小説『Cross Ballade』 第7話 『再会』
けいおん!×SchoolDaysクロスオーバー小説 第7弾。


やっと第7話までこぎつけた。
本格的に人間ドラマがやっと描ける。
CROSS EPOCHのように1対1を強調しつつ、複雑に人間模様を絡ませる、と以前書いたけど、
考えている組み合わせは、こんな感じ。(ネタばれです、すみません。)

平沢唯×伊藤誠
秋山澪×桂言葉
田井中律×西園寺世界
琴吹紬×甘露寺七海
中野梓×清浦刹那
山中さわ子×澤永泰介
(あと『真鍋和×加藤乙女』の組み合わせをどこかに入れたかったり・・・。)


この話で律が世界に
「私達はあの馬鹿2人に振り回されている被害者」
っていうけど、
まさにその通りで、唯も誠もトラブルメーカーで周りを振り回すことが多いんだよね・・・。
この2人をどう成長させるかは、筆者の技量にかかってるんだけど
やっぱり成長ものとして描いてみたいなあ、と改めて感じています。

色々文章の書き方は読んだんだけど、
何より自分が楽しめないと、納得行くストーリー展開でないと続かないよね。
いよいよ今回は放課後ティータイムのライブです。(ちょっとだけど)
その後のけいおんキャラとスクイズキャラの人間模様にも注目。

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第7話 『再会』


そろそろ、放課後ティータイムのライブの時間だ。
お化け屋敷の受付で、言葉は立ち上がる。
が、前にクラスの4人。
「桂―、私たち遊びたいんだけどさー、受け付け続けててくれない?」
「え、でも、きちんと決めた順番があるんですが・・・。」
「あんた、クラス委員でしょ!?」
大声を張り上げられ、言葉は思わず縮こまる。
「じゃ、あとよろしく。あと、休憩室使う人がいたら、前の人がまだいるか確認ね。」
「それにしても大成功だったねー。まさか卒倒する人が出てくるなんてさー。」
4人は話をしながら去って行った。
「秋山さん、あんなに怖いの苦手なんだ・・・。あんなの序の口なんだけど・・・。」
受付に取り残された言葉も独りごちる。


放課後ティータイムがお化け屋敷に来た時、言葉は裏の仕事にいそしんでいた。
その時に聞いた大きな悲鳴。
セットをかき分けて飛び出すと、泡を吹いて倒れている澪がいた。
「秋山さん!!」
傍らには、唯。
2人で澪を、入口まで担いだ。
「ははは・・・こんにちは、ね・・・・。」
唯は苦笑いしながら、言った。
「秋山さん、大丈夫ですか?」
言葉が声をかけると
「あー・・・桂か・・・。やっぱお化け屋敷、来るんじゃなかったぜ・・・。」
「りっちゃん・・・あ、うちの部長ね。挑発にのっちゃってね、あげく最初のコーナーで気絶しちゃって・・・。」
ぼやく澪に、唯が付け加えた。
「無事でよかったですよ・・・事故が起きたらどうなるものかと思いましたし・・・。」
肩をなでおろしたが、唯がそばにいるのが、なぜか妙に腹立たしく感じられた。
思わず、
「平沢さん・・・まだ誠君に近づくつもりですか・・・?」
詰ってしまう。
「そうだよ。だってマコちゃんのこと、好きだもん。」
唯は開き直ったのか、妙に毅然とした態度。
澪は、「おろしてくれ」と言って2人から離れ、
「今は伊藤のことでどうこう言うのはよそう。あいつもいないんだし。」
「はは・・・そうだね・・・。」
唯は思わず、笑った。
言葉も、これ以上唯を責めるのをやめにした。


秋山さんのほうが自分より、何となく大人びていると前から思ってたけど、可愛いところあるなあ。
言葉はそんな思いを胸にしながら、一人お化け屋敷の番をすることになった。
とはいえ、やはりさびしい。
ふと、
「澤永さん?」


「いやあ、よかったあ!!」
中庭の楽屋で、唯は愛用のギターを抱きかかえながら叫んだ。
「まったく冷や冷やしますよ・・・。」
「生徒会が預かってたからよかったものを・・・。」
梓と律が、肩の荷を下ろしながら、言った。
「ほんと、ギー太がどうなっちゃうかと思ったよー。」
「いや、それ以前にライブがどうなるか心配だったんですけど。」
ギー太を心配する唯に、梓が突っ込む。
「3組の学級委員さんが、わざわざ生徒会まで回したそうね。」
「ライブ会場も生徒会本部も中庭・・・利口だな。」
話し合う他の面々を気に掛けず、ギー太のネックに唯は顔をすりつけている。
「それにしても澪の奴、いつまでトイレ行ってるんだ? しかもこれで今日20回目のトイレだぞ。」
律が毒づくと、澪が戻ってきて、
「トイレ多くなるのも無理ないだろ! あれだけ客が来てるんだからさあ!!」
「ねえねえ!」さわ子が例のごとくはしゃぎ始めた。「今回バニーで演奏しないの? せっかく特注で作ったのに。」
「いや、普通でいいってば・・・。」
唯は隙を見て、楽屋の幕の合間から客席を見てみた。
桜ケ丘から榊野の生徒まで、エノキタケのようにびっしりと客が来ていた。
・・・!
誠と、目があった。
「マコちゃん・・・・。」
世界と腕を、組んでいるが。
「唯、行くぞ!!」
律に呼び出され、唯はステージへと向かう。
「みなさん、こんにちは! 放課後ティータイムこと、桜ヶ丘軽音部です!!」
唯は中央部で、大声を上げた。


ライブは無事終了。
客席の皆も、中庭を後にしていた。
「言葉・・・。いなかったな・・・。」
世界に聞こえないように、誠は独りごちる。
「いやあ、よかったねー!! 放課後ティータイムのライブ!!」
大きく伸びをしながら、世界は言った。
「まあまあ、かな。」
誠はうつむき加減に、微笑んで答える。
「誠・・・?」
「いや、正直、X JAPANのようなバラードがあるともっとよかったんだけどね。Tearsみたいな。」
「ふふふ、そうかもねえ。でも私は逆かな。もっとKARAの曲のようなノリがほしいな。」
「はは、好きだなあ世界も。」
中庭から校舎に入る。
泰介がいそいそと、目の前を通り過ぎた。
「泰介?」
声をかけるが、泰介は聞こえなかったようであった。
何かあるのか。
「そう言えば、放課後ティータイム、ファンクラブがあるみたいよ。」
「はあ・・・加入したい人、いるのかなあ。」
「まあ、たぶん生徒交流促進のための代物なんでしょうね。でも私は加入したいな。さっそく手続きしようよ。」
悪い、というわけではないが、何となくファンクラブ入りも恥ずかしい。
教員室の横を通り過ぎ、階段を下りていく。
教員室前の桜ヶ丘奇術部ファンクラブには、押すな押すなと行列ができている。
「世界、ちょっとトイレ行って、いいかな・・・?」


