊藤も桂も、なんか悪い噂の絶えない人たちみたいで・・・とりあえず、唯先輩や澪先輩を捕まえて、とっとと帰るつもり。」
「なんで? せっかく今、仲良くなりかけてるのに?」
「だから嫌なのよ!」梓は大声を上げた。「もう、あいつらとは関わりたくない。
あいつらに会ってから、唯先輩も澪先輩もおかしくなった・・・。
ほとんど唯先輩は伊藤の、澪先輩は桂のことしか考えなくなって、あいつらのことばかり気にかけるようになって・・・。
それまでは、うちの軽音部は平和だったのに、ぐだぐだやりながら仲良くやってきたのに・・・それが全部壊れそうなのよ。
伊藤や、桂のせいで。」
刹那は、梓の目を覗き込んだ。
「・・・・?」
「本当にそれで、すむと思う?」
「・・・たぶん、すまないとは思っているけど、それでも顔を合わせなければ、お互いに忘れていくだろうと思うのよ。」
「せっかく仲良くなってるのになあ。田井中さんと、世界は。」
「いや、もちろん西園寺はいい人だと思うよ。甘露寺や黒田だって。でも・・・。」
刹那は、梓の言葉に直接答えず、別の質問を持ち出した。
「平沢さんは、伊藤のことどう思ってるの?」
「・・・。好きらしいですよ。『マコちゃん』なんて言ってましたし。」
「そう・・・。」刹那はため息を1つついて、「実は伊藤も、平沢さんのことを、少なからず意識し始めてるんだ。」
「え・・・!?」
梓の顔から、血の気が引いて行った。
「実は私と七海と光で、平沢さんが近づかないように見張ってたんだけど、それから急に伊藤、笑顔がなくなってしまって・・・。少し前に、世界とけんかしたみたいだし。」
「そうなの・・・。」
「たぶん、平沢さんに近づけなくなったから、伊藤も欲求不満がたまっていた。そう私は思うんだ。」
「・・・。」
「たぶん、私達が干渉すべきことじゃないよ。伊藤や、平沢さんが決めることだと思う。」
「そんな・・・。」
「それに桂さんも、クラス中の女子から嫌われいじめられていて、誰も頼る人がいないんだ。」
「・・・まあ、あのスタイルにはやっかむ人も多いだろうね。」
「だからこの前私、『頼れる人間には頼ったほうがいい』と言ったんだ。」
「それで?」
「秋山さんが桂さんに強い興味を示してるんだとすれば、ひょっとしたら、桂さんにとっても、秋山さんが
『唯一の頼れる人』
なのかもしれないんだよ。伊藤はどうもふらふらしてるし。」
「え・・・。」
「今更2人を裂こうだなんて、残酷なことができる!?」
梓は、言葉が出なくなってしまった。
「清浦・・・。」
「ん?」
「私・・・私たち、どうなるのかな・・・。」
うつむき加減になる梓に対し、刹那は
「どうなるも何も、なるようにしかならないんだろうけどね。
『人間万事西郷が馬』と思ったほうがいいよ。」
「塞翁が馬です、それを言うなら。」


