Cross Ballade 第11話『猛撃』
けいおん!×School Daysクロスオーバー小説、第11弾
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CROSS EPOCHに追い付け追い越せでこの小説を書いてきたけど、まだまだ未熟な点は多いね。
CrossはクロスオーバーとCROSSEPOCHのクロス。
Balladeはけいおんにちなんで音楽関連用語、さらにスクイズの雰囲気を考慮してつけた名前。
山あり谷あり、緩急つけて描いたつもりだけど、まだ文章表現や構想力で不足があるかな。

でもとりあえず、最後まで書きたいという思いは変わってません。
では学祭第2日、どうぞ。

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Cross Ballade 第11話『猛撃』



朝の陽ざしどころか太陽までも現れず、外は夕闇とみまごうぐらい、ネイビーブルーになっている。
外からは新聞配達のバイクのエンジン音や、鶯の鳴き声だけが響き渡る。
クマのぬいぐるみなど、いかにも女の子な趣味というべき、唯の部屋。
まだ4時半にもならないうちに、唯は目覚めてしまっていた。
彼女の頭に響く、あの声。
『償いたいのは、俺の方だよ。親父のしようとしていることも含めて。』
『誠のそばに、いてやってください。』
無意識のうちに、足を大きく振って、反動で起き上がる。
学生服に着替え、猫のような足取りで階段を下りていく。
靴を履こうとするとき、茶色い靴を間違って蹴ってしまう。
カタン、と音が鳴るが、誰も起きてこない。
2階に向かって手を合わせ、外へ行き、鍵をかける。
なぜこうしているのか、自分でもわからないが。
只一つ。
マコちゃんに会いたい。
それだけが、唯の頭の中を占めていた。


カーテンに光が差し込み始めた。
が、青い床、白い壁の誠の部屋は、暗い。
尿意を催し、誠はフラフラと起き上がった。
用を足して戻ってくると、白い充電器にかけていた自分の青い携帯が、音のない振動を鳴らしている。
隣の時計を見ると、まだ早朝。
こんな時間に、誰だ?
不機嫌にメールを開いてみた。
『おはよう。いい朝だね。
マコちゃんちの窓から、下見てみてよ。 唯』
「唯ちゃん・・・?」
半信半疑で窓を見た。
息をのんだ。
唯が学生服で、左手を振っている。
「おはよう!」
どうなってるんだと思いつつも、急に不安が誠の頭をよぎって、急いで深緑色の普段着に着替えて外に出た。


「おはよう!!」
元気よく声をかける唯だが、誠は全速力で駆けより、
ガッ!!
強く唯を抱きしめていた。
思わず頬を染め、恍惚となってしまう唯。
「・・・マ、マコ・・・ちゃん・・・?」
「だいじょうぶ? 何ともなかった?」
「え・・・何ともなかったって?」
「親父のこと。」
「マコちゃんのお父さんは、全然見かけなかったよ。」
「そ、それはよかった・・。」
とはいうものの、誠も困った。
母も熟睡しているだろうし、まさかたたき起こすわけにはいくまい。
恍惚としていた唯は、無意識のうちに、誠の背に自分の腕をまわしていた。
彼は、思わぬ唯の行動に頬を赤らめ、
「あ、あのさ、唯ちゃん・・・ご飯食べてきた・・・?」
「あ、そうだねえ。行くときにおなかすかないように、バームクーヘン1個食べてきたけど・・。」唯は頭をポリポリ掻きながら、「意外とおなかにたまるから、しばらく食べなくて大丈夫だよ。」
「そう・・・。」
ああ言ってはいるものの、1時間もすればすぐに腹が減るだろう。
誠は考えた挙句、
「あ・・・じゃあ俺が作るから、家でゆっくりしててよ。」
「え、でも・・・。」
「遠慮しないで。」
唯から離れた後、誠はマンションの入り口まで、唯の手を引っ張って連れていく。
おそらく親父は、唯を狙っているだろう。
家の中で少しかくまうだけでも、いいのではないか。
かたや唯は、胸がドキドキしてしょうがなかった。


つややかな檜のイスとテーブルがある、リビング。
壁に手作りパンの写真も飾られてある。
真っ赤なケチャップのかかったスクランブルエッグを作り、青菜やパンと一緒に差し出す。
「うわあ、おいしそう!」
「普通のスクランブルエッグだよ。」
目を輝かせる唯に、誠は笑いながら答えた。
母さんは起きてないだろうか。
一方唯は、もじもじとちょっと恥ずかしげに、何か言いたげに、上目遣いで誠を見ている。
「ん・・・どうかしたの・・・?」
と、誠。
そわそわするのをやめ、唯はゆっくりと口を開き始めた。
「あのね・・・今日だけでも・・・学祭だけでもいいから、私と・・・付き合ってくれない?」
誠は、迷った。
学祭で一緒に女の子を連れていくということは、付き合っているということを証明することにもなる。
それを皆に見せるということは、つまり・・・。
だけど、目を離したら、そのすきを見て親父が狙ってくることだろう。
迷った挙句、彼は、答えた。
「いいよ。」
「ほんと! ありがとう!!」
喜びでいっぱいになり、思わず唯は、誠の首に抱きついた。
そこから誠の顔を見ると、頬が紅潮しているのが見て取れた。
「ふふふっ。マコちゃんってかわいいねえ。」
「か、可愛いって・・・そんな・・・。あ、それと、ご飯はおかわりしていいから。」
ドギマギしている。
「朝っぱらから何騒いでいるのよ・・・今日も夜勤なんだから、少しは親に気を使いなさいよ・・・。」
母の部屋から、不満げな声。
それと共に部屋から、誠の母が出てきてしまった。
どうやら起きてしまったらしい。
「ごっ、ごめんなさいっ!!」
唯は思わず深々と頭を下げた後、そこから正座の姿勢となり、誠の母の目の前で土下座した。
「私、マコちゃんやマコちゃんのお母さんに、迷惑をかけるということは分かってたけど・・・どうしても、どうしてもマコちゃんに会いたくてっ!!」
言ってから唯は、ゴツンと額を床にぶつけた。
母も言い過ぎたと思ったのか、
「あ、別に・・・気にしなくていいわよ。あ、そうだ誠、ちょっとこっちへ。」
誠は、しぶしぶ母に従った。