「どうだ、ムギ、上の状況は?」
律が2階から戻ってきたムギに尋ねる。
「奇術部、押すな押すなの大盛況よ。」
「ったく、こっちは閑古鳥か・・・。」
律や唯が呼び込みをするものの、生徒たちは『放課後ティータイムファンクラブ』という文字を見向きもせずに通り過ぎる。
さわ子はファンクラブ会員を見つけると言って、上に上がったっきり戻っていない。
5人とも、白い席に座ったまま、退屈そうに宙を睨んでいた。
「やっぱり軽音部、人気ないのかな・・・。」
翳を見せて呟く梓。
「ちょうどいいや、ちょっとトイレ行ってくるね。」
澪は席から離れ、トイレへと向かう。
「これで30回目・・・。」
「澪ちゃん、私も付き合うよ。」
呆れる律を背に、唯は澪について行った。


「違いますっ! 私、付き合っている人がいます!!」
「振られた男なんて、あきらめろよ。」
お化け屋敷の奥の、薄暗い休憩室。
保健室にあるはずのベッドの上で、言葉は泰介と争っていた。
「大丈夫だ! そいつがいなくても、俺が慰めてあげるから。」
「違います! やめてください!!」
言葉は言い終わらないうちに、ベッドに倒される。
が・・・。
白い携帯を左手で握りしめ、とっさに入力し始めた。


用を足して、澪と唯は、黒ずんだ洗面所で手を洗う。
先に手洗いを終えた澪。
急にはっとなり、携帯を取り出す。どうやらメールらしい。
「? 桂・・・? ・・・え・・・!?」
澪の顔が、青ざめた。
「澪ちゃん?」
「唯、ちょっと悪い、先に律たちのところへ戻っててくれ!!」
澪は一気に駈け出した。
「よりにもよってお化け屋敷かよ・・・。」とぼやきながら。
「澪ちゃん!?」
後を追いかけて女子トイレを出て、男子トイレを横切りかける。
ふと、妙な予感がして、ドアを開けた。
第六感というべきかもしれない。探し物を感づくような。
案の定、誠がいた。
トイレ入口へと走っているところ。
「!! 伊藤くーーーーん!!」
「え? ひ、平沢さん!?」
唯は駈け出し、誠の体に飛びついた。
「ちょ、ちょっと平沢さん、ここ男子トイレ! 便器にぶつかる!」
トイレの床に尻もちをつきそうになりながら、誠は何とかバランスを取った。
幸い、誰もいない。


「ずっと、会いたかったんだよ。・・・伊藤君に。」
唯は誠から腕を外し、微笑んで、ゆっくりと言った。
「それは・・・その・・・」
誠は、ちょっと自分の運を呪った。
今は言葉のことだけを考えたいときなのに・・・。
「それは、俺だって・・・。」呟いてから、「ごめんなさい、平沢さん・・・。 その・・・今は・・・!」
「ひょっとして、桂さん?」
「え、どうして・・・?」誠は唖然として、「どうして言葉のことを?」
「前に会ったことがあったの。あの子桜ケ丘まで来て、伊藤君は自分と付き合ってるから、もうちょっかいださないでと言って。」
「そうなんですか、言葉が・・・。
確かに、俺と平沢さんのことは、噂にもなってたけど、俺達はそういう関係ではないですよね・・・。
何でみんな誤解するんだろ・・・世界といい、言葉といい、泰介といい・・・。」
そういう関係でない、と言った時、唯の表情が陰ったことに、彼は気づかない。
「きっと多分、」唯は無理に微笑を作り、「男女の関係は皆興味を持つからだよ。みんな面白半分で当事者に聞いて、面白おかしく噂するからね。」
「・・・考えてみれば、そうかもしれませんね。」
無理な微笑み、と分かっていても、誠には唯の微笑が、とてもきれいに見えた。
「それより、桂さんが大変なことになってるみたいね!! 急いだ方がいいよ!」
「わかってます!!」
誠は言って、唯と一緒に飛び出した。
唯が半歩ほど遅れて。
彼は走りながら、言葉のメールを読んでみる。
『今、お化け屋敷。
助けて!!』
自分以外にもう1人、別の人にメールが送られているのが、妙に気になった。


「いやー、よかったねえ!! オナベ&オカマバー!!」
榊野学園の廊下を歩きながら、純は憂に話しかける。
「刺激的だったねー。」
朝こそ気が立っていたものの、純のマイペースぶりと、榊野の様々なアトラクションのおかげで、憂はすっかり明るい気分になっていた。
廊下は憂以外にも、様々な生徒がたむろして、ちょっと間を通るのに苦労する。
意外とせまい。
「次はどこいこっか?」
「そうだねえ・・・放送部のアイスクリーム屋なんて・・・あれ?」
目の前で、男女2人が人々をかき分けかき分け走ってゆく。
「伊藤君、お化け屋敷ってどこ?」
「1階の端っこの部屋です。そんなにかからないですよ。」
そんな会話をしながら。
周りは不思議な表情。
女の横顔を見ると、それは紛れもなく見覚えのある顔。
「お姉・・・ちゃん・・・?」
憂は低い声で呟く。
「あれ唯先輩じゃない?
わお、オトコ作ってたって噂、ホントだったんだね!!」純はパッと目を輝かせて、「ねえ憂、唯先輩たちがどこへ行くのか、見てみ・・・。」
純が言い出したころには、憂はもう姉を追って走り始めていた。
後ろ姿に黒い霧が出ていることを、純は悟った。
「憂・・・?」