「刹那と中野さん、どうしたのかしら・・・。」
残った5人は、呆然としている。
「そう言えば、誠も遅いな・・・。どんだけ先のトイレに行ってんだか・・・。」
と、世界。
「ま、でっけえ方なんじゃね。」
「・・・あのね、りっちゃん。女の子の前で大とか小とかいうもんじゃないわよ。」
諌めるムギ。
「桂の奴は、澤永が今頃『足止め』しているはずなんだけどな・・・。」
「七海、あんまり手荒なことはやめた方がいいって、言ったじゃない・・・。」
顎に手を当てて呟く七海に対し、今度は世界がたしなめる。
「それにしても、伊藤って奴は、」律も表情を曇らせ、「私も気になる。唯の奴、本当に伊藤を好きみたいだしよ。」
「うわっちゃー!」七海はこめかみを押さえつつ、「やべえよ、それ・・・。」
「伊藤、どんな奴なんだ?」
「早い話が、カイショウナシ。優柔不断。」
「・・・そう・・・?」
ムギは唖然となる。
「世界の彼氏だというに、桂とかに目移りしやすいしよお・・・。」
「まあ、」律が口をはさむ。「桂に関しても、あまりいい噂を聞かないなあ。」
「あいつは男受けばかり良くて、最低だからね。私はあいつと中学でも同級生だったんだけどさ、女子みんなに嫌われ無視されてたようなフェロモン女なんだから。」
「ねえ、」七海の横から、光が顔を出し、「何とかムギさんや田井中さん達も、私たちに協力できない。平沢さんや桂さんが、伊藤に近づかないように。」
「それは・・・。」
「私見たけど、いっつも伊藤は平沢さんのことで鼻の下を伸ばしているのよ。なんとかあいつに、もうちょっと節操をもってもらうようにしないと。殴ってもかまわないわよ。」
「そう言われても・・・。私、そういう強引な行動は苦手ですし・・・。」いつも笑顔のムギが、暗い表情になる。「肝心の西園寺さんは、どうしたいのですか?」
世界もうつむき、
「それは・・・その・・・・。」
「もうちょっと強硬手段に出るべきだよ、世界!!」
七海が世界に叱咤する。
「私だってそのつもりだったよ、七海。でも、かえって逆効果だったじゃない・・・。」
「おいおいおい・・・。」律はもはや、呆れてしまった。「伊藤がそんな奴なら、とっとと別れて、別の男見つけりゃいいじゃねえかよ。」
「ううん、」世界は首を振って、「誠は、本当はそんな人じゃないから。いい奴だから、ずっとそばにいたいと思ってる。
普段は豆板醤チキンおごってくれたり、リラックマのぬいぐるみをくれたり、すっごい優しい人なんだから・・・。」
「はあ・・・。」
やがて、梓と刹那が戻ってきた。
「とりあえず、」刹那は落ち着いた表情で、「中野はちゃんと宥めたから。話題変えよう。」
「そうはいかねえよ。」七海は焦りを隠さない。「大体、平沢さんは放課後ティータイムのメンバーなんだし、当事者なんだぜ。あなたたちも、何か知ってるでしょ。」
「私たちは知らないです。」ムギは答える。「全部唯ちゃんや澪ちゃんの問題。あの2人が幸せなら、それでいいって思ってたし。」
「知らないわけないでしょ! それにあいつらにとってはよくても、こっちは迷惑なんだしさ!!」
「落ち着いて!!」
刹那が声を強めた。
「とりあえず、西園寺。」大きく息をして、律が世界に、話を振った。「もうこうなったら、腹切って話すしかねえな。話し合おうじゃねえか。」
「腹割って、です。」
今度は、律が世界の腕を掴んで、その場を離れる。
だれも止める者はなかった。
「甘露寺さん・・・。」
ムギが口を開く。
「ムギさん?」
「私、甘露寺さんのこと好きだから。甘露寺さんのためなら、何でもできるから・・・。」
「そうかい・・・?」
目をわずかに細めた七海。
ふと、携帯の音が鳴る。
刹那と梓は、2人を浮かない表情で見つめ・・・。