自分の部屋で、母は誠に低い声で問う。
「いったいこれ、どうなってるの・・・?」
「しょうがないじゃないか。俺が起きて窓をのぞいたら、唯ちゃんが来てたんだ。
このまま外においておくわけにはいかないだろう?」
「それもそうね。」
「それに、このまま1人にさせていたら、親父は絶対、狙ってくるだろう・・・。」
親子ゆえか、父親の行動が目に浮かぶように、誠には感じられた。
「あなたも、」母は誠に、「唯ちゃんのことが好きなのね・・・。」
誠は、頬を染めてうなだれ、
「そ、そうだよ・・・。でも、俺にはほかに・・・。」
「まあまあ、もし、唯ちゃんへの思いが、本当に強いのならば、世界ちゃんや言葉さんだってわかってくれるでしょう。
私は後で食べるから、唯ちゃんに世話してあげなさい。」
「あ、ありがとう・・・。」
「どうでもいいけど、無精ひげがそのままよ。」
いっとなって、顎のあたりをなぞると、中途半端にひげが生えている。
「やっべえ、唯ちゃんにかっこ悪いところ見せちゃったかも。」
「ま、あんな態度じゃ気にしない口でしょう。急いで剃ってきなさい。」


母の厚意に甘え、急いでひげをそり、誠は唯と一緒に、向い合せで食事をすることになった。
外はようやく、濃紺から快晴の青に変わろうとしている。
「ねえねえ、これマコちゃんが作ったの?」
誠の作ったスクランブルエッグを食べながら、唯はテーブルのバスケットに入っている物を指さす。
唯と誠をはさんで位置している、鳥の巣のようなバスケット。
その中にあるのは、自分が暇にまかせて作った、沢山の七宝焼きとシルバーアクセ。
種類も、ブローチからペンダントまで、沢山と言っていい程ある。
「そうだよ。それはシルバークレイで、粘土のように形ができるんだ。割と簡単に作れるんだよ。」
誠は穏やかに答えた。
母の趣味で、自分も子供のころから作っていたが、いまでは素人が作ったものとは思えないほどに形が整い、ブローチやペンダントとして、一応なしている。
本来ならこれは・・・学祭の日、強いきずなの証として、世界に渡すはずだった。
それが唯ちゃんと会ってから、曲折の末、結局世界と絶交状態となり・・・。
今頃彼女は、何をしているだろう。
また傷ついて引きこもってるかな?
バスケットの中でキラキラと輝いているアクセサリーを見ながら、誠は思いを巡らせた。
「ねえ、これ1つもらっていいかな?」
再び唯が、白銀色の指輪を指さして問う。
たしかに、沢山つくって沢山余してたから、渡すのも悪くなかろう。
「うん、いいよ。」
「やった!ありがとう!!」
ガタンッ!
思わず唯は立ち上がり、テーブルの紅茶をこぼしてしまう。
「唯ちゃん、またこぼしてるじゃん。それに、ほら、口にスクランブルエッグがついてる。」
「あはは・・・」唯は苦笑いをしながら、誠の手が動くより早く、ティッシュで紅茶を吹き、スクランブルエッグをとった。「ベラ・ノッテの時と同じ。いつもこぼしてばかりで、だめだよね・・・。」
「ううん・・・。むしろあの時のままのほうが、唯ちゃんらしくっていいよ。」むしろ微笑む唯が、誠にとっては微笑ましかった。「あのさあ・・・。どこいこっか。」
「どこって・・・。やっぱり学祭でしょう。」
唯は、何をいまさらといったような口ぶり。
「あ、でもまだ学祭あいてないし。」
「関係ないよ。マコちゃんと、いろいろな場所を見てみたいんだ。」
「・・・でも・・・。」
学祭。親父が狙ってくるのは目に見えている。
多少頭を抱えながらも、片手で近くにあったフリーペーパーをぱらぱらめくり、ピンと思いついて、
「まずはさ、榊野ヒルズに行ってみない?」
「榊野ヒルズ・・・そう言えば、いろいろと楽しめるところなんだよね。」
「ああ、プラネタリウムとか、アクアスクエアとか、いろいろ遊べるところなんだ。」
以前、誠は何回か行ったところのある場所。
言葉や世界と水泳したのを覚えている。
「どうしようかなあ・・・学祭前に行くのも悪くないかも。」
単純に考え、唯はOKした。
「じゃ、行くとしますか。」
誠は内心、ほっとする。