「しょうがねえなあ・・・。梓、ムギ、呼び込んでくれ!」
「呼び込む?」
残った放課後ティータイムの3人は、相変わらずファン集めに奔走していた。
ただし律は、彼氏目的。
「『放課後ティータイム部長、田井中律! 田井中律です! よろしくお願いします!!』みたいにさ。」
「立候補者みたいね・・・。」
「それに放課後ティータイムではなく、律先輩の宣伝になってるじゃないですか・・・。」
恒例のごとく、ムギと梓の突っ込み。
そのとき、「くすくすくす・・・」と、第3者の声。
皆はそちらを向く。
2人の少女がいた。
1人は3組の喫茶店で見かけた、セミロングヘアーに1本のアホ毛を垂らした少女。
もう1人は中学1年生ぐらいの小柄な体格で、赤いリボンをした子。
「ほんっと、世界も好きだね・・・・まさか軽音部のファンクラブに入りたいなんて。」
小柄な少女が、もう1人の少女に話しかける。
「刹那も人のこと言えないよ。」
世界は笑いながら、言った。
「女の子・・・出来たら男・・・むぐっ!」
「あ、あ、ありがとうございます!! 是非とも加入してください!!」
不満げの律の口を抑え、梓は苦笑いしながら応答した。
「ファンクラブに入会したいです。
よろしくお願いします。 田井中律さん、琴吹紬さん、中野梓さん。」
世界は3人の名前を、すぱりと言い当てる。
「・・・あり、すげえなあ。ライブでしか自己紹介してないのに。」
「世界は1発で相手の名前を覚えるようにしてますからね。」
唖然とする律に、刹那が解説する。
「そう言えば、平沢唯さんに、秋山澪さんは?」
「も、もうフルネームで言わなくていいです・・・。」梓は両手を突き出しながら、「2人ともトイレに行ってますよ。」
「そうですか・・・。みんなで話をしたいところなんですけどねえ・・・。」
世界は少し、目を遠くした。
「おーい、世界! 刹那! 何やってるー?」
「ファンクラブ入りなら、私たちも参加していいー?」
世界と刹那の後ろから、長身でボーイッシュな子と、ツインテールをイカリングのように留めた子も顔を出す。
「甘露寺さん!!」
ムギの興奮した声。
「いきなり4人確保か。」
梓は、ほくほくしてつぶやく。
「ねえ七海、」世界は振り向いて、「彼氏と合流したんじゃなかったの?」
「それがさあ、」七海は悲しげな表情になり、「妹が一緒に来てさ、そっちのほうに行っちゃって、『今日は二人きりになれない、ごめん』だってえ・・・。」
七海は明らかに、嗚咽している。
「まあまあ・・・。」ムギが前に出てきて、「私がいますから。落ちこまないでくださいね。」
「いや、あんた女だろ・・・。」
「だからいいじゃないですかあ・・・。」
ムギの目は、不自然に輝いている。
「え、ちょっと・・・。」
「待て待て待て待て!!」律が苦笑いしながら2人を抑え、方便を用いる。「実はうちの学校には、稚児さんと呼ばれる風潮があってな。たまに友達以上の関係を持つ奴がいるんだよ。」
「ち、稚児・・・。」
驚く榊野一同だが、
「あ、そう言えば聞いたことがあります。」
「世界?」
世界だけが話を合わせる。
「よくあるんですよね、男子校や女子校は。同性でついつい仲が良すぎて、バレンタインやホワイトデーでお菓子交換までしちゃうという。」
「お、わかってるじゃねえか、あんた。」
「『あんた』じゃなくて、お願いですから世界って呼んでくださいよ、田井中さん。」
世界のフォローに、七海も落ち着き、
「よ、よろしく琴吹さん・・・。お手柔らかに頼みます・・・。」
小さく言った。


「ええと、西園寺世界さんに、清浦刹那さん、甘露寺七海さんに、黒田光さん・・・。」
梓は必死に、ファンクラブメンバーの顔と名前を一致させようとする。
「別に無理しなくていいよ。案外顔と名前って一致しにくいし。」
「世界が言うと嫌味よ。」光は言ってから、「とりあえず、中野さんだっけ。どこか落ち着ける場所で、ゆっくり話さない?」
「・・・正直、私達も、じっくり話したいと思ってました。」梓達は、世界が誠争奪戦の当事者の1人であることを知っている。「正直、大事なことです。」
「まあまあ待て待て。梓、あのことは忘れよう。」律が小声で言って、「色々と西園寺達の趣味とか聞きたいしよ。ざっくばらんに話そうぜ。」
「ふふふ、私もですよ、田井中さん。」世界は笑って、「とはいってもファンクラブの受付をしているから、動くこともできないですかね。」
「ま、とりあえず古今東西ゲームでもやろうぜ。」
律はノリのままに、発案した。
「ん? ファンクラブの呼び込みとか、しなくていいの?」
「彼氏を探しているなら、私たちも協力しますよ。」
すでに彼氏のいる七海と世界が、ポカンとしつつ尋ねた。
「あー・・・どうしようかな・・・。」
律も思わず、思いとどまってしまうが、
「私は、女水入らずのほうがいいですよ。皆さんもそうでしょ? もちろん、りっちゃんの彼氏は紹介してくれるとありがたいですが。」
ムギが前に出てきて、話を元に戻す。
「それもそうね。やっぱり男が入ると、なんか話が合わないし。」光は早速のってきた。「今だけしか水入らずは楽しめないわよ。古今東西ゲーム、やろうよ。」
「やるか!」
「やろうやろう!」
みながはしゃぐ間、梓は律に、
「伊藤や桂のことに関して、聞かなくていいんですか?」
「何言ってんだよ、私たちの入るところじゃねえだろう。あいつらで解決すべき話さ。」
「でも、ひょっとしたら取り返しのつかないことに・・・。」
「大丈夫だってば。」
律はなんとかなだめて、「やろうぜ!」と声をかける。
浮かない顔の梓を、刹那は冷静な目で見ていた。