律と世界は、2人きりになった。
「ま、優しくされて好きになるのはわかっけどよ、あんまりそいつにこだわることもねえんじゃねえか?」
世界は、少し厳かな顔になった。
「たぶん田井中さんは、恋愛なんてしたことないからそんなふうに思えるんだと思います。」
「・・・・。」
「クラスでも隣同士なんだけど、声をかけられるたびドキドキして・・。
好きって言われたから、とてもよかった。」
「はあ・・・。」
「えっちして、気持ちいいってこともあったし・・・。」
「・・・生々しいからやめてくれ・・・。要は、確かに伊藤が、西園寺のことを好きって言ったんだよな。」
「え、ええ・・・。」
うつむいたままで、世界は答える。
「何だ、伊藤も西園寺を好きって言ってるんじゃねえか。」
「ええ・・・。」
律は頭をかきながら、顔を天井に向けて、
「だけどよ、澪の話によれば、元々伊藤の彼女は桂で、あんたが寝取った、というらしいのさ。」
「それは・・・。」
ある意味では、真実である。
「細けえことはよくわかんねえし、澪は桂のこと、好きみてえだし、澪が桂に肩入れするのは構わないとは思ってる。」律は携帯のメールを見ながら、「今も屋上で、桂と一緒にいるみたいだしな。
でもね、私は・・・。」
「私は?」
「澪は私の幼馴染でさ、正直あの桂って奴には嫉妬してるのさ。」
「嫉妬?」
「あいつが桂に妙に興味を持ってるってことは、前々からわかってた。だけどよ、相手がどこの馬の骨とも分からん奴っつーのは、幼馴染として面白くねえと思わねえかあ?
澪より美形なのはわかるが。」
「・・・いや、私そういう趣味ないですし。」
「ならいいや・・・。とにかく、澪を虜にした桂に関して、もそっと知りてえしよ。それにあんたにも、かばう人間が1人いねえとな。」
「・・・私のこと、かばってくれるんですか?」
「最初は干渉しないようにしようって思ってたんだけどな。
梓のせいで、干渉が避けられなくなっちまった。
まあ、それだけってわけじゃねえさ。西園寺と話すとなんか楽しいし。」
世界の表情が、急に明るくなる。思わず声をあげて、
「私も、田井中さんが本当に魅力的な人だなって! 面白い人だなって思ってます!!」
「・・サンキュ。」
「でも、桂さん・・・うちの学校では浮いているから、桂さんに好意を持っている人が1人でもできるのは、いいことだと思いますよ。
それに田井中さんの友達・・・幼馴染とくれば。」
「西園寺・・・。」
「・・・ただ正直、秋山さんを味方につけて誠を奪おうというなら、私は・・・秋山さんも・・・。」
世界のこぶしに力が入るのを見て、律はため息をつき、
「だーから、奪われたら別の奴を探しゃあいいって。」
「まあ、誠が私の彼氏になって、桂さんや平沢さんとも和解できるのが理想なんですけどね。」
話していると、七海が息せき切って駆け付けてきた。
「大変だ! 大変だ! 大変だ!!」


小高い場所で、秋の木枯らしが吹きこむ。ベンチの横で、無数のボイラーが、ファンを回している。
ここは榊野学園の屋上だ。
「ううーー、寒い・・・お化け屋敷壊しちまったし、どうしようかな・・・。」
青いベンチで、澪は肩を抱えて震える。
隣の言葉は、目を泣き腫らしていた。
「あ・・・そっか・・・。」澪は言葉に目を向け、「桂のほうがショックだよな・・・。」
「そうじゃなくって、嬉しいんです・・・。」
言葉の口元には、微笑みがある。
「あ・・・。」
澪は思わず、頬を赤らめた。
「私、ずっと男子からやらしい目で見られたり、そのことで女子からも冷たくされてたんですけど・・・。
私のこと、心から気にかけてくれる人がいましたから。」
「あ、いや、その・・・」澪は横を向きながら、「今度あんなことがあった場合、思いっきり玉蹴るべきだと思うぜ。律から教わった護身術なんだけど、効果てきめんだし。」
「・・・・。」
「それより、伊藤に連絡しなくていいのか? たぶん探してると思うぜ。」
「誠君には、すでに連絡しました。 秋山さんは大丈夫ですか?」
「ま、メールは送ったから、大体みんな納得してるだろう。」
目を丸くする言葉に対し、
「こんな感じで、グダグダやってんのさ・・・。」澪は言ってから、話題を変える。「どうだった、うちのライブ?」
ふと、言葉は悲しげな表情になり、
「・・・ごめんなさい・・・実は用事があって、ライブに行けなかったんです・・・。本当は、いきたかったんですが・・・。」
それを聞いて、澪は急にズーンとなってしまった。
「そうか・・・残念だな・・・。」
「でも! 秋山さんのベースも歌も、本当は聴きたかったんです!! 本当なんです!!」
「ほんとに?」
「はい。」
沈んだ気持ちが、急に浮き上がる。
言葉の手を握り、
「嬉しい! 是非とも聴いて!
『ふわふわ時間』。
私が詩と曲を作ったから、自信あるんだ!」
澪は胸に手を当て、アカペラで歌を歌い始めた。