出発する直前、誠は、シルバーアクセのペンダントと七宝焼きのブローチを1つずつ取って、学生服の上着に入れた。
そのころには、夜が明け、隣のガソリンスタンドにも光がさしている。
唯は左腕を誠の右腕に組ませながら、うきうきと歩くことになった。
隣の誠は携帯で、今日の学祭の手伝いを休むことを話している。
携帯電話から聞こえてきたのは、詰り声。
「頼むよ、中曽根・・・。ちょっと事情あってさ。
親父が来て、その応対をしなければいけないんだからさ・・・そこをなんとか、残りのメンバーで頑張ってくれよ。三木や大平も、泰介だっているだろ・・・。
何、泰介や世界も休み?・・・世界はともかく、泰介は何やってんだか・・・。
な、頼む。後で掃除当番でも何でも引き受けるから! ね!!」
あとの片づけほど、学祭で大変なものはないが、それでも唯ちゃんが親父に手籠めにされるよりはましだ。
誠はそう、強く思った。
一方の唯は、気になってしょうがなくなり、
「・・・休み、もらえた・・・・?」
誠はすぐに、さわやかな笑顔を唯に向け、
「何とかもらえたよ。ただ、学祭後の後片付けを俺が引き受けることになっちまってな。」
「ほんと、ごめんね・・・。」唯は上目遣いになり、「私のために、マコちゃんにずる休みさせることになっちゃって・・・。」
「大丈夫だよ。親父が来たから、その対応をしなきゃいけないというのは、当らずとも遠からずだし。」
唯は昨夜、止がむけたどす黒い目と、あの男が自分の体を触っていたのを思い出す。
「あの人も・・・来るのかな。」
「あ、ごめん・・・思い出しちゃった・・・? 少なくとも今日1日は、俺が面倒見てあげるから。
安心しなよ。」
誠はふいと思いついて、
「たぶん親父は、榊野で唯ちゃんを待ってると思うんだ。少なくとも今日1日は、行かないほうが身のためだよ。」
説得を試みたが、
「ううん・・・、」唯は首を振って、「私、マコちゃんと本当の恋人になりたいから・・・。学祭の中で、きずなを深めたいの・・・・。」
何かを探るように、手をもぞもぞとスカートのポケットに入れている。
誠は、歩きながらじっと考えて・・・。
言葉に、メールを送った。


「あれ、唯―!」
「おねーちゃん、どこにいるのー??」
本来なら家族みんなで、食事にありついている平沢家。
だが今回は、そうはいかなかった。
唯がいなかったからである。
「どこいったのかしら・・・。憂、わかる?」
憂の母が、彼女に問う。
「どこ、か・・・・そうだ。」
憂が思いついた時、
ピーンポーン。
玄関の呼び鈴。
憂はだれよりも早く動き、応対した。
「はい、平沢です。」
『おや、唯ちゃんはいるかな。』
憂は呼び鈴の声で、背筋が凍ってしまった。
沢越止の声。
「・・・お姉ちゃんは、外出してます・・・たとえいても、貴方には渡しません。」
唸るような憂の声。止も不快になり、
「俺は狙った獲物は逃がさないたちでさあ。後悔しても知らないぞ。」
すぐに切ってしまった。
「誰から?」
聞いてくる母に対して、憂は、
「何でもない。」
とだけ、答えた。


1人で唯の家まで来ていた律は、家のドアの前にいる男を見て、息をのんだ。
肩までかかる長髪、筋骨隆々。
どす黒く濁った眼が、そちらをむく。
まぎれもない、沢越止。
「・・・・何の用だ。わざわざ唯のところまで来て。」
気がつくと、律の声が一オクターブ低くなっている。
「何って、唯ちゃんに会いに来たのさ。」
止の声は、悪びれていない。
「待ちなさい!!」
ドアから憂が、あわてて出てくる。
「お姉ちゃんがどこにいるのか、大体の察しはつくけど・・・貴方には教えない。」
「おいおいおい・・・いいのかなあ、そんなこと言って。ま、君も可愛いから代わりにはなるだろうけど。」
絡んできた止の手を、憂は払いのけ、真剣な視線で睨みつける。
「おばさんの言う通り、噂通りだったな。」
律は思いっきり、止のことをなじっていた。
「お、君もいい体してるしよう・・・。」
気がつくと止の手が、律の背に触れている。
「くっ!」
怒り狂った律。無意識のうちにトーキックを入れていた。
「あがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
止の股間に当たったらしく、奇声をあげながら、金的を抑えて止は逃げ出した。
「・・・ったく、しつけえ野郎だ。で、今回はどうしたんだ?」
息づきながらも律は、憂に問う。
憂の目は、赤い。
「お姉ちゃんが、朝起きたら、いなくて・・・。」
「はー?」思わず律は、唖然となってしまう。「いったいどこに行きやがったんだ?」
「何となく、察しはつくけど・・・。」
憂が曇った表情で向いたのは、誠の家がある方角。
律もすぐに察し、
「・・・伊藤んところか。ほんと唯の奴、どこまであいつにこだわるんだ・・・。」
「・・・律さんが伊藤さんに近づくなと言うから、お姉ちゃんはかえって怒っちゃったんじゃないんですか?」
「正直、あいつを警戒するに越したことはねえと思って、言ったんだけどよ。」律はこめかみを押さえつつ、「・・・悪かった。とりあえず、先回りして榊野に行くとするさ。いずれ澪も追い付くだろうし。」
「待ってください。澪さんは、甘露寺って人に狙われてるんじゃなかったんですか?」
「大丈夫だ。澪ファンクラブの人に、澪をガードするように頼んでいたから。」
「・・・ならいいかもしれませんが・・・。この分だと、榊野評はガタ落ちですねえ。」
「私は先行って、学祭の様子を見てくる。それと、西園寺にも電話しねえと・・・。」
「西園寺さん?」
「メールで知ったんだけどよ。」律は真顔で、「西園寺は、あの沢越止が外に作った子供らしい。」
「え・・・? じゃあ伊藤さんと西園寺さんは、血を分けた兄妹ってこと?」憂はあり得ないといった顔つきで、「一昔前の昼ドラじゃあるまいし、まさか・・・。」
「その『まさか』らしいぜ。あんとき消極的だったのも、そのためのようさ。」
「そうですか・・・。」憂は沈痛な面持ちで、「西園寺さんも、なんだか可哀想ですね・・・。」
「ま、どれもこれもあの沢越止が悪いんだけどよ。人間には多かれ少なかれ、運命ってもんがあるしな・・・それを乗り越えるしかねえよ。」
「・・・ま、私達はそれを自覚することもなく、のほほんとやってきたけどね。」
「まあ確かに。」苦笑いしながら、「澪から聞いたんだが、伊藤は親父のことでずっと悩んでいたらしい。それが事実なら、伊藤は一番、運命を自覚してる気がする。
・・・んなこたどうでもいいか。とりあえず、西園寺にも手助けしてもらわねえとな。
梓の野郎、もう榊野には行きたくねえ、生徒たちとも関わりたくねえって、だだこねてやがるし・・・。」
「そうなんですか、梓ちゃんが・・・。」
憂は眉をひそめる。
「しょうがねえよ、頼れる人には頼ったほうがいいさ。」
律は世界に電話をかけた。