お化け屋敷に入り込み、唯も誠も、思わず息をのんだ。
セットがぐちゃぐちゃになり、『冷たい手』や『傘お化け』が、無様な格好で倒れている。
それをかき分けかき分け進むと、薄暗い部屋に、保健室のベッドが一式。
その横で、泰介がなぜか股間を抑えながらうずくまっている。
ヘアスプレーの残り香が、まだ残っている。
「泰介!?」
誠は思わず駆け寄る。
「あ・・・誠かあ・・・。」
「言葉が来ているはずだけど、今どこに・・・まさかお前・・・?」
「いやあ、ほんの冗談のつもりだったんだけどさ。」
その間、唯はベッドの下に、『あるもの』が入った箱を見つけ・・・。
それを1つ、上着のポケットにねじ込んだ。
泰介はバツが悪そうに話を続ける。
「直前に止められてさ。桜ヶ丘の、桂さんとよく似た子に・・・。」
「桜ケ丘? 言葉によく似た?」
「お前も見ただろ、喫茶店で。放課後ティータイムの黒髪ロングの子。」
「それって・・・澪ちゃん?」
唯が口を挟んできた。
「あ・・・そうですよ。挙句俺の大事なところけり上げて・・・。」
成程、いいところ狙ったもんだな。誠はちらと思った。
「おい泰介、」誠は声を張り上げ、「言葉を見てりゃ分かるだろ、あいつはいつも俺のことを気にしてるって。それをお前は強引に・・・!」
「そうよ、それを貴方は・・・!」
唯が同調してきた。
「あのさあ、1対2ってつらいんですけどお・・・。」
「ったく・・・。」誠はため息をついて、「それで、その人と言葉は今どこに?」
「わかんないよ・・・すぐ行っちゃったし。」
「澪ちゃんからメールが来てるといいんだけど・・・。」
ふと、唯と誠の携帯から、音のない振動が伝わってきた。
2人とも、とってみる。
『ごめんなさい、心配かけて。
実は今、桜ヶ丘の秋山さんと一緒に、屋上にいます。
待ってますね。
言葉』
『悪いが、ちょっと桂と話がしたい。
どこかでゆっくりしててくれ。
澪』
「言葉・・・。」
「澪ちゃん・・・・。」
2人の声が重なった。
「「あ・・・。」」
「どうやらお2人にとっても、深い仲のようですなあ。」
泰介がチクリと皮肉った。
誠はそれを無視して、
「とりあえず、行こう。」
「え、ちょっと・・・。」
なぜか唯は乗り気でない。
「あー、ちょっと平沢さん、」泰介は起き上がりながら唯の肩に触れ、「せっかくだから俺とつきあわね? 誠には西園寺が・・・。」
「付き合うわけ、ないでしょっ!!」
唯は思わずカッとなり、泰介の股間をけり上げた。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
奇声を上げて泰介は、再び床をごろごろと転がった。
誠は呆れてものも言えず、休憩室を後にした。


セットをできる限り元に戻し、進んでいく誠。
が、目の前に唯が大の字になって行方をふさぐ。
「だめ!」
「ど、どうして・・・。」
戸惑う誠。
「今、桂さんのところに行ったら・・・・伊藤君、そのままな気がするから・・・。」
指をつつきながら、唯は小声になる。
「そのまま? 訳わからないこと言わないでくださいよ。さっきはあんなに言葉のこと心配していたのに。」
「それは、桂さんに何かあったからと思ったから・・・無事な状態で会ったなら、伊藤君、そのままのような気がしてならない・・・。」
「・・・?」
「桂さんのところへ、行っちゃダメ。」
「・・・・。」
「ダメ。」
唯の細かな手が、誠の太い腕をつかむ。
触れた手は、暖かいというより、熱い。
「・・・どうして・・・。」
誠も、顔が熱くなり、胸が少しずつ高鳴っているのを感じていた。
見かわした唯の目は、潤んでいる。
ぐちゃぐちゃになったジオラマのせいで、外からは見えない。誰か来る気配もない。
泰介は転がって動けないようだ。
しばらく、お互いに何も言えない時間が、続いた。


最初に口を開いたのは、唯だった。
「ずっと、好きだったから・・・。」
誠は、耳を疑った。
まるっきりの冗談だと思い、
「あ、ありがとう、平沢さん。」
と、とりあえず言っておく。
「ドジだし、天然だし、伊藤君の好みではないかもしれないけど、この思い、桂さんにだって、負けないから・・・!」
唯の激しい言葉に、彼は呆然となる。
「え・・・?」
それでもまだ、冗談だと思った。
「学校だって違うし、桂さんや、あの子よりも付き合いは深くないかもしれないけど・・・
ずっと、ずっとずっと、好きだったんだから!!」
ドンっとした告白に、彼は思わず圧倒されてしまった。
「・・・好き・・・。」
「・・・平沢・・・さん・・・・。」
誠は生唾を飲み込む。
緊張のあまり、体が硬直していた。
スッ
気がつくと彼のこめかみに、唯の右手が伸びている。
彼女の細い手が、誠の頬に触れて・・・。
「だめですよっ!!」
誠は思わず、唯の手を払いのける。
「すでに俺には・・・言葉が・・・。」
「伊藤君・・・。」
そむけた誠の横顔が、唯にはしおらしくて仕方なかった。
「それに、世界だっているし・・・すでに迷っているんですよ・・・。」
・・・・
唯は気持ちを、どこにぶつけたらいいのかわからなかった。
「・・・わからないよ・・・。」
膨れ上がっていく気持ちを抑えながら、唯は誠から離れていった。
ぐちゃぐちゃになったお化け屋敷のセットをどけながら。
前髪に隠れて、唯の目はみえない。
「・・・!」
誠の腹の奥底から、ひやりとした感触がどんどん広がっていった。
「待ってください! 俺も、本当は・・・!」
セットを飛び越えながら誠は駈け出し、唯の腕をつかんだ。
誠の手が触れた瞬間、

その瞬間、唯の頭で、何かがはじけ飛んだ。

振り返って誠を真剣な目で見つめ、いきなり彼の口を口でふさいだ。
「・・・・・!!!」
誠を見ないまま、唯は目を閉じ、彼の胸に手を当て、キスを続けた。
ずっと口の感触を味わっていた。
男のごつごつした体に反して、口だけは柔らかい。
「・・・。」
今度は誠が、自分から唇を唯に押し付けてきた。
そのつもりはなかった。が、本能的に唯への思いに、反応していた。
短いはずなのに、2人とも、それがずっと長く、感じられた。
「!!!!」
もちろんその様子を、憂と純が見ていることには、気づいていなかった。