階段から屋上へと出ると、急に冷えた風が吹き込んだ。
唯には初めてだが、誠にとっては、おなじみの場所であった。
かつて言葉や世界と一緒に食事していた場所。
だが同時に、自分と世界がホテル代わりに使っていた所にもなっていた。
その意義深い場所で、歌声が聞こえてくる。

『♪キミを見てると いつもハートDOKI☆DOKI
揺れる思いは マシュマロみたいにふわ☆ふわ♪』

放課後ティータイムのライブで聴いた曲だ。
音楽はともかく、歌詞は聞いただけで体中がかゆくなるような詩。
「澪ちゃん・・・・。」
すぐ後ろの唯は、うっとりとした表情で聴いているが。
声のする方は、ベンチだ。
ベンチへと向かうと、歌声が突然やむ。
かすかに、あの時の視線を感じた。
誠と目があったのは、姫カットの前髪、長身の女子生徒。
「秋山さん・・・?」
「・・・伊藤だね。」
澪は注意深く表情を消している。
「誠君!!」
澪の横から言葉が飛び出し、誠の首に抱きついた。
「言葉・・・大丈夫だったんだ・・・。」
「はい・・・でも・・・うれしかったです・・・。」
安らいだ表情の言葉。
その隣で、澪が呆れたような顔になり、
「唯・・・やっぱりこうなるのか・・・。」
と呟く。
誠の背後で、唯は顔を赤らめてかしこまっていた。
「どうしてここにいるんですか!? もう誠君に近付かないでといったのに!!」
唯の肩を掴んで詰め寄る言葉に対し、
「桂!」
たしなめる澪。
「言葉、」誠は横から、「唯ちゃん、ずっと言葉のこと心配してたんだぜ。」
「唯ちゃん?」
澪が耳ざとく突っ込む。
「あ・・・。ひ、平沢さん!」
ごまかしても、澪も言葉も、ためにならないほど多くを読み取ったようだ。
「誠君・・・・。」誠を向いた言葉の目は、疑念にみちている。「秋山さん、何とか平沢さんに言ってくれませんか!?」
「桂、私は唯の友達でもあるんだ。」
澪は首を振った。
と、
「桂さん・・・良かったあ・・・。」
唯は言葉に抱きつき、頭を言葉の胸に押し付ける。
「平沢さん?」
「よかったあ、心配したんだから・・・・。」
言葉の大きな胸に顔をうずめて、泣いている。
「平沢さん・・・。」
唖然として、言葉は唯を見下ろした。
「ライバルなんだから、お互い無垢な状態で、きっちりと勝負したかったんだよ。」
「「らいば・・・!!」」
澪と誠の声がハモる。
誠は不意に、唯の唇の感触を思い出し、後ろめたい思いになった。
スキンシップを許した揚句、いつの間にやら・・・。
自分の流されやすい性分を、呪った。
「伊藤。」
澪が誠に、声をかけた。
「はい?」
次に澪は赤くなって、視線をそむけ、
「なんでもない・・・。」
「秋山さん?」
「澪ちゃんは恥ずかしがり屋だから、」唯は澪の肩をたたき、「男の子とうまく話せないんだよ。ね、澪ちゃん。」
「ち、違うっ!!」
「いや、ははは・・・。」
誠は思わず笑ってしまった。
「秋山さん、無理しなくていいですから・・・。」