古い、黒ずんだアパートの1階。
四畳半ほどの自分の部屋で、世界は布団にくるまったまま、すすり泣いていた。
「世界・・・。」
その傍らで、刹那が憐れんだ表情で見ている。世界の母は、仕事に行った。
ピリリリリ・・・
世界の携帯から鳴る、着信音。
取ろうともしない彼女に代わり、刹那が取る。
「はい。」
「ああ、西園寺! ・・・じゃなくて、清浦か。」
携帯から聞こえたのは、甲高い律の声。
「田井中さんですか?」
「ああ、そうだ。実はよ、沢越止って知ってっか?」
「さわごえ?」
「西園寺から聞いてねえのか。要はセクハラおやじでよ、唯がそいつに狙われているのさ。」
「・・・そうなんですか。」
低い刹那の声。
「何とかしてあいつを守ってやりたいんだけどよ、あんたや西園寺も手を貸すこと、できねえかあ。唯を応援してるんだろ?」
しばらく、刹那は黙っていたが、やがて口を開いた。
「お断り、します。」
「はあ・・・?」
「私もつかれた。もうこれ以上、平沢さんも桂さんも利したくないんです。」
「を、おい! 西園寺は応援してくれるんだろ!? なぜ唯を助けようとしないんだよ!?」
「世界も、もう絶望と言うことが完璧に分かっていて、ショックでまだ立ち直れないんです。いったん落ち込むと、なかなか立ち上がれないし。」
「そんなの・・・。」律はすこし考えてから、「じゃ、じゃあさ、梓だけでもちょっと説得してやってくれねえか。」
「中野に?」
自分の気にする相手だったが、口調はあくまで飄々とするようにしている。
「あいつ、もう榊野に行きたくないって、駄々こねてるしさ。何とか清浦の方から、説得できないかねえ。」
「見た目通り、子供っぽいんだね・・・。」
「ああ。」
「私も以前、背の小ささで子供っぽいとか、からかわれたりしたんだけど、学級委員になったらそんなこと言われなくなりましたよ。見かけによらず臆病なんだ。」
「あはは・・・。」律の苦笑いが、耳の中で響く。「そうなんだよね・・・。」
「とりあえず中野と、携帯のデータは交換したよ。できる限りのことはやってみるけど、期待しないほうがいいです。」
相変わらず冷たい声。律は苦笑を続け、
「分かった、一応頼みだけは聞いてくれるんだ。それともう1つ。
「ん?」
「伊藤の電話番号、教えてくれねえか? 沢越止は伊藤の親父でな、伊藤はあいつを面倒がってるんだ。」
「・・・悪用しない?」
刹那の声が、急に低くなる。
「しねえよしねえよ。な、伊藤を助けると思ってさ。」
「なら、いいけど・・・。」
半信半疑の状態で刹那は、律に誠の電話番号を教えた。


律との電話を済ませた後、刹那は梓に電話をし始めた。
「もしもーし、梓はただ今冬眠中でーす。」
けだるげな梓の声。
「今は秋。」
「じゃあ秋眠・・・ってそういう問題じゃないし・・・って、清浦!?」
「反応が遅い。」表情を全く変えずに、刹那は話を続けた。「田井中さんが、沢越止って人から平沢さんを守るように、協力してほしいんだって。」
「・・・さっき律先輩にも同じことをいいました。もう唯先輩のことなんか知らないって、伊藤や桂にも関わりたくないって。」
「でも・・・」刹那は少し考えてから、「それで軽音部がめちゃくちゃになってもいいの?」
「は・・・?」
「伊藤には伊藤の、桂には桂の思いがあるんだし、平沢さんや秋山さんだって、あの2人のことが好きなんでしょ。」
「うん・・・。」
「ならば私達で、お互いの思いをなだめる必要があるでしょう。あの2人が暴走しないように・・・。」
「こっちはすでに暴走してますけどね・・・。」
「ならば、それを止めるようにしないと。」
「もう遅いです。」
「そうかなあ。・・・とりあえず、平沢さんや秋山さんはどこ行ったの?」
「わかりません。」
「そうだよね・・・。でも、多分榊野には来ると思うんだ。私は世界の面倒を見なくてはいけないけど、先に榊野で待っていてほしい。
じゃあ、後でね。」
刹那は相変わらず、淡々とした声。
梓は、何も答えなかった。