ようやく、お互いの口が離れた。
気がつくと2人とも、冷たい床の上に倒れている。
唯が、誠に覆いかぶさる形で。
2人とも、今の出来事で、体も顔も熱くなっていた。
額が、汗ばんでいる。
「平沢・・・さん・・・。」
紅潮状態で、目も薄目で、誠はささやくように言いかけた。
「だめ。」
唯が強い声で、それを制止する。
「え?」
「私のこと、名前で呼んで。
ゆ、い。
って。」
「え・・・そんな・・・。」
唖然とした。
もはや何が起きたのか、分からなくなっている。
それでも何とか理性を保って、
「ちょっと待って、俺のほうが平沢さんより年下じゃ・・・。」
「そんなの関係ない。1歳しか違わないんだし。それじゃ声も出ないなら、唯ちゃんって呼んで。」
ぼんやりした表情で、誠は、
「・・・唯・・・ちゃん・・・。」
「ありがとう、マコちゃん。」
唯は耳元で、囁いた。
「え?」誠は目を丸くして、「マコちゃん?」
「そう、誠君だから、マコちゃん。やっと言えた・・・。」
「そうか・・・。うれしいな・・・。」
別にあだ名で呼ばれてうれしいはずはないが、なぜか、うれしく感じられた。
誠の胸のあたりで、唯が頭を預けていた。思わずポヤーンとしてしまう。
というより、この短時間の間に、様々な出来事が起きすぎて、ただ、頭がマヒしている。
とはいえ・・・。
これでいいのか、とも思う。
自分が堕ちていくだけじゃない。
唯の純粋さ、純潔さまで、彼女がアタックし続けることで、穢れていくのではないか・・・。
そんな思いが、こまつぶりのように頭の中で回転していた。
そばにいてほしい。
でも、自分も唯も、それでいいのだろうか・・・。


「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
一部始終を見届けた純は興奮状態。
「すっご! すっご! すっご! 唯先輩、積極的!! 自分から男にキスするなんて!!
くうう、初々しい!!
絶対いいカップルになるわよ!! ね、憂・・・・憂・・・?」
憂の姿は、どこにもなかった。
「憂―、どこー?」


「古今東西、ジブリ映画の名字の最初と名前の最初を入れ替えて!」
「ポケの上のガニョ!!」
「ガニョって何・・・?」
「菅と千尋の蝉隠し!」
「何その蝉隠しって・・・。」
「瀬渡元気!!」
「なんか子供向けの本みたい。」
「サクリコ・・・コカから。」
「語呂悪いなあ・・・。」
古今東西ゲームで、みなが様々な突っ込みを入れる中で、梓は不安な思いがドロドロとたまっていた。
「はっはっはっは! こうしてみると宮崎駿ってタイトルに力入れてるよなあ。」
「そうですね。まあ、だから世界的に有名になるんでしょうけど。」
律と世界が特に盛り上がり、笑いあっている。
「ムギさん、古今東西ゲーム、上手いじゃないですか。」
「そうですか? でも私、あまりやったことないんです。」
「ま、そのうち慣れるでしょう。」
最初はぎこちなかったムギと七海も、ゲームが進み、自然体で会話している。
余りにうまくいきすぎて、周りを寄せ付けないほどだ。
その様子を、微笑しながら眺める刹那。
だが、梓はいたたまれない。
言ってはいけないことを、ついに口を滑らせてしまった。

「いったい何なんですか・・・?
伊藤って何なんですか!? 桂って何なんですか!?」

「梓・・・・!」
「梓ちゃん・・・!?」
「「中野・・・!」」
「「中野さん・・・!」」

梓は『しまった』と思ったが、すぐに気を取り直して、隣の刹那に
「いったい何なの・・・。どんな人なの、伊藤も桂も・・・。清浦、学級委員の貴方ならわかるでしょ・・・。」
「? 何で急に伊藤と桂さんが出てくるのか、分からないけれど。」
刹那は、表情を変えずにしらばっくれる。
「何言ってるんですか、榊野でも噂になっているんじゃないんですか? 
唯先輩が伊藤とラブラブの仲って。
伊藤は西園寺と付き合っているし、桂ともいい仲なのに唯先輩に近づいてるって!
それって、・・・浮気・・・ですよね・・・。」
急に淀んだ雰囲気が、場を覆ってしまう。
梓はそれを悟りながらも、もう後戻りできないと思い、
「清浦、ちょっとこっちに来て。」
刹那の腕を引っ張り、廊下へ行ってしまった。


「実はね・・・。」
2人きりになってから、梓は刹那に懇願した。
「唯先輩と澪先輩を探してほしいの!!」
「唯先輩って・・・平沢さんのこと・・?」
刹那は表情を変えずに答えた。
「唯先輩も澪先輩も、多分伊藤や桂を探していると思うんだ。2人とも、あの2人が好きみたいだし。」
「やっぱり、そう?」
刹那の目が、ふっと真剣になる。
「でも、伊藤も桂も、なんか悪い噂の絶えない人たちみたいで・・・とりあえず、唯先輩や澪先輩を捕まえて、とっとと帰るつもり。」
「なんで? せっかく今、仲良くなりかけてるのに?」
「だから嫌なのよ!」梓は大声を上げた。「もう、あいつらとは関わりたくない。
あいつらに会ってから、唯先輩も澪先輩もおかしくなった・・・。
ほとんど唯先輩は伊藤の、澪先輩は桂のことしか考えなくなって、あいつらのことばかり気にかけるようになって・・・。
それまでは、うちの軽音部は平和だったのに、ぐだぐだやりながら仲良くやってきたのに・・・それが全部壊れそうなのよ。
伊藤や、桂のせいで。」
刹那は、梓の目を覗き込んだ。
「・・・・?」
「本当にそれで、すむと思う?」
「・・・たぶん、すまないとは思っているけど、それでも顔を合わせなければ、お互いに忘れていくだろうと思うのよ。」
「せっかく仲良くなってるのになあ。田井中さんと、世界は。」
「いや、もちろん西園寺はいい人だと思うよ。甘露寺や黒田だって。でも・・・。」
刹那は、梓の言葉に直接答えず、別の質問を持ち出した。
「平沢さんは、伊藤のことどう思ってるの?」
「・・・。好きらしいですよ。『マコちゃん』なんて言ってましたし。」
「そう・・・。」刹那はため息を1つついて、「実は伊藤も、平沢さんのことを、少なからず意識し始めてるんだ。」
「え・・・!?」
梓の顔から、血の気が引いて行った。
「実は私と七海と光で、平沢さんが近づかないように見張ってたんだけど、それから急に伊藤、笑顔がなくなってしまって・・・。少し前に、世界とけんかしたみたいだし。」
「そうなの・・・。」
「たぶん、平沢さんに近づけなくなったから、伊藤も欲求不満がたまっていた。そう私は思うんだ。」
「・・・。」
「たぶん、私達が干渉すべきことじゃないよ。伊藤や、平沢さんが決めることだと思う。」
「そんな・・・。」
「それに桂さんも、クラス中の女子から嫌われいじめられていて、誰も頼る人がいないんだ。」
「・・・まあ、あのスタイルにはやっかむ人も多いだろうね。」
「だからこの前私、『頼れる人間には頼ったほうがいい』と言ったんだ。」
「それで?」
「秋山さんが桂さんに強い興味を示してるんだとすれば、ひょっとしたら、桂さんにとっても、秋山さんが
『唯一の頼れる人』
なのかもしれないんだよ。伊藤はどうもふらふらしてるし。」
「え・・・。」
「今更2人を裂こうだなんて、残酷なことができる!?」
梓は、言葉が出なくなってしまった。
「清浦・・・。」
「ん?」
「私・・・私たち、どうなるのかな・・・。」
うつむき加減になる梓に対し、刹那は
「どうなるも何も、なるようにしかならないんだろうけどね。
『人間万事西郷が馬』と思ったほうがいいよ。」
「塞翁が馬です、それを言うなら。」


