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不幸な男が生まれた。
司馬遼太郎の初期の短編『人斬り以蔵』は、こんな簡単な書き出しから始まっている。 武士の中でも身分の低い足軽として生まれ、字もろくに読めず、ただ、天性の剣術だけで自らを歴史の表舞台に立たせていく岡田以蔵。 師匠・武市半平太に師事し、土佐勤皇党に所属して『天誅』と称して暗殺剣をふるう。 身分が低く、虐げられていた彼は、師匠・半平太と攘夷思想をもって剣をふるっていたころが、一番幸せの絶頂だったのかもしれない。
思えば親に勧められて読んだ『燃えよ剣』を除けば、自分で興味を持って読んだ司馬作品は、この『人斬り以蔵』が初めてだったような気がする。 同時期には『リア王』『ジキル博士とハイド氏』も図書館で借りて読んでいたし、映画『ヒトラー ~最後の12日間~』は2回借りて2回見た。 人間の闇の面、あるいは悪人の人間的な面を描いた作品に興味を持つのは、今に始まったことではないらしい。
中外製薬の会社説明会参加のため、はるばる東京まで出向いた帰り、久々にこの本を読んでみた。 彼の純粋さ、それゆえの残酷さ、そして悲惨な最期が妙に頭に残る。
幕府に逮捕されて土佐藩士を名乗れば、土佐藩からは知らないと言われ、無宿人として京から追放される。 しかも追放されたその場で勤皇党を弾圧していた土佐藩に逮捕され、師匠の半平太からも口封じのために毒を盛られる。 以蔵も残酷だが、半平太や土佐藩はもっと残酷なような気がする。 彼を正そうともせず、かといって最後まで守りとおそうともせず、ただ、彼とその才を利用するだけ利用しただけ。 (そういえば星新一の『ライオンとネズミ』も、ライオンに利用されるだけ利用されるネズミの悲劇として描き、 最後に『これが人生』としめていたな。)
それでも最後に、半平太の罪を自白することで、『勤皇党と半平太を最後に支配した』のが救いか。 そしてゆがんだ形の行動に出たとはいえ、尊敬すべき師と確固とした考えを持っていたころが、彼の春の夢だったかもしれない
僕も一人旅をして、東京の空気を吸って、なにやら春の夢を味わったような気分 中外製薬の説明会では最後に試験を受けた。 やるだけはやったが望みは薄い。 でも悔いはない。
今や完璧な就職先はないがやりがいとお金(旅をして色々なものをみてみたいし)に重点を絞ろうかと考えているこの頃。 何だか司馬遼太郎の『街道をゆく』を読みたくなってきた。
昨日は本当に春の夢を見たような気がするが、 大学院で研究しているのも、春の夢かも。
龍馬伝の感想は日をあらためて。
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