その後、刹那は檜の棚から、ガイドブックを取り出して、
「気晴らしに、どこか行こう・・・。」
「・・・どこにも行く気に、ならないよ・・・。」
「でもまあ、街をぶらぶらしてれば、気分転換にはなると思うし・・・。どこ行こうか・・・。」
刹那は、ガイドブックを読みながら、
「榊野ヒルズ、行こうよ。世界だって、KARAのうちわやポスターを血眼になって探していたでしょ。」
「・・・。」
世界は、ゆっくりと起き上がった。


珍しく、澪は寝坊をした。
「わあ! 遅刻遅刻!!」
休日なので、澪を起こそうとする人もいない。すでに両親は外に出てしまっている。
あわてて学生服に着替え、家を飛び出した。
空はすっかり晴れている。
が、家の前の白い門から出ようとした時、
ドンッ
横からにゅっと足が飛び出て、彼女は転ばされる。
「な、何すんだ!!・・・!!」
澪は足の出てきた方を向いて、思わず息をのんだ。
4人の女子生徒がいた。
黒い上着に赤いスカーフ、黒いスカートという、榊野の学生服。
皆、血走った目をしているが、1人のセミロングヘアーで、茶髪を後ろで束ねた背の高い女は、何もしなくても威圧感を放っている。おそらく彼女が頭領だろう。
「なるほど、確かに七海さんの言う通り、あのフェロモン女に似てるわ・・・。」
そのリーダーは、答える。
「・・・あんた達、それは私が、桂と親しくしていることへの仕打ちか。」
毒づく澪に、
「まあね、」別の短髪で、背の低い女の子が答える。「あんな男受けばかり良い女を、気にするあんたもあんたよね。」
「私は・・・私のしたいことをしているだけだよ・・・!」
「開き直るのかい?」リーダーがずいっと進んで、見下すような視線で言う。「なら、容赦はしないよ。」
「くっ・・・!」
話が通じないと悟った澪は、何とか正面突破しようと駈け出した。
ガッ
またも足を引っ掛けられ、高転びに転ばされる。
「ま、ここでは人目につくから、こっちへ来なよ。」
リーダーに襟首をつかまれて起こされ、引きずられ、連れて行かれる澪。
鼻を強く打って、血が出ていた。携帯も道端の道路に転がる。
「く・・・桂・・・!」
1人の桜ヶ丘生徒が、それを目撃し、あわてて横に引っ込むのを、澪はみてとった。


小さな川の、人気のないところ。
コンクリートの間に雑草こそ生えているが、それでもコンクリートの灰色が目立つ。
そのほとりに、澪は連れて行かれた。
草っぱらにほおり投げられ、皆からのヤクザキックをドッドッと受ける羽目になった。
「桂から手を引かなければ、ずっとこの調子だからね。」
リーダーが見下すような視線で、澪に吐き捨てた。
「ぐっ・・・! 気になる人に気を使って、何が悪い・・・!!」
澪は歯ぎしりしながら、呟くように言い返す。
最初は手足を使って懸命に抵抗していた彼女だが、いかんせん多勢に無勢。
無茶苦茶に頭や横腹を踏みつけられ、蹴りつけられているうち、頭もぼんやりとしてきた。
言葉から手を引いた方がいいか。
そんな思いがもたげそうになった時。
第三者の声がした。
「貴方達、何してるの!?」
皆、そちらを向く。
15人ぐらいの女子生徒が、そこにいた。全員紺色の上着に胸元にリボンという、桜ケ丘の学生服。
「あんた達、何者かねえ。これはこっちのことなんだ。部外者はちょっかい出さないでもらいたいな。」
いじめっ子のリーダーが片方の眉を上げて言うが、
「そうはいきません! 私達はこの人のファンですから!」
茶髪でロングヘアー、ややつり目のファンクラブの会長が、ずいっと進み出た。
後の皆は数に任して、4人しかいない榊野生徒につかみかかる。
ぐいぐいと押し合いへしあいだったが、そのうちに榊野生徒が倒され、ファンクラブの部員がそれを抑えつけるという形になった。
「秋山さん、大丈夫ですか!?」
その隙に、澪ファンクラブのリーダーが、土にまみれた澪に駆け寄った。
「曽我部さん、ありがとう! 大丈夫だと言いたいところだけど・・・。
それにしても、元生徒会長の貴方がファンクラブの一員だったなんて。」
よろよろと、制服についた土埃を手で払い落しながら、澪は立ち上がる。
制服は土だらけだし、顔もところどころ蹴られて、右目のあたりも痛い。
「あはは、恥ずかしいけど会長なのよ。
秋山さん、目にあざが・・・。それにしても榊野って、ずいぶん荒れているのね。統合しちゃったらどうなるか不安だわ・・・。」
「あははは・・・まあね・・・。」
パンパンと衣服に付いた土を洗い落とし、曽我部から携帯をもらった。
もみ合っているファンクラブメンバーと七海一派を見て、
「そっちが片付いたら、私のところについてきてくれ。実は気になる人がいて・・・」
「桂言葉さん?」
曽我部は、彼女のことを知っているようだ。
「・・・どうして知っているんですか?」
「田井中さんから聞きました。胸が大きくて、田井中さんはちょっと気にくわないって、言ってたんだけど・・・。」
「律のことはいい。桂の住所はあとで送っておくから、助けてやってくれないか。
こいつらに狙われているんだ。」
言い終わらないうちに、澪は走り出した。
幸い、住所は最初のアドレス交換の時、一緒に登録されていた。
鼻と目のあたり、それがまだ痛んでおり、口からも血が流れているが、そんなの気にしている場合じゃない。
そして、澪ファンクラブの人と、七海の手下が1対1でもみ合っている間に、間を縫って突破し、言葉の家へと急いだ。
曽我部と一部の会員達もあとからついて行く。
「そう言えば秋山さん、」曽我部が、「木下さんと立花さん達が学祭に行った後、『止さん、よすぎる』とフラフラしながら桜ケ丘に戻ってきたんですがね。
その止って男に襲われた可能性が高いのですが、何者なのか、秋山さん知ってます?」
止!
澪の中で、ぞっとするものが走った。
桜ケ丘の子も狙われたのか・・・。
「・・・いや、知らない。 とりあえず、まずは桂を助けることに集中しよう。」
澪は、それこそ一心不乱に走りだしていた。
考えないようにしたかった。