「刹那と中野さん、どうしたのかしら・・・。」
残った5人は、呆然としている。
「そう言えば、誠も遅いな・・・。どんだけ先のトイレに行ってんだか・・・。」
と、世界。
「ま、でっけえ方なんじゃね。」
「・・・あのね、りっちゃん。女の子の前で大とか小とかいうもんじゃないわよ。」
諌めるムギ。
「桂の奴は、澤永が今頃『足止め』しているはずなんだけどな・・・。」
「七海、あんまり手荒なことはやめた方がいいって、言ったじゃない・・・。」
顎に手を当てて呟く七海に対し、今度は世界がたしなめる。
「それにしても、伊藤って奴は、」律も表情を曇らせ、「私も気になる。唯の奴、本当に伊藤を好きみたいだしよ。」
「うわっちゃー!」七海はこめかみを押さえつつ、「やべえよ、それ・・・。」
「伊藤、どんな奴なんだ?」
「早い話が、カイショウナシ。優柔不断。」
「・・・そう・・・?」
ムギは唖然となる。
「世界の彼氏だというに、桂とかに目移りしやすいしよお・・・。」
「まあ、」律が口をはさむ。「桂に関しても、あまりいい噂を聞かないなあ。」
「あいつは男受けばかり良くて、最低だからね。私はあいつと中学でも同級生だったんだけどさ、女子みんなに嫌われ無視されてたようなフェロモン女なんだから。」
「ねえ、」七海の横から、光が顔を出し、「何とかムギさんや田井中さん達も、私たちに協力できない。平沢さんや桂さんが、伊藤に近づかないように。」
「それは・・・。」
「私見たけど、いっつも伊藤は平沢さんのことで鼻の下を伸ばしているのよ。なんとかあいつに、もうちょっと節操をもってもらうようにしないと。殴ってもかまわないわよ。」
「そう言われても・・・。私、そういう強引な行動は苦手ですし・・・。」いつも笑顔のムギが、暗い表情になる。「肝心の西園寺さんは、どうしたいのですか?」
世界もうつむき、
「それは・・・その・・・・。」
「もうちょっと強硬手段に出るべきだよ、世界!!」
七海が世界に叱咤する。
「私だってそのつもりだったよ、七海。でも、かえって逆効果だったじゃない・・・。」
「おいおいおい・・・。」律はもはや、呆れてしまった。「伊藤がそんな奴なら、とっとと別れて、別の男見つけりゃいいじゃねえかよ。」
「ううん、」世界は首を振って、「誠は、本当はそんな人じゃないから。いい奴だから、ずっとそばにいたいと思ってる。
普段は豆板醤チキンおごってくれたり、リラックマのぬいぐるみをくれたり、すっごい優しい人なんだから・・・。」
「はあ・・・。」
やがて、梓と刹那が戻ってきた。
「とりあえず、」刹那は落ち着いた表情で、「中野はちゃんと宥めたから。話題変えよう。」
「そうはいかねえよ。」七海は焦りを隠さない。「大体、平沢さんは放課後ティータイムのメンバーなんだし、当事者なんだぜ。あなたたちも、何か知ってるでしょ。」
「私たちは知らないです。」ムギは答える。「全部唯ちゃんや澪ちゃんの問題。あの2人が幸せなら、それでいいって思ってたし。」
「知らないわけないでしょ! それにあいつらにとってはよくても、こっちは迷惑なんだしさ!!」
「落ち着いて!!」
刹那が声を強めた。
「とりあえず、西園寺。」大きく息をして、律が世界に、話を振った。「もうこうなったら、腹切って話すしかねえな。話し合おうじゃねえか。」
「腹割って、です。」
今度は、律が世界の腕を掴んで、その場を離れる。
だれも止める者はなかった。
「甘露寺さん・・・。」
ムギが口を開く。
「ムギさん?」
「私、甘露寺さんのこと好きだから。甘露寺さんのためなら、何でもできるから・・・。」
「そうかい・・・?」
目をわずかに細めた七海。
ふと、携帯の音が鳴る。
刹那と梓は、2人を浮かない表情で見つめ・・・。