律たちと世界たちは、お化け屋敷の前まで来ていた。
七海が『お化け屋敷が荒らされた』という知らせを聞いたためだ。
案の定、休憩室周辺の小道具が、すべて引き倒されている。
「うわっちゃー、童貞卒業の場所がぐちゃぐちゃじゃないか・・・。」
目を丸くする律に、
「この分だと、先生にもばれたかな。」
呟く七海。
「こそこそやってたのね・・・。」
ムギは引きつり笑いをしながら言った。
「あなたたちにも彼氏を紹介して、使わせたいと思ってたんだよ、あの休憩所。」
七海は一応のフォローをする。
「その、私は、甘露寺さんと・・・。」
ムギはいいかけて、律に口をふさがれ、
「い、いや、心遣いサンキュー。」
「・・・とりあえず、私達で直すしかないわね。」
世界が真っ先にセットを修復していく。
一部分は、誰かが修復したように直っているが。
「あ、律先輩!! こんちはー。」
声がしたので、そちらのほうを向くと、純。
「おっす、純、どうした?」
「見たの、見た見た! 唯先輩がオトコをつれて廊下を走ってる姿。」
「え、お、男・・。」
梓が口にしわを寄せて答える。
「私もメロメロになるほどのイケメンだったんだけどね、唯先輩のオトコ。」純は頬を紅潮させて、早口でしゃべる。「唯先輩特上の彼氏を手に入れただけじゃなくて、すごいんですよ!! 自分からキスしてたのよ。ぶちゅーって!!」
「『ぶちゅー』はやめい。」律は苦笑いしながら、「ひょっとして、伊藤にか?」
「伊藤・・・そうそう、伊藤って人に。唯先輩って積極的ですねー!! 絶対モテるわよ。ひょっとしたらあの人とロストバージンしたとか? あははは!!」
ベラベラベラベラしゃべる純。放課後ティータイムの3人はどんどん顔が青ざめていく。
「・・・唯の奴、そこまでいったのかよ・・・。」
「手、早すぎじゃない。」
「そんなことありえませんっ!!」梓が怒鳴り散らす。「唯先輩に、唯先輩に限って・・・・。」
世界と友人たちの空気も、かなり淀んでいることに感づいた結果。
「誠、まさか・・・。光の言っていた通り・・・。」
「・・・あいつ・・・。」
「やっぱり、浮気してたのね。一発殴ってやらないと、だめかねえ。」
いきり立つ3人の中で、刹那だけが冷静。
世界は、ふいと思い立ったかのように、
「ちょっと、屋上行ってくる。」
そういって駆け出してしまった。
「これも、一種の奇縁かねえ・・・。」律は呟いてから、「ちょっと西園寺の様子、見てくる。」
「り、律先輩まで!?」
「深入りはしねえよ。西園寺の様子を見るだけさ。」
律は、世界の後を追っかけた。
最後に、一つ付け加えた。

「私達と西園寺達、似た者同士かもしれないぜ。
あのバカ2人に振り回されている被害者。」

「どうしたのかしらね、律先輩も。憂もどこ行ったんだか。」
つぶやく純。
「なんだなんだ。」
休憩室の奥から出てきたのは、泰介。
「澤永、どうした?」
「平沢さんと誠に怒られたんだよ。桂さんが俺に気があるって、嘘ついたな、甘露寺。」
「い、いやあ・・・すまないね・・・。」
「大丈夫だよ、澤永には私が・・・。」
にっこり笑う光に気づかず、泰介は小声で放課後ティータイムのメンツに、
「確かに平沢さんと誠は、傍から見ても似合うけどな。童貞卒業までいってねえ。」
「でも、」梓は心配げに「キスしたって・・・。」
泰介は頭をぽりぽり掻きながら
「ああ、してた。俺も這って目撃しちまったよ・・・。」
「でも! 伊藤は西園寺の彼氏だって・・・。」
「まああいつ、流されやすいからなあ・・・。」
「・・・ここまで情けないとは・・・。」梓は呆れてものも言えず、「何とか唯先輩を伊藤から奪回したいんですけど、何とかなりませんか!?」
ずいっと迫られ、泰介はオドオドしつつ、
「い、いや、無理だろう・・・向こうは誠に気があるんだし、誠だって平沢さんのことを話すときは・・・。」
「大丈夫!!」
普段出さない大声を張り上げたのは、刹那。
「清浦?」
「私も最悪の状況だけは、中野と一緒に止めたいと思っているし。」
唖然とする一同。何を根拠にそう言えるのか。
梓はつぶやく。
「うちの軽音部、どうなっちゃうのかな・・・。」



続く


今回のおまけ
いってみるか、青と赤、特別編

放課後ティータイム『Cagayake Girls』
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Still I love You ~みつめるよりは幸せ~
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小説『Cross Ballade』 第6話『思慕』
けいおん!×SchoolDaysクロスオーバー小説第6弾。


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【 2011/11/24 22:41 】

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