言葉は、その日は早起きした。
両親は仕事で早く出かけてしまい、妹の心と2人きりになっていた。
十八番のレモネードを作り上げ、メタリックの500ml水筒に入れる。
「いよいよだね、お姉ちゃん。」
からかい半分に、心が言葉に声をかけてきた。
「本当なら昨日、あのまま誠君と一緒に過ごしたかったけどね。でも、今度は大丈夫。」
昨夜こそ多少落ち込んだものの、言葉はしっかりと自信を取り戻していた。
「心、カメラの準備はできてる?」
言葉は穏やかな顔で尋ねる。
「大丈夫だよ。これでお姉ちゃんと誠君が踊っているのを、キャンプファイヤーをバックに撮ればいいんだよね。」
「そうよ。ずいぶん後になるけど、大事だから。ありがとう。」
安堵の微笑みを浮かべる言葉。そのままきらびやかな玄関に行く。
「誠君、また平沢さんにフラーっと目移りしてないといいんだけどなあ。」
心は、心配げな表情。
「大丈夫。先手必勝。多分あの子は朝起きれないし、家も私のところよりは遠いから。」言葉は唯のことをあまり知らないが、勘で話をする。「先に誠君ちに行った方が勝ち。」
「だといいんだけど・・・。」
その時、言葉の白い携帯から、音のしない振動がする。
「誠君からだ。・・・え・・・?」
うきうきしながら携帯を取った言葉の顔が、青ざめてゆく。
誠からのメールには、こう書いてあった。

『ごめん。今日はちょっと学祭に行けなさそうだ。
唯ちゃんがうちに来て、親父に狙われている唯ちゃんを、守らなくちゃいけなくなっちゃって。
唯ちゃんのことが一番好きってわけじゃないけど、今はあの子を守ってやりたい。
誠』

「平沢さん・・・どうして・・・!」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
例のごとく心が、ちょっかいを出してくる。
「平沢さんが、誠君ちに来て、誠君は平沢さんを守ってあげたいって・・・。」言葉は不安げな声になりながらも、「とりあえず、先を急ぐから。」
あわてて玄関のドアを開け、日本庭園のような庭を駈け出し、道路に出る。
が。
「・・・!!」
体格のいい女生徒3人に、取り囲まれてしまう。
「あんた、まだ伊藤に付きまとってるの?」
その3人のリーダーである短髪の女子生徒が、言いがかりをつけてくる。
「関係ないです。私は誠君の彼女ですから。」
「まだそんなこと言うのかい!? あんたがそんなだから、西園寺さんも根負けしちゃったんじゃないのかい? 七海さんの話じゃ、西園寺さんは家で落ち込んでいるとよ。」
「知りません! そんなの!!」
ムキになって言い返す言葉だが、長い髪をつかまれてしまう。
「わかってないねえ! ま、ずっとむかつく奴だったけどさ、あんた!」
そのままぐいぐいとひきずられていく。
心は、姉の様子をずっと見ていたが、我慢しきれず外に出て、
「お姉ちゃん!」
「大丈夫、私は大丈夫だから・・・。それより早く、原巳浜に行って! ひょっとしたら誠君も電車に乗り込むかもしれないから!」
泣きそうになりながらも、心は、
「う、うんっ!!」
と、七海の手下に気づかれないよう、すぐに横に隠れてやり過ごし、原巳浜駅に向かった。