律と世界は、2人きりになった。
「ま、優しくされて好きになるのはわかっけどよ、あんまりそいつにこだわることもねえんじゃねえか?」
世界は、少し厳かな顔になった。
「たぶん田井中さんは、恋愛なんてしたことないからそんなふうに思えるんだと思います。」
「・・・・。」
「クラスでも隣同士なんだけど、声をかけられるたびドキドキして・・。
好きって言われたから、とてもよかった。」
「はあ・・・。」
「えっちして、気持ちいいってこともあったし・・・。」
「・・・生々しいからやめてくれ・・・。要は、確かに伊藤が、西園寺のことを好きって言ったんだよな。」
「え、ええ・・・。」
うつむいたままで、世界は答える。
「何だ、伊藤も西園寺を好きって言ってるんじゃねえか。」
「ええ・・・。」
律は頭をかきながら、顔を天井に向けて、
「だけどよ、澪の話によれば、元々伊藤の彼女は桂で、あんたが寝取った、というらしいのさ。」
「それは・・・。」
ある意味では、真実である。
「細けえことはよくわかんねえし、澪は桂のこと、好きみてえだし、澪が桂に肩入れするのは構わないとは思ってる。」律は携帯のメールを見ながら、「今も屋上で、桂と一緒にいるみたいだしな。
でもね、私は・・・。」
「私は?」
「澪は私の幼馴染でさ、正直あの桂って奴には嫉妬してるのさ。」
「嫉妬?」
「あいつが桂に妙に興味を持ってるってことは、前々からわかってた。だけどよ、相手がどこの馬の骨とも分からん奴っつーのは、幼馴染として面白くねえと思わねえかあ?
澪より美形なのはわかるが。」
「・・・いや、私そういう趣味ないですし。」
「ならいいや・・・。とにかく、澪を虜にした桂に関して、もそっと知りてえしよ。それにあんたにも、かばう人間が1人いねえとな。」
「・・・私のこと、かばってくれるんですか?」
「最初は干渉しないようにしようって思ってたんだけどな。
梓のせいで、干渉が避けられなくなっちまった。
まあ、それだけってわけじゃねえさ。西園寺と話すとなんか楽しいし。」
世界の表情が、急に明るくなる。思わず声をあげて、
「私も、田井中さんが本当に魅力的な人だなって! 面白い人だなって思ってます!!」
「・・サンキュ。」
「でも、桂さん・・・うちの学校では浮いているから、桂さんに好意を持っている人が1人でもできるのは、いいことだと思いますよ。
それに田井中さんの友達・・・幼馴染とくれば。」
「西園寺・・・。」
「・・・ただ正直、秋山さんを味方につけて誠を奪おうというなら、私は・・・秋山さんも・・・。」
世界のこぶしに力が入るのを見て、律はため息をつき、
「だーから、奪われたら別の奴を探しゃあいいって。」
「まあ、誠が私の彼氏になって、桂さんや平沢さんとも和解できるのが理想なんですけどね。」
話していると、七海が息せき切って駆け付けてきた。
「大変だ! 大変だ! 大変だ!!」


小高い場所で、秋の木枯らしが吹きこむ。ベンチの横で、無数のボイラーが、ファンを回している。
ここは榊野学園の屋上だ。
「ううーー、寒い・・・お化け屋敷壊しちまったし、どうしようかな・・・。」
青いベンチで、澪は肩を抱えて震える。
隣の言葉は、目を泣き腫らしていた。
「あ・・・そっか・・・。」澪は言葉に目を向け、「桂のほうがショックだよな・・・。」
「そうじゃなくって、嬉しいんです・・・。」
言葉の口元には、微笑みがある。
「あ・・・。」
澪は思わず、頬を赤らめた。
「私、ずっと男子からやらしい目で見られたり、そのことで女子からも冷たくされてたんですけど・・・。
私のこと、心から気にかけてくれる人がいましたから。」
「あ、いや、その・・・」澪は横を向きながら、「今度あんなことがあった場合、思いっきり玉蹴るべきだと思うぜ。律から教わった護身術なんだけど、効果てきめんだし。」
「・・・・。」
「それより、伊藤に連絡しなくていいのか? たぶん探してると思うぜ。」
「誠君には、すでに連絡しました。 秋山さんは大丈夫ですか?」
「ま、メールは送ったから、大体みんな納得してるだろう。」
目を丸くする言葉に対し、
「こんな感じで、グダグダやってんのさ・・・。」澪は言ってから、話題を変える。「どうだった、うちのライブ?」
ふと、言葉は悲しげな表情になり、
「・・・ごめんなさい・・・実は用事があって、ライブに行けなかったんです・・・。本当は、いきたかったんですが・・・。」
それを聞いて、澪は急にズーンとなってしまった。
「そうか・・・残念だな・・・。」
「でも! 秋山さんのベースも歌も、本当は聴きたかったんです!! 本当なんです!!」
「ほんとに?」
「はい。」
沈んだ気持ちが、急に浮き上がる。
言葉の手を握り、
「嬉しい! 是非とも聴いて!
『ふわふわ時間』。
私が詩と曲を作ったから、自信あるんだ!」
澪は胸に手を当て、アカペラで歌を歌い始めた。


階段から屋上へと出ると、急に冷えた風が吹き込んだ。
唯には初めてだが、誠にとっては、おなじみの場所であった。
かつて言葉や世界と一緒に食事していた場所。
だが同時に、自分と世界がホテル代わりに使っていた所にもなっていた。
その意義深い場所で、歌声が聞こえてくる。