「・・・世界の奴、やっぱり休みか。」
日がようやく、地面のコンクリートや校舎の壁を明るく照らし始めたころ。
学校の正門で、七海は壁にもたれる形で待機していた。
傍らには、子分の男子生徒がいる。五分刈りで、小柄。
「しかし、本当にあのムギって人、来るんですかねえ。」
子分が七海に尋ねる。
「大丈夫、きっと来ると思う、ムギさんは。」
「それにしても、七海さんを信用していたムギさんを、あんな形で引き入れなくてもいいんじゃなかったんですかねえ・・・。」
七海は一瞬、唾を呑んだが、すぐに平静を装って、
「一種の賭けさ。大人しい子だから、ちょっとすればこちらになびくと思っていた。
・・・ともあれ、やってみると結構後味が悪いし、まさか世界が伊藤をあきらめちまうとはな・・・。」
「・・・ま、俺も伊藤みたいな顔だったら、もっといい生活を送れたかな、なんて思うけど・・・。」
「顔よりハートだろ。少なくともハートはあんたの方が上。とにかく、世界の思いを、尊重してやらなきゃな・・・。」
「じゃあ、中止にしないと・・・。」
「いや、続ける。」七海は悪びれていない。「もともと桂には嫌な目にあわされっぱなしだし。
ところで、昨日の『赤子のバスケ』見たか? ようやくアニメ化されてうれしいんだけど・・・。」
言いかけた時。
呆然となってしまう。
目の前に、ムギが来ていた。彼女が来ていたのには驚かないのだが、
両隣に、スキンヘッドでサングラス、スーツ姿で黒ネクタイの男が2人。
無表情だが長身で、ガタイもいい。
「あ、おはよう、ムギさん・・・その人たちは・・・。」
「甘露寺さん、こちらは私の会社のSPです。」
「え、SP!?」
「驚かなくていいですよ。ほんの1000人連れてきただけですから。桂さんをとらえるためには、このくらい必要でしょう。」
SPの男がひゅうと指笛をならすと、あとから同じような顔の、同じような体格の男が何人も出てくる。
何グループ、何百人と。
「まだ沢越止の逮捕状は出てないけど、準備しておくにこしたことはないわ。みんな位置について。」
「了解。」
ザッザッザッザッ。
SPたちは、冷徹なムギの声に返事した後、物々しく校舎内に入っていく。
その中では、校庭や校門に位置して、動かなくなる人もいる。
七海達はそれを唖然として見送った。
「あたし、とんでもないやつ味方に引き入れちゃったかなあ・・・。」
七海の呟きを、ムギは聞きとり、
「大丈夫です。貴方が私にしたことは黙っててあげます。
私は貴方のことが、好き『でした』から。」
そう言ってムギは、SPのリーダーのところに行く。
「やっぱり、あたしを恨んでるよな・・・。ところで、沢越止って誰だ?」
七海の声も、聞かないままで。


SPは学校のいたるところに配置され、生徒達がけげんな表情で見るようになっている。
皆無表情だが体格がよく、グラサンをかけたスキンヘッド。
梓はこっそりと榊野の校門まで来たが、入口だけでSPが6人ほど後ろ手で待機しており、その多さに唖然となった。
「中野、」同じく待機していた七海が、梓に声をかける。ムギはすでにどこかへ行ってしまっていた。「あれはムギさんの会社のSPみたいなんだけど。」
「ムギ先輩の・・・?」
呆然となった梓は、思わずムギの携帯に電話してしまう。
「もしもし。」
「あ、梓ちゃん?」受話器の中のムギの声は、結構しっかりしている。「今会社のSPと話し合っているところ。」
「SPはわかるけど、」梓は呆れつつ、「何でこんなにSPが多いんですか? 絶対皆怪しい目で見ますって。」
「大丈夫。それに沢越止を逃がさないためには、これくらい必要だから。すでに桜ケ丘生徒の一部が、彼に襲われたって話だし。」
背筋に寒気を走らせ、梓は電話を切った。
「ムギさん、なんて言ってた?」
七海が気になって聞いてくる。
「沢越止・・・って知らないよね。お尋ねものがこの榊野に来たんで、捕獲して警察に突き出すつもりらしいの。甘露寺も気をつけたほうがいいかもしれないな。」
「そうなのかあ・・・。」七海は顔をしかめ、「じゃあうちらも、ひょっとしたら桂がどうのこうの言ってる状況ではなくなるかもなあ・・・。」
「まだ、桂に何かするつもりなんだ。」
梓はちょっと不服だが、正直今は、沢越止や桂よりも、唯先輩のことが気になる。
直接電話しようとした。
・・・。
が、通じない。
「ああもう、唯先輩は何をやっているのやら。」
苛立って今度は、律のところに電話をする。
「あ、もしもし、律先輩ですか。」
「梓か・・・・。どうした?」
「唯先輩、どうしました?」
「それはね・・・。」
律は、今まで起こったことのすべてを話す。
沢越止が唯の家をマークしていたこと、運よく唯はその時留守だったこと。
誠の家に行ってると考えられること。
「そんなにしつこいんですか、沢越止は。」
「そのようだな。正直今は、伊藤にすべてを任せるしかないのかもしれねえ。」
「あんなヘタレな奴に・・・。ムギ先輩もSPを用意してきたのに・・・。」
梓の寒気は、さらにひどくなる。
いっそのこと、自分で唯を守ってやりたい気もしたが、さりとてどこへ行ったのかもわからない人を特定するなんて、できない。
具合の悪くなった梓、電話を切る。
「どうだって?」
七海が口をはさむ。
「沢越止が唯先輩を狙っているって。唯先輩は、ひょっとしたら伊藤のところにいるかもしれないって。」
「そうか・・・。世界の奴、平沢さんに思いを託すって言ってたけど・・・。
正直、どうしたらいいのか、分からないな。」
七海は虚空を見上げる。
梓は、とりあえずここで待機することを、決めた。
誠に、唯先輩を任せてみるか。