『♪キミを見てると いつもハートDOKI☆DOKI
揺れる思いは マシュマロみたいにふわ☆ふわ♪』

放課後ティータイムのライブで聴いた曲だ。
音楽はともかく、歌詞は聞いただけで体中がかゆくなるような詩。
「澪ちゃん・・・・。」
すぐ後ろの唯は、うっとりとした表情で聴いているが。
声のする方は、ベンチだ。
ベンチへと向かうと、歌声が突然やむ。
かすかに、あの時の視線を感じた。
誠と目があったのは、姫カットの前髪、長身の女子生徒。
「秋山さん・・・?」
「・・・伊藤だね。」
澪は注意深く表情を消している。
「誠君!!」
澪の横から言葉が飛び出し、誠の首に抱きついた。
「言葉・・・大丈夫だったんだ・・・。」
「はい・・・でも・・・うれしかったです・・・。」
安らいだ表情の言葉。
その隣で、澪が呆れたような顔になり、
「唯・・・やっぱりこうなるのか・・・。」
と呟く。
誠の背後で、唯は顔を赤らめてかしこまっていた。
「どうしてここにいるんですか!? もう誠君に近付かないでといったのに!!」
唯の肩を掴んで詰め寄る言葉に対し、
「桂!」
たしなめる澪。
「言葉、」誠は横から、「唯ちゃん、ずっと言葉のこと心配してたんだぜ。」
「唯ちゃん?」
澪が耳ざとく突っ込む。
「あ・・・。ひ、平沢さん!」
ごまかしても、澪も言葉も、ためにならないほど多くを読み取ったようだ。
「誠君・・・・。」誠を向いた言葉の目は、疑念にみちている。「秋山さん、何とか平沢さんに言ってくれませんか!?」
「桂、私は唯の友達でもあるんだ。」
澪は首を振った。
と、
「桂さん・・・良かったあ・・・。」
唯は言葉に抱きつき、頭を言葉の胸に押し付ける。
「平沢さん?」
「よかったあ、心配したんだから・・・・。」
言葉の大きな胸に顔をうずめて、泣いている。
「平沢さん・・・。」
唖然として、言葉は唯を見下ろした。
「ライバルなんだから、お互い無垢な状態で、きっちりと勝負したかったんだよ。」
「「らいば・・・!!」」
澪と誠の声がハモる。
誠は不意に、唯の唇の感触を思い出し、後ろめたい思いになった。
スキンシップを許した揚句、いつの間にやら・・・。
自分の流されやすい性分を、呪った。
「伊藤。」
澪が誠に、声をかけた。
「はい?」
次に澪は赤くなって、視線をそむけ、
「なんでもない・・・。」
「秋山さん?」
「澪ちゃんは恥ずかしがり屋だから、」唯は澪の肩をたたき、「男の子とうまく話せないんだよ。ね、澪ちゃん。」
「ち、違うっ!!」
「いや、ははは・・・。」
誠は思わず笑ってしまった。
「秋山さん、無理しなくていいですから・・・。」


律たちと世界たちは、お化け屋敷の前まで来ていた。
七海が『お化け屋敷が荒らされた』という知らせを聞いたためだ。
案の定、休憩室周辺の小道具が、すべて引き倒されている。
「うわっちゃー、童貞卒業の場所がぐちゃぐちゃじゃないか・・・。」
目を丸くする律に、
「この分だと、先生にもばれたかな。」
呟く七海。
「こそこそやってたのね・・・。」
ムギは引きつり笑いをしながら言った。
「あなたたちにも彼氏を紹介して、使わせたいと思ってたんだよ、あの休憩所。」
七海は一応のフォローをする。
「その、私は、甘露寺さんと・・・。」
ムギはいいかけて、律に口をふさがれ、
「い、いや、心遣いサンキュー。」
「・・・とりあえず、私達で直すしかないわね。」
世界が真っ先にセットを修復していく。
一部分は、誰かが修復したように直っているが。
「あ、律先輩!! こんちはー。」
声がしたので、そちらのほうを向くと、純。
「おっす、純、どうした?」
「見たの、見た見た! 唯先輩がオトコをつれて廊下を走ってる姿。」
「え、お、男・・。」
梓が口にしわを寄せて答える。
「私もメロメロになるほどのイケメンだったんだけどね、唯先輩のオトコ。」純は頬を紅潮させて、早口でしゃべる。「唯先輩特上の彼氏を手に入れただけじゃなくて、すごいんですよ!! 自分からキスしてたのよ。ぶちゅーって!!」
「『ぶちゅー』はやめい。」律は苦笑いしながら、「ひょっとして、伊藤にか?」
「伊藤・・・そうそう、伊藤って人に。唯先輩って積極的ですねー!! 絶対モテるわよ。ひょっとしたらあの人とロストバージンしたとか? あははは!!」
ベラベラベラベラしゃべる純。放課後ティータイムの3人はどんどん顔が青ざめていく。
「・・・唯の奴、そこまでいったのかよ・・・。」
「手、早すぎじゃない。」
「そんなことありえませんっ!!」梓が怒鳴り散らす。「唯先輩に、唯先輩に限って・・・・。」
世界と友人たちの空気も、かなり淀んでいることに感づいた結果。
「誠、まさか・・・。光の言っていた通り・・・。」
「・・・あいつ・・・。」
「やっぱり、浮気してたのね。一発殴ってやらないと、だめかねえ。」
いきり立つ3人の中で、刹那だけが冷静。
世界は、ふいと思い立ったかのように、
「ちょっと、屋上行ってくる。」
そういって駆け出してしまった。
「これも、一種の奇縁かねえ・・・。」律は呟いてから、「ちょっと西園寺の様子、見てくる。」
「り、律先輩まで!?」
「深入りはしねえよ。西園寺の様子を見るだけさ。」
律は、世界の後を追っかけた。
最後に、一つ付け加えた。

「私達と西園寺達、似た者同士かもしれないぜ。
あのバカ2人に振り回されている被害者。」

「どうしたのかしらね、律先輩も。憂もどこ行ったんだか。」
つぶやく純。
「なんだなんだ。」
休憩室の奥から出てきたのは、泰介。
「澤永、どうした?」
「平沢さんと誠に怒られたんだよ。桂さんが俺に気があるって、嘘ついたな、甘露寺。」
「い、いやあ・・・すまないね・・・。」
「大丈夫だよ、澤永には私が・・・。」
にっこり笑う光に気づかず、泰介は小声で放課後ティータイムのメンツに、
「確かに平沢さんと誠は、傍から見ても似合うけどな。童貞卒業までいってねえ。」
「でも、」梓は心配げに「キスしたって・・・。」
泰介は頭をぽりぽり掻きながら
「ああ、してた。俺も這って目撃しちまったよ・・・。」
「でも! 伊藤は西園寺の彼氏だって・・・。」
「まああいつ、流されやすいからなあ・・・。」
「・・・ここまで情けないとは・・・。」梓は呆れてものも言えず、「何とか唯先輩を伊藤から奪回したいんですけど、何とかなりませんか!?」
ずいっと迫られ、泰介はオドオドしつつ、
「い、いや、無理だろう・・・向こうは誠に気があるんだし、誠だって平沢さんのことを話すときは・・・。」
「大丈夫!!」
普段出さない大声を張り上げたのは、刹那。
「清浦?」
「私も最悪の状況だけは、中野と一緒に止めたいと思っているし。」
唖然とする一同。何を根拠にそう言えるのか。
梓はつぶやく。
「うちの軽音部、どうなっちゃうのかな・・・。」



続く


今回のおまけ
いってみるか、青と赤、特別編

放課後ティータイム『Cagayake Girls』
けいおん! オープニング曲



Still I love You ~みつめるよりは幸せ~
SchoolDays オープニング曲
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