原巳浜駅は高架線ではなく、普通の地面に面した線路になっている。
駅で切符を買って、唯と誠は、まだ通勤客が残っているプラットホームに行った。
2人、腕を組んで。
目の前を、銀と赤の急行電車が通過する。
周りの人たちは、この高校生カップルを憧憬の目でちらちら見るが、後は取り合わず、新聞を読んだり携帯を見たりしている。
唯は通勤客の合間を、誠と一緒に通ってゆく。
表情は、晴れやか。
「本当に、いい笑顔だね。」
誠は、微笑む。
「・・・実は、西園寺さんからも同じこと言われたんだけど、ほんと、嬉しいな・・・。」
「そうなんだ。世界も・・・。」
唯の左薬指には、誠のシルバーアクセがある。
ほほえむ唯が、誠には愛おしくてしょうがなかった。
唯は、きょろきょろと周りを見渡した後・・・・。
さりげなく、誠の唇に、口づけを交わした・・・。
彼は頬を染めるものの、驚かない。
2回目なのに、何だか慣れてしまったような感じである。
でも・・・心の奥底に、不安のもやがあった。
「これで2回目だけど・・・嫌かな。」
「そんなことない・・・うれしいよ・・・。」
唯のこわばっていた肩が、思わず柔らかくなる。
が、誠は頭を整理しきれず、しゃべっていた。
「あのさあ・・・こんな俺でも、いいの? 来るもの拒まずで弱くてふらふらしているし、いまだに唯ちゃんか言葉か決められないし、親父があんなんだし。」
「そりゃあもちろん! ・・・どうしたの?」
「いや、」誠はふっと目を閉じ、「唯ちゃんなら、俺なんかよりふさわしい相手がいくらでもいるんじゃないか、と思って。」
「そんなことないよ。私は、マコちゃんが好きだよ。」
誠は、いとしさと悲しさがカフェラッテのように入り混じった気持ちで、
「ありがとう・・・。」
小さく、答えた。
やがて銀と緑のローカル線が、2人の目の前で停止する。


「あれ?」
心は、思わず目をくぎ付けにした。
まだスーツ姿の人が絶えない時間帯。
その中で誠が、唯と腕を組んで、原巳浜駅に到着した電車に入ろうとしていた。
唯の方も、誠にしなだれかかる形になっている。
「誠君・・・!」
急いで心は、ありったけの小遣いを使うと、唯と誠を追う形で駆け込み、電車に乗り込んだ。
その直後に、しゃあっと電車のドアが閉まる。


七海一派に取り囲まれ、踏みつけられる言葉。
携帯を取る暇もない。
「どうする、七海さんの言うように、伊藤から手を引くか?」
頭を抱えて踏みつけキックに耐えながらも、言葉は、
「あきらめません! 誠君の彼女は、私ですから!!」
言葉は譲ろうとしない。
「まだ刃向かうのかい。もうちょっと痛い目に合う必要があるな!」
寄ってたかって蹴りつける七海一派。
その時、第3者の声がした。
「待てっ!」「待ちなさい!!」
皆、そちらを向く。
そこにいたのは澪と澪ファンクラブ会長の曽我部、そして、ファンクラブのメンツが4,5人。
思わずあっけにとられた。
「やめなよ、もういいだろう!!」
ずいっと進み出て大声を上げる澪。
「なにがあったかわからないけれど、こんな真似、やめてもらえる?」
曽我部もずいっと、一緒に出る。
「ちっ、あんたも抜け出して来たのか。」
「ああ。」澪はちらりと曽我部のほうを見て、「この人たちのおかげだけどな・・・。曽我部さん、またお願いできないか?」
「アイアイサー。」
澪をガードするのと同じように、曽我部を含めたファンクラブの皆は七海一派に飛びかかる。
それを見届け、澪はがら空きになった言葉に近づいた。
言葉もまた、土埃だらけで、腰までかかる髪も少々乱れている。
どうやら、下着も脱がせられそうになったらしい。
着なおすと彼女は、よろよろと立ちあがった。
「あの人たち、誰なんでしょうか・・・。」
「いや、私のファンクラブでね、どうやら律の頼みで、来てくれたらしいのさ。」
澪は、ちょっとバツが悪そうに答えた。
「秋山さん、人気なんですね・・・。」
「いや、まあ、恥ずかしいというか、なんというか・・・。」
張り飛ばしたり、張り飛ばされたりする澪ファンクラブのメンバーを見ながら、言葉は目をぱちくりさせる。
「その体では、大丈夫とはいえなさそうですね。」
言葉は澪の体を見て、さらり。
「まあね。」
確かに澪の学生服には、ところどころに靴の跡があり、顔もちょっと目の周りが黒くなっている。
「まあとりあえず、まずは伊藤を探さないとな・・・。」
「誠君なら、」言葉はメールを開き、「平沢さんと一緒にいるようです。まさかここまで早く誠君ちに来るとは思いませんでした。」
澪は、何と言ったらいいかわからなかった。
「本当なら昨日、あのまま泊まりたかったんですよね。」
「そう・・・。」
「あのまま泊まれば、平沢さんに付け入るすきを与えなかった・・・。お父さん達もお父さん達だけど、平沢さんも平沢さんです。」
「・・・すまねえな・・・。」今は言葉に対し、相槌を打った方がいいだろう。「私も、唯には気の毒だけど、貴方の方を応援してる。」
「・・・・。」
言葉は、何も言わなかった。
「あ、メール。」
彼女はごそごそとポケットから携帯を取り出し、内容を見てみる。
「心の話によれば、今誠君が、平沢さんに連れられて電車に乗ってるみたいです。」
「唯もいるのか・・・。わかった、心ちゃんの後を追いかけてみよう。」
よろよろと立ちあがりながら、言葉は駅へと急いだ。
澪も後から付いていく。
もみ合うファンクラブの人と、七海一派を残したまま。
「それと、桂・・・。」
「はい?」
もう、私は手を引いてもいいか?
と言いたいところ、出なかった。
もうこれ以上痛い目に合うのはごめんだが、それでは桂がかわいそすぎる。
どうしたらいいかわからず、澪は心の奥で迷った。
「何でもない。」
結局彼女は、これだけ、答えた。



続く 
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【 2012/09/08 23:00 